見出し画像

攻める、アーティゾン美術館 :1

 通勤途中のこと。山手線の乗り換えホームに降り立つと、アーティゾン美術館の巨大看板がちょうど目の前に現れた。
 現在の展覧会は「はじまりから、いま。 1952ー2022 アーティゾン美術館の軌跡—古代美術、印象派、そして現代へ」。
 名称のとおり、館蔵の名品展だ。

 ブリヂストン美術館時代もよくうかがったけれど、リニューアルを果たしてからはとりわけ気になる展示が多く、頻度が増している。
 展示スペースは、格段に広くなった。広いうえにめまぐるしくジャンルが切り替わるので、館を出る頃にはお腹いっぱい。予約がとれた日には「今日はここだけ」と決め、ハシゴはしないことにしている。
 展示内容の幅も拡がった。現代美術作家の個展が開催されるようになったし、パウル・クレーから日本ではまだマイナーな作家まで、抽象絵画の大コレクションが新たに築かれた。アボリジニーの絵画なんてものも仲間入り(これが非常によい)。
 かつて久留米にあった同じく石橋財団の石橋美術館別館所蔵の東洋古美術も、東京にやってきた。《禅機図断簡》(国宝)、雪舟の《四季山水図》(重文)も含まれる。
 どれも、ブリヂストン美術館時代にはなかった要素だ。

 このあたりの新収蔵品は、昨年開かれていた「STEPS AHEAD」で一挙お披露目となった。どこの美術館でも新収蔵品の展示はすがすがしく、フレッシュな気分で観れて楽しいものだが、ふつうは数点が並ぶ程度。それがアーティゾン美術館の場合は、もうひとつ新しく美術館をつくってしまったくらいの質・量、インパクトになっていた。
 ブリヂストン美術館といえば、印象派などの西洋近代美術、日本洋画、オリエントの考古遺物が三本柱で、これだけでもじゅうぶんに展示を回していけるというのに、石橋財団はまだ攻めるのだ。先へ、先へ……

 このときの展示があんまりすごかったので、「さすがにもう、新収蔵品はあらかた観られたのだろうな」と思いこんでいたけれど、そうではないらしい。
 出しきれなかったもの(出し惜しみしていたもの?)がまだあって、それが開催中の「はじまりから、いま。」でお披露目されるというのだ。

 名品展に出るであろう作品はやはり何度も観ていて(入館料も安くはないので)、今回の展覧会は、正直のところ個人的には押しが弱かった。そこに、新収蔵品の情報が加わってきた。
 あとはその新収蔵品がいかなるものか、わたしの興味をひくものであるかといったことになるのだが……
 観たいものが、あったのだ。それは、山手線の巨大看板でも、ビジュアルとして使われていた。(つづく


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?