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所蔵企画展:風景 What a Wonderful World!:2 /メナード美術館

承前

 メナード美術館の今回の展示では、西洋絵画、近代の日本洋画と陶磁器が並んでいた。基本的に1作家あたり1点で、総数にして70点ほど。
 ワンテーマで一本筋の通った展示もよいが、こうした多ジャンル横断の “ごった煮” 的な展示もまた、わたしの好むところだ。
 複数の館をめぐる際には、あえて他分野のものを取り合わせたがる傾向もある。
 午前中は名古屋市博物館で「大雅と蕪村」展を観るから、内容のかぶらないメナード美術館の展示はそういった意味でもたいへん都合がよかった。これで丸一日ぶん、スケジュールが固まったわけだ。

 メナード美術館を目指したのには、もうひとつ理由がある。
 そこに行かなければ、そうそうお目にかかれないような作家の作品をいくつか所蔵しているからだ。

 ひとりはジョルジョ・モランディ。
 机上に容器を寄せ集めただけの絵ばかり描いた、わたしがいちばんすきな外国の画家。日本でモランディを所蔵している館は、大阪の国立国際美術館とここくらいなのである。
 今回のテーマは「風景」だが、別枠で名品選の部屋もあり、モランディはそちらに展示されていた。
 細めの絵筆でするっと、短い直線を「置いて」いく。描くというより「置く」だ。
 そうして築かれていった絵筆の跡が、やわらかな静謐を醸す。モランディの前に立った瞬間に、無音がはじまるのだ――国際美術館以来の、モランディと過ごす時間。これだけでも、小牧まで来た甲斐があったというもの。

 もうひとりはロシア生まれの画家、ニコラ・ド・スタール。
 といっても、はっきりいって知名度は低い。日本での所蔵館は、愛知県美術館、福岡市美術館とここメナード美術館くらい。メナードでは3点も所蔵していて、そのうち2点が展示に出ていた。
 極太の筆で大味に描かれた、思いきりのいい絵。いっぽうで、どこか寂しい雰囲気も漂う。モランディとは180度違う個性だ。

 ムンクやマグリットといった国内での所蔵例がそう多くない作家もあるし(マグリットは3点)、寡作で夭折した有元利夫の油彩も複数収蔵、うち1点《二本の木の間》が展示されていた。
 ムンク《浜辺の風景》は新収蔵品で、今回がお披露目。
 水分をたっぷり含んだ色がにじみ、わさわさ、さわさわと落ち着くことのない、動きのある風景画だ。メナード美術館ではこうしてほぼ毎回なんらかのお披露目がされており、いまも積極的にコレクションを増やしている。

 他にも思いつくまま挙げると――ルオー次いでルドンという、神秘・幻想を感じる2点の横並び。軽やかな音楽のように明るく、思わずにこっとしてしまったマティス《コリウール風景》。「こんなのありかよ!」と叫びそうになった、マッチ箱サイズの熊谷守一の油彩――などなど、バリエーション豊かな作品たちによって、めくるめく愉しい時を過ごすことができた。
 ここまでに挙げた作品もそうなのだが、とくに牛島憲之、安井曾太郎児島善三郎あたりに象徴されるように、メナード美術館に所蔵される作品には、ほんわかとした明るさを感じるものが多いように感じられた。
 旅の最後、疲れを感じはじめた身にとっては、誠にいい塩梅の鑑賞体験となった。

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