ジョルジュ・ルオー― かたち、色、ハーモニー ―:3 /パナソニック汐留美術館
(承前)
今回のルオー展・最後の部屋に展示されるのは、画業終盤の作品である。
「旅路の果て」という章名がよく示すように、悟りを開いたような法悦の境地に、ルオーはたどり着く。わたしがいちばんすきなルオーは、この時期の作品。室内にある9点すべて、ことごとくマスターピースであった。
そんなこの部屋が、なんと、まるごと撮影可能となっていた。
美術展における撮影の是非についてはいろいろと思うところがあるのだけれど、自分のスマホに閉じ込めて持ち帰りたいと思える作品やカットのみに絞って、ありがたく撮影させてもらった。
もちろん、写真撮影が大目的ではなく、絵を観に来たわけであるから、鑑賞のほうを最優先にしてはいる。
戦争への怒りや哀しみを超えて、その先へと進んだ作家の姿。
ポンピドゥー・センター所蔵の作品は同館のすばらしいアーカイブを中心に、パナソニック汐留美術館所蔵の作品に関しては筆者撮影のつたない写真によって、数点ではあるがお裾分けさせていただくとしたい。
ラストの1点は、師・モローの作品とともに、このたびパナソニック汐留美術館の新たな収蔵品に加わった《クマエの巫女》(1947年)。
近年までパリの個人蔵だった作品で、2020年の「ルオーと日本」展でも紹介されたもの。
純朴ななかに、まっすぐな篤心をたたえた少女。少しほぐれた感触を残して、展示を観終えた。
——さて、本展のなかで触れられることはなかったものの、ルオーとアンリ・マティスは、若き日に同じモローのもとで学んで以来、終生親交をもった間柄だ。
東京都美術館では、マティスの久々の大回顧展が開催中。ルオーとマティスの作品が東京で同時期に観られる、またとない機会であった。
このマティス展もまた、ポンピドゥー・センター大改修の恩恵を受けている。
秋から国立西洋美術館で開かれる「キュビスム展—美の革命」もまた同様で、今年のフランス近代美術の注目の展示は “ポンピドゥー・センターさまさま” といった状況である。
じつは、ポンピドゥー・センターの工事は、まだ始まっていない。
当初の計画ではすでに着手されている時期で、それゆえ日本への大量の貸し出しが可能となっていたわけだが、「パリ五輪期間中に休館とはなにごとか」との政府からのお達しがあって、工事開始は延期になったらしい。
国立館はつらいよ……といったところだが、こちらの展覧会企画は、もっとずっと前から動きだしていて、いまさら止められなかったのだ。
ともかくも、無事に来日してくれてよかった。わたくしとしても引き続き、ありがたく、パリからの恩恵にあずかるとしたい。
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