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ひょうご五国の奇祭事情㊦

 こんにちは。ド・ローカルです。奇祭事情㊤に引き続き、ひょうご五国に伝承される「奇祭」を集めてみました。それでは上記の写真からどうぞ。

たつの市・さいれん坊主

 たつの市揖西町中垣内地区の伝統行事「さいれん坊主」。1441(嘉吉元)年、播磨国守護だった赤松満祐が六代将軍足利義教を暗殺し、幕府に討たれた「嘉吉(かきつ)の乱」を機に、雨ごいと称する隠れ供養として始まったといわれています。
 丸型のちょうちんを先端に取り付けた竹ざおを手に、かねと太鼓の音に合わせ、住民らが地区内を巡ります。8月14日は井関三神社、翌15日は恩徳寺を訪れ、境内で円を描くように歩きます。
 1997年、地元自治会が保存会を結成し、伝統を受け継ごうと毎年続けられており、今では、お盆の風物詩になっています。

(2008年1月8日神戸新聞朝刊)

洲本・おにぎり投げる死後法要

崖の前で一斉におにぎりを放る参拝者=洲本市上内膳、千光寺

 さわやかな春風が吹き抜ける島の真ん中に、先山(せんざん)(洲本市)が立つ。標高448メートル。国生み神話で一番初めにつくられたとされる霊峰は、あの大ヒットゲーム「ドラゴンクエスト」の作者堀井雄二さん(63)の幼少期の遊び場だった。ドラクエの着想も、先山から得たところがあるという。
 ドラクエの勇者の気分で一躍、山頂の千光寺(せんこうじ)へ。
 〝モンスター〟級の石段が現れた!
 「いちだん飛ばし」の技を使った!
 ばてた!
 水を飲んで回復した!
 何とか205段を征服する。境内の外れに、喪服姿の人たちがいた。
 崖の際まで行くと、くるりと背を向ける。何かを後ろ向きに放り投げる。
 のぞき込んでみた。茂みにピンポン球くらいの白い物体が点々と。カラスが、物欲しげに見つめている。
 ―おにぎりだ。

「昔は米が貴重やったから、だんごを投げてたいうことやろう」
 「だんご転がし」と言いつつ、おにぎりを放る理由を、千光寺(せんこうじ)(洲本市)の住職が説明する。淡路島に古くから伝わる葬送儀礼。「高山(たかやま)参り」や「施餓鬼(せがき)」、端的に「おにぎり投げ」と呼ぶ人もいる。
 儀礼といっても、故人の死後35日目に合わせ、親族がおにぎりを放る。それだけ。おにぎりの形は三角ではなく丸、ノリを巻いたり具を入れたりはしない、斜面に背を向けて放る―など、緩やかな決まりはあるが。
 島内各地の高い山で見られ、千光寺はその代表格だ。よく晴れた4月2日は、境内の端にある少し開けた場所から、6組が次々とおにぎりを放った。
 洲本市の会社員の男性は、81歳で亡くなった父の弔いに9人で訪れた。1人ずつ投げるのか、並んで一斉に投げるのか。ちょっとした議論になったが、「どっちでも構わんやろ」と順々にポイ、ポイ。1個余った。鳥井さんが「それじゃあ」と引き取り、ほぼ横向きの状態で、ポイ。終始、和やかな雰囲気が漂う。
 これまでに10回ぐらいおにぎりを放ったという鳥井さん。「意味を考えだしたら『別にやらんでもええやん』ってなる。『昔からやっとるしな』『亡くなった人が気持ちよう旅できたらええな』ぐらいの気軽な感じやから続いてるんじゃないかね」
 父の葬儀では、ひつぎの上に魔よけの刃物を置いた。出棺の際には「この世に戻らず、きちんとあの世に行けるように」と故人が愛用していた茶わんを割った。いずれも都市部では消えつつある習わしだが、特に意識して受け継いでいるわけではない。
                       
