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ライトアップ木島櫻谷 ―四季連作大屏風と沁みる「生写し」/泉屋博古館東京

 近年、スポットが当たる機会が増えつつある京都の日本画家・木島櫻谷(このしま・おうこく)。
 櫻谷の代表作を所蔵する住友男爵家のコレクション・泉屋博古館は、再評価の台風の目となっている。その流れに棹さす展覧会である。
 代表作とは「四季連作大屏風」と呼ばれている《雪中梅花》(冬)、《柳桜図》(春=下図)、《燕子花図》(夏)、《菊花図》(秋)の4作を指す。いずれも大正中期に、大阪・天王寺の住友家本邸を飾るため制作された屏風だ。

 これら4点に《竹林白鶴》(大正12年)を加えた5点もの六曲一双屏風を、ガラスケースの三方に大展開。中央のソファに腰かけると、めぐりめぐっていく四季を一望のもとにできるかのようであった。
 残るもう一方を床の間のしつらえとして、櫻谷の師・今尾景年の大幅(たいふく)《深山懸瀑図》(明治時代  泉屋博古館東京)を掛けるという、師が弟子を控えめに見守るかのような演出も、たいへん心にくい。
 突き当りのケースを占めるのが《燕子花図》(大正6年)。これのみ、撮影可能だった。どうしても、ちょうどいまの時期にお出ましになる光琳の本家本元と比べてしまい、月並みに映ってしまうのは仕方なかろう……

 ただし、日本画の岩絵具とは思えないほど「ねっとり」「べっとり」とした感触があることは、上の拡大図によって実感いただけるかと思う。
 この「油彩画のような筆触」は「四季連作大屏風」に共通してみられる特徴。《雪中梅花》の枝にからみつく雪、《柳桜図》に咲き誇る桜の花、《菊花図》の紅白の菊などがそうで、写真では伝わりづらいものの、かなり攻めた表現がなされていた。
 遠目でみれば、琳派だとか、やまと絵の流れを汲む江戸初期の装飾的な金屏風だとかが直接の先祖だろうなと感じさせる。
 いわば、わかりやすく「きれい」で、ともすれば何も考えなくとも、頭を空っぽにしてもそう思える絵ではあるのだが、その実、近代らしい攻め攻めな姿勢も本作にはみられるわけだ。

 次なる展示室では、櫻谷が連なる円山派・四条派の絵画と櫻谷の作品を並べ、円山派の加筆的、四条派の減筆的な表現が櫻谷にどのように受け継がれているか検討。
 愛らしさに胸を撃ち抜かれ、絵はがきを求めた《葡萄栗鼠》(部分。大正時代  泉屋博古館東京)。

 毛並みを細かく描きだし、柔らかなリスの肢体をよく写生しえているいっぽう、葡萄の葉の表現は簡略で洒脱を醸す。
 前者が加筆的、後者が減筆的な表現といえ、本作はそのミックスだと理解できる。

 櫻谷が近年人気を集める最大の所以こそが、このような動物画である。
 リスの部屋から次の最後の展示室にかけては、動物画が充実。個人蔵など借用品の割合も増えていった。得意のタヌキにオシドリ、子犬、水鳥、ライオン、トラ、イノシシにシカ……などなど。
 なかでも《獅子虎図屏風》(明治37年〈1904〉 個人蔵)は、雄々しい猛獣が相対する大作。ライオンの図に関しては同時代の竹内栖鳳も同じように描いているけれど、櫻谷によるこちらのライオンの毛描きや実在感はすばらしく、甲乙つけがたい。

 櫻谷は京都市動物園や寺社の境内で、動物の観察やスケッチに励んだという。会場では、京都市内の旧邸・櫻谷文庫にいまも残る写生帖720冊から、動物のスケッチ数冊分が展示されていた。
 本法寺で描いたと記されている、イノシシの写生。本法寺には摩利支天堂がある。摩利支天が乗る霊獣・イノシシが境内では飼われており、櫻谷はそれを写生したわけだ(摩利支天堂の前には狛犬ならぬ狛猪がいる)。

 ——「四季連作大屏風」から動物画まで。京都画壇の系譜を抑えつつ、櫻谷の魅力をコンパクトに把握できる展示であった。5月12日まで。


 ※京都市動物園ではもう、トラもライオンも観ることができない。動物福祉の観点から、飼育をとりやめたのだという。これも時代の流れか。



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