見出し画像

月の法善寺横丁 :1

 織田作之助原作・豊田四郎監督の映画『夫婦善哉』を観た。
 神保町シアターの淡島千景特集で年初に掛かっていたのを逃してしまい、やむなくアマゾンでの視聴となったが、これはぜひスクリーンで鑑賞したかった……惜しいことをした。
 そう思ったのは、たびたび登場する法善寺横丁の光景がまことに情趣に富み、すてきだったから。

 大阪の花街の一角にある法善寺横丁は、その名のとおり、法善寺というお寺の門前をなす小径。
 石畳の道が法善寺の敷地を貫いて、そのまま生活道路になっており、境内は24時間常に開放されている。わたしがいた短いあいだにも、提灯の下に足を止めて手を合わせる人が、入れ替わり立ち替わり訪れた。
 遊興の場たる夜の街と、信仰の場たるお寺とがしっとりとよく馴染み、境目がみえない。なんとも心惹かれる空間であった。

横丁からシームレスに境内へ。いつのまにか寺の中だ
左が金毘羅さん、右がお不動さん

 映画の法善寺横丁は大正の頃を再現したセットだったようだが、そのままとまではいわずとも、近い雰囲気はいまも健在。映画を観るより先に現地へ行っていたわたしは、訪れた際の感触や位置関係を思い返しながら画面に見入った。
 その日は朝方に「金閣寺が雪化粧」との報もあったほどで、夜の大阪も、雪がちらつきそうなくらいに冷え冷えとしていた。石畳の湿り気から、雰囲気が伝わるかと思う。まさに、映画のラストシーンに近い時季・天候・時間帯だったのである……

 ――すっかり回想モードに突入してしまったけれど、わたしが法善寺横丁へ行ったのは割に最近で、昨年末の話(ほんとうに最近)。
 心斎橋の「エスパス ルイ・ヴィトン大阪」で現在も開催中のゲルハルト・リヒター「Abstrakt」のために来阪した折のことだ(展覧会についてはまた別の機会に)。

 ルイ・ヴィトンから数分歩き、グリコポーズの巨大サインを横目に戎橋を渡って「道頓堀今井」へ。鴨のおうどんをいただいた。

 道頓堀今井の脇を入ると、映画にも登場した「夫婦善哉」の店がある。

 この時点で原作小説にも映画にも触れておらず、かつ「鴨のおうどん」で満腹中枢が満たされていたために、あえなく素通り。
 まあいい、楽しみはまた今度としよう。同じく映画に登場する自由軒のカレーライスも、まだのことであるし(以前うかがった際は、オムライスと串カツのランチにした)。

 人っ子ひとりがやっと通れるくらいのこの小路を抜けて右に折れると、先ほどの法善寺境内に入っていく。(つづく


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?