一人で東南アジアに行った話(シェムリアップで青春を取り戻せ)
前回の話の続きです。
1か国目のベトナムを後にし、カンボジアはシェムリアップへ向かった。予約していたのは友達に勧められた小さな日本人宿で、オーナーも日本人で主な宿泊者も日本人。友だちできるかなあ、なんて期待していたところ、空港から宿への送迎で銀シャリ鰻くん似の男性と相乗りになり、早速友だちができた。よかった。鰻くんとはカンボジアでの3日間、共に過ごすことになる。
◇
宿に着くやいなや私たちはオーナーに声をかけられた。
「二人ともよく来たね!昨日来た人がベンメリア遺跡に行きたいって言ってるから、明日三人で行っておいでよ!トゥクトゥク割り勘すれば安いよ!明日朝5時にここ出発ね!まあ最初はアンコールワット行きたいかもしれないけど、せっかくだし先にベンメリア行ってきなよ!」
突然のマシンガントーク。飛行機で遥々国境を越え、空港からも舗装されていない道をガタガタとトゥクトゥクに揺られやっと宿に到着した今、どっとくる疲れと相手が日本人という安心感、そしてシェムリアップの暑さも相まって、私たちは「はい…」と返事するのでやっとだった。
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翌日、私たちは早朝からトゥクトゥクに乗ってベンメリア遺跡に向かった。なんでも、昼になると中国人の団体観光客がごっそり来るため、朝早く行って昼前には帰ってきてしまおうということらしい。
一緒に向かったのは昨日の鰻くんと、私たちが来る前日にシェムリアップに来たという阿部寛似の男性だ。宿からベンメリア遺跡までは約60kmあり、トゥクトゥクの速度では1時間半かかった。その間に沢山話をして、そこでやっとお互いのことを知った。
鰻くんは関西出身の年下の大学生で、初海外初一人旅らしい。若いのに考え方がしっかりしていて、私はくだらないことを言って呆れられないか終始ヒヤヒヤしていた。関係ないけど地元に可愛い彼女がいるらしい。
阿部さんは一人旅の経験が豊富な社会人で、落ち着いていて淡々と良い声で喋る人だった。当時から外交の仕事をしていて、現在の話をすると、海外赴任した途端コロナで国際線が停止してとある社会主義国に閉じ込められている。めっちゃ可哀そう。
◇
ベンメリア遺跡は11世紀末頃建造されたと推測される巨大寺院で、崩壊が著しく原型をとどめていない。この一切修復されていない廃墟っぽさに私たちの中二心は震え、高ぶった。幼少のころ東京ディズニーランドで初めてトムソーヤ島を冒険したとき以来の興奮だった。
ひとしきり観光を終えて出口へ行くと、可愛らしい子どもが座っていた。まだ何もしていないのに突然チップを要求されたので日本から持ってきていたポッキーをあげた。
それにしても真ん中の君、めちゃめちゃ可愛いけどいくらなんでもフリースは暑くないかい?
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午前中のうちには宿に戻り、昼寝をして日が落ちる少し前ににまた私たち3人は待ち合わせをした。ナイトマーケットへ繰り出すためである。
散歩してみたり、疲れたらトゥクトゥクを拾ったりしてナイトマーケットへ到着すると、そこはお祭りのように賑わっていた。
肉や魚を売っている市場のような場所や雑貨屋さん、小洒落た飲食店。様々なお店がある中で、私が一番気に入ったのはこれ。
店先に並んでいる果物から好きなものを選んで、それをその場でスムージーにしてくれるお店。1$。やすっ。っていうか上のドーム型のところまでギチギチに入ってるやつ初めて見た。ここってスタバでいうところのクリームとかでかさ増しする部分じゃないの。
値切り上手な鰻くんのおかげで安くお土産を買え、海外慣れしている阿部さんのおかげでトラブルもなく伸び伸びと楽しめた。二人とも本当に心強くてありがたい存在だった。
◇
カンボジアに着いて3日目、ついにアンコールワットに行く日。現地で朝日を拝む為、朝の4時出発だった。阿部さんは私たちが来る前日に行ってしまったというので、鰻くんと二人で向かった。
アンコールワットの入場料は36$。え、昨日の夕飯1.5$とかじゃなかった?今日着てるシャツも昨日ナイトマーケットで3$で買ったやつなんだけど。アンコールワットがなかったらこの国の経済どうなっちゃうの?なんて話していたが、実際は36$でも安すぎるくらい素晴らしい場所だった。
まだ早い時間だったため観光客も少なく、一番綺麗に朝日が見えそうな場所を探し、鰻くんと他愛もない話をしながら日が昇るのを待った。「知らない人と知らない場所でこんなに色々話するの、何か不思議だね」というようなことを言ったら、「もう知らない人じゃないっすよ」と言われて、不覚にもキュンとした。
朝日を見たあとはトゥクトゥクで遺跡群を周って、昼過ぎに宿に戻りまた寝た。
アンコール遺跡群もとても魅力的で冒険心をくすぐるものだった。ベンメリア遺跡とは反対にかなり修復が進んでいて、一種のテーマパークのようだった。
◇
夕飯は鰻くんとナイトマーケットでサクッと済ませ、阿部さんも誘ってビールでも飲もう、と宿へ戻った。食事やお酒が飲める交流スペース的な場所へ行くと、阿部さん含め他の同年代の宿泊者が既に8人ほどいて、アンコールビールを飲みながら話をしていた。そこに私たちも加わり、カンボジアのおすすめの場所や今まで旅してきた国のこと、日本での生活などの話題に花を咲かせた。そこにいるのは卒業旅行で来た人、仕事を辞めて半年以上旅を続けている人、来月からアフリカで学校の先生をするという人など様々だった。
お酒の力かその場の雰囲気なのか、私は少しふわふわした気分の中で今まで感じたことない充足感を覚えていた。ベトナムで自由気ままに一人過ごしてきたのとは対照的に、カンボジアでは新しい出会いを楽しみ、人と関わる喜びをかみしめていた。
ちなみにここで出会った人たちとは今も1年に1回は飲みに行くなどしていて、これだけでも私はカンボジアへ行った価値があったなと思っている。
翌日、私は後ろ髪引かれながらも朝早くに出発するバスでタイに向かった。この話はまた次。
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