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書でたどる良寛の足跡 /駒澤大学禅文化歴史博物館

 良寛さんといえば、やわらかな書風だとか、子どもらと鞠をついて遊ぶ姿、貞心尼との老いらくの恋といったイメージが先行する。そんなこともあって忘れがちだが、彼は若き日に厳しい修行を積んだ曹洞宗の禅僧で、行動の根本には教えの実践があったのだった。
 美術館や記念館の展示では良寛個人の作品や人となりが中心となるところ、そこは曹洞禅の研究の場として建学された駒澤大学の附属博物館。「書でたどる良寛の足跡」展は、ひと味違った硬派な展示となっていた。

 良寛の書は館蔵品4点、個人蔵3点と、けっして多くはない。
 本展はこれらを軸として良寛さんの生涯を時系列で紹介していくもので、逆にいえば、7点でも足跡がたどれるような設計になっていた。館蔵品は、幸いにも制作期がある程度ばらけている。不足を補う形で数点を借用してリストに加えれば、バランスのよい展示構成にできるのでは……そんな構想の発端が垣間見えた気がした。
 点数が絞られているゆえ、一点一点と向き合って鑑賞できたのもよかった。妹に宛てたかなの礼状や、弟からもらった「不用」の花入をこっそり人に差し上げようとする手紙などは、内容も含めて味わい深いものであった。
 そこに「禅文化歴史博物館」らしい仏典などの資料やパネル解説を交える。明治時代に駒澤大学の創設に関わった禅僧たちのなかには、幕末に生きた良寛さんを直接知る人もいたのでは、とのこと。曹洞宗の系譜に連なる禅師としての良寛像は、書を主体に観てきたわたしにとっては新鮮だった。
 パネルには現地の写真が豊富に使われていて、旅情をそそられた。いつか北陸新幹線で越後に降り立って、良寛さんの足跡をたどってみたいなと思い続けて早数年。今年ももうすぐ、冬がやってくる。寒冷や豪雪は勘弁したいので、良寛さんを巡る旅はまたもや持ち越しとなるか……

 以上の展示は2階で、1階の常設展示の合間には、良寛さんをとりまく人々の書画が展示されていた。
 父や弟、師友、同時代を生きた仙厓義梵、風外本高らの画僧の作もあった。出光美術館が長らく閉まっているため、仙厓さんを観たのはずいぶん久しぶり。虎渓三笑の図。もう、かわいくてしかたない。

 この博物館じたいは2度めで、以前も良寛さんの書を観に来たのだった。
 今度は、同じ最寄り駅の向井潤吉アトリエ館(この日は休館日)と一緒に訪れたいものだ。









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