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男・ミュシャ ミュシャ グラフィック・バラエティ /うらわ美術館

 うらわ美術館のミュシャ展に行ってきた。
 予想に違わず観客の大半は女性で、年齢層も低め。男性の姿が認められても、そばにはかならず連れ合いがいるといった状況である。そんな会場を男、しかも大男がひとりで闊歩するさまは、よほど異様に映ったことだろう。
 世の女性から圧倒的な支持を受け「おしゃれな乙女のアイコン」とでもいえそうなミュシャであるが、画家本人の性別はれっきとした男性である。
 誤解を承知のうえで、勇気を出して言いたいことがある。わたくし男性の目に映ったミュシャの女性像は、艶めかしかった。乙女のみなさんには申し訳ないが、高度に理想化された美の結晶というより、男性視点から見た女性像になっているなあというのが、偽らざる感想だ。

 このミュシャ展のタイトルは「ミュシャ グラフィック・バラエティ」。誰もが想像するようなポスターやタブローにとどまらない、ミュシャの多様な仕事ぶりの紹介に力点を置いている。最初にずらりと並べられたメジャーどころのポスターの名作群は導入部で、本当の意味で見てもらいたいのはそのあと、ということになる。
 ポスターの次の展示室に出ていた書籍・雑誌の装丁は、うらわ美術館が展示の核としているテーマのため力が入っていたが、最後の部屋がさらに興味深かった。
 お菓子や香水などのパッケージからレストランのメニュー表、切手、紙幣まで、ミュシャがデザインしたありとあらゆる小物が展示されていたのだ。原画ではなく、量産化された実際の例だということがとりわけおもしろい。当時の人々の生活にミュシャのデザインが浸透していたさまが、手に取るようにわかるからである。そのまま復刻すれば話題になることうけあいだし、長く売れそうだとも思う。

 展示の冒頭に並んでいたポスターは、もとはといえばある商品をPRするための商業ポスターであった。街行く人々の目を引き、釘付けにすることが必須条件として求められていた。最後の展示室の各種パッケージに関しても、言わずもがな。その目的を満たすには、魔性の艶めかしさを醸し、人を惹きつける魅惑の女性像、いわゆる「ファム・ファタル」を描く、モデルを「ファム・ファタル」らしく描くといったことこそが有効であったのだろう。
 ミュシャはそこに、うねるような草花の意匠を取り合わせた。草花は女性像を引き立てているようにも見えるし、女性像と草花が融和し、平面的に同格化されているようにも見える。感じ方は人それぞれだろうが、いずれにしても旺盛な生命力を感じさせるうねりの線もまた女性の「妖しさ」をいや増しているのではと、そんなことを思うのであった。


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