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イサム・ノグチ 発見の道:1 /東京都美術館

 東京都美術館の「イサム・ノグチ 発見の道」展は、2020年秋に開催予定だったものが、2021年4月からに延期。さらには、4月24日のオープン翌日に、緊急事態宣言で休室。6月1日から再開し、先日8月29日まで開催された。「発見の道」の「開催への道」は、苦難また苦難の「茨の道」であった。
 再開までの期間に、慶應三田キャンパスの萬來舎で作品を観たほか、2018年の「イサム・ノグチ  彫刻から身体・庭へ」展(東京オペラシティ アートギャラリー)の図録を読み返すなどした。
 オペラシティ展は、イサム・ノグチの足跡が系統立てて満遍なく紹介されているとてもよい展示であった。この年に観た展覧会ではベストといってよい。図録のほうも平凡社刊行の図録兼書籍だけあって、読み物として中身が詰まっている。復習・予習にはもってこいだった。
 この「教科書的」にすばらしい(けして皮肉ではない)オペラシティ展と比較すると、今回の都美館「発見の道」展は “鑑賞” に力点をおいたすばらしい展示であったように思う。
 上野の都美館という大きな箱で開催するわけだから、なるべく小難しさは排して、より多く、より広い客層を見据えなければならない。
 イサム・ノグチという作家は、ネームバリューとしては主役を張ってもなんら問題のない存在だが、はたしてこういった抽象的なものが一般受けするか、つまるところちゃんと人が入るのか……個人的にはそのあたりの感覚がわからず不安があったのだが、どっこい、この状況下でも会場は賑わいをみせていた。
 イサム・ノグチを「一般化」するために、本展では “鑑賞” に力点をおく方向性がとられた。それを示す種々の工夫や具体例は、ざっと思いつくだけでもこれくらいはありそうだ。

・作品解説を付す点数やその文字数をかなり絞りこみ、言葉によって多くを語らない
・照明を落とし、一対一の鑑賞に意識を集中できる環境をつくる
・一定の文脈を順になぞるのではなく、どこから観てもよい回遊型
・章立ては3つで、非常にシンプル。各章に分けた理由づけも明快
・撮影可能エリアの作品点数・バリエーションが充実
・冒頭の《あかり》コーナーのような “映える” 仕掛けをし、SNS利用層の取り込みをもくろむ

 こうした試みが奏功したのか、会場には多くの若者や親子連れなどの姿が見受けられ、みなおとなしく、ときに静かに語り合いながら鑑賞をしていた。
 このようなわかりにくそうに思える企画にも人が集まってくれているのを見ると、なんだかうれしくなったと同時に、己の不明を恥じるばかりである。本来見込んでいた入場者数には遠く及ばなかったかもしれないが、中止・延期・休室と泣かされっぱなしだった関係各位の努力が、少しでも報われているといいなとつくづく思う。(つづく


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