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揃い踏み 細川の名刀たち ―永青文庫の国宝登場―:2 /永青文庫

承前

 4口の国宝刀剣をはじめとする日本刀の名品は、3階の最も大きな展示室に集められていた。

 「生駒光忠」こと《刀 金象嵌銘 光忠 光徳(花押) 生駒讃岐守所持》(鎌倉時代・13世紀 国宝)。広くとられた身幅に、流麗な刃文。豪壮にして華麗な佇まいに魅了された。
 「古今伝授の太刀」こと《太刀 銘 豊後国行平作》(平安~鎌倉時代・12~13世紀 国宝)は、ほっそりと伸びた精悍な一振。細身で湾曲の度が強いこの手の古様な姿は、わたしの好みど真ん中である。歌道がらみの由緒も手伝ってか、より優美なカーブと映る。
 「名物庖丁正宗」こと《短刀 無銘正宗》(鎌倉時代・14世紀 国宝)。寸法や姿形はたしかに「庖丁」。しかし、こんなにひやっとする庖丁もないだろう。氷にも似た、怜悧な刃だ。

 正宗の兄弟弟子といわれる則重作の《短刀 銘 則重(日本一則重)》(鎌倉時代・13世紀 国宝)。たなびく霞がごとくに、とらえどころのない沸(にえ)が蠱惑的な逸品。

 第2・3展示室ではご当地もの・肥後金工から、将軍家や大名家の御用達・後藤派による「家彫」、それ以外の金工師による「町彫」まで、精緻をきわめる刀装具の数々を紹介。動物の意匠が多く、またミニチュアとしても楽しめるなど、親しみやすいものが並ぶ。

 肥後金工の代表作例である伝・林又七《桜に破扇図鐔》(江戸時代・17世紀 重文)は、破れた扇と桜という奇抜な意匠。桜の花も散りゆく姿であることを思えば、諸行無常といったことが主題だろうか。「宴のあと」の寂しさも感じる。いずれにしても、卓抜した意匠力といえよう。

 猿猴捉月や芦葉達磨といった定番のモチーフが採用されるいっぽうで、この破扇であったり、あるいは茸と蟹の組み合わせであったりと、関連作例が思い当たらないユニークな意匠が刀装具には散見された。
 なかでもとりわけ珍品と思われたのが、町彫の土屋安親 《茶杓筒図小柄》(江戸時代・18世紀 )。小堀遠州が手ずから削った茶杓《銘 青苔》(畠山記念館)を容れる共筒(ともづつ)の外見を模した小柄である。なんともマニアック……
 おそらくは遠州流で茶を嗜むお武家さんが、特注したものであろう。同門のあいだで、大いに話題の的となったと思われる。いつか、ホンモノと一緒に並んでいるところを観てみたいものだ。

 展示の最後には、護立がレポート用紙にしたためた「刀剣回顧録」の生原稿が出ていた。
 全14回分は活字に起こされ、3年前に出た図録『美の探求者 細川護立』に完全収録されている。以前から気になっていた図録で、この「刀剣回顧録」が最後のひと押しとなり、購入。
 別館の特設ショップでの買い物で、店頭にはいつもより多くの種類のオリジナルグッズが並んでいた。
 鉄は熱いうちにというが、刀剣ブームはまだまだ続いていきそうだ。



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