見出し画像

揃い踏み 細川の名刀たち ―永青文庫の国宝登場―:1 /永青文庫

 永青文庫が所蔵する、刀剣・刀装具の名品展である。
 4口もある国宝刀剣がそろい踏み、ゲームを通じて人気が高い「歌仙兼定」が登場……という2点が、本展覧会の最大のセールスポイント。これに、鍔や目貫、笄、小柄といった刀剣をとりまく金工の小品を加えた構成となっている。

 永青文庫の収蔵品のおもしろいところは、熊本藩細川家という大大名家の伝来品をベースとしながらも、近代のひとりの当主による蒐集品がかなりのウェートを占めていることだ。
 文庫の設立者でもある16代当主・細川護立(1883~1970)は、白隠・仙厓など禅僧の書画、中国古陶磁・金石といった分野を買い足し、また同時代に生み出された近代日本画・洋画のパトロンともなった。
 こんにち、永青文庫の著名な所蔵品として挙げられる作品は、近世以前には細川家の蔵にはなかったものが非常に多い。

 そんな護立のコレクション形成のきっかけとなったのが、刀剣であった。
 時に護立16歳。お小遣いを前借りするなどして、蒐集に励んだ。
 武家の名門ゆえもとから収蔵されている名刀も当然あったが、主だった名品は、護立が細川家にもたらしたもの。国宝指定を受ける4口すべてに、「歌仙兼定」も、そうである。
 本展では、護立が書きとめた「刀剣回顧録」という記録を要約し、名刀の入手秘話を各作品ごとに開陳。大いに興味をそそられた。
 細川家に代々仕え、近代にも主家となんらかのつながりをもった人たちのなかには、刀剣の愛好家・コレクターが多かった。護立は彼らとの勉強会をとおして鑑識眼・審美眼を高めていくとともに、名刀を次々と入手するに至った。
 「刀剣回顧録」所載のエピソードには、このような「細川コネクション」を伝っての、あるいはその範囲内での蒐集活動に関する内容が多い。たとえば「生駒光忠」こと《刀 金象嵌銘 光忠 光徳(花押) 生駒讃岐守所持》(鎌倉時代・13世紀 国宝)は、細川家の家老格を務めた小笠原家から譲り受けたものという。
 また護立は、細川家ゆかりの名刀の探求にも注力した。国宝《太刀 銘 豊後国行平作(古今伝授の太刀)》(平安~鎌倉時代・12~13世紀)は、関ヶ原の戦いの講和に功のあった勅使・烏丸光廣へ、細川家初代の幽斎が贈ったもの。それが、めぐりめぐって細川家に戻ってきたわけだ。

 10代・学生時代の開眼という伝説的な早熟ぶり(や家の財力)が注目されがちであるけれど、研鑽を積む場があり、コネクションがあり、家の歴史を補完するという大義名分までも、護立は早くからすでに持っていたことになる。
 名刀の集まる条件は、充分すぎるほどに整っていたともいえそうだ。(つづく)



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?