 「土着信仰を仏教が取り込んだ例は多い。お盆の墓参りなんかは典型やな」
 岡本住職は、だんご転がしのルーツを民間信仰に求める。死者の霊が山を登る時、行く手を邪魔する悪霊の気を引くために食べ物を投げる―。この伝承がいつしか、仏教で閻魔(えんま)大王の審判を受けるとされる35日目の法要と結びつき、餓鬼への施しで功徳を積む行為になったという。千光寺でおにぎりを投げた親族らは、その足で閻魔大王と六地蔵をまつる境内の「六角堂」へ移動し、別に用意したおにぎりを供える。
 でも、これも諸説の一つ。島内の寺院の多くが真言宗という事情が背景にあるとも言われるが、はっきりしない。
 テレビアニメ「まんが日本昔ばなし」でだんご転がしが紹介された際、発祥の地とされたのが「津名の奥座敷」と呼ばれる東山寺(とうさんじ)(淡路市)。檀家(だんか)がいない山奥の信者寺という点で千光寺と同じだが、文献などは一切なく、やはり起源は判然としない。
 由来はあいまいなまま、根強く残る珍しい風習にも、変化がみられる。
 漁師町の由良(洲本市)では、千光寺でだんご転がしをしていた住民の多くが、約10年前から地元の心蓮寺(しんれんじ)に頼むようになった。近くの山の麓からおにぎりを投げるものの、5メートルほど下は道路。木々がうっそうとした千光寺や東山寺とは大きく異なる。
 「仏さんに疎遠になっとる証しでは」。心蓮寺の住職が苦笑する。千光寺の険しくそびえる石段が、お年寄りにはきついというのが大きな理由だそうだが、「地元で済ませた方が楽」との思いも見え隠れする。
                       
 「ドラゴン何とか? 知らんなあ…」
 岡本住職が、首をかしげる。取材の終盤に、気になっていたことを尋ねてみた。
 洲本市出身の堀井雄二さんと先山(せんざん)との関わり、手掛けたゲーム…。どれもピンとこないようだ。「先山に影響を受けた人はたくさんおるやろうけど、『お世話になりました』って言うてくるわけでもないしなぁ」
 話題は、再びだんご転がしへ。住職がある横文字を唐突に口にした。
 「おにぎりを投げた人の功徳はな、亡くなった人に譲り渡される。おかげで、レベルアップした死後の世界に行けるわけやな」
 …ん?
 「餓鬼への施しは、他者に対する思いやりや。投げた人も、功徳はなくなるけど、精神がレベルアップするわけや…」
 …レベルアップ?
 再び尋ねる。「本当に、ドラクエを知らないんですか」。けげんな顔の住職。「知らんて。ゲームとか、詳しくないんや」
 霊峰に伝わるだんご転がしの謎は、妙な余韻と混ざり合い、さらに深まっていった。

(2017年5月7日神戸新聞朝刊)

丹波市・はだか祭り

激しく体をぶつけ合う男衆=今出熊野神社

 上半身裸の男衆が体をぶつけ合って無病息災を願う「はだか祭り」が、丹波市青垣町遠阪の今出熊野神社であった。腰に白いさらしを巻いた約30人の「裸衆(はだかしゅう)」は、「ヨイサ オイサ」の掛け声と共に足袋で境内を駆け巡り、激しい押し合いを披露した。
 裸衆による神事は、鎌倉時代から続くと伝わり、同神社の秋の例大祭で毎年奉納される。近年はインターネットなどで遠方からも参加者を募っており、今年は小学生から70代までの男性が参加した。
 裸衆は、近くの川で順番に体を清め、4~5人ずつの組に分かれて、駆け足で境内の舞堂に入った。人数は舞堂と本堂を7回半往復する間に徐々に増え、ぶつかり合いも、回を重ねるごとに激しさを増していった。裸衆は最後に、身の守りとして御利益があるといわれるサカキの御幣を、転びながら奪い合った。

(2019年11月4日神戸新聞朝刊)

香美町・伝統行事「山の神」

顔に墨を塗って集落を練り歩く子どもたち=香美町香住区沖浦

 香美町香住区沖浦で、五穀豊穣(ほうじょう)と地区の安泰を願う伝統行事「山の神」があり、顔に墨を塗りたくった小中学生の男の子17人が集落の外れの祠(ほこら)まで練り歩いた。
 室町時代から伝わるとされ、毎年、正月三が日が明けた最初の日曜日に執り行う。山の神は女性で、容姿端麗な人を見ると嫉妬するといい、男の子が墨で顔を汚して参加する。
 子どもたちは額に「山の神」と書いて、眉毛や頰、マスクまで顔中墨だらけに。御幣やわらじ、しめ縄などの供物を持って公民館を出発し、「山の神のお祭りは 大きなお祭りで 大びつに一杯 小びつに一杯 あーらめでたや 後の御福は頼んだ」と唱えながら、県道沿いの祠まで歩いた。
 山の神は食事する姿を見られたくないといい、お供えした後は祠を振り返らずに集落まで戻るのが決まり。小学校5年の男児は「みんな顔に墨を塗って、仮面みたいだった」と話した。

(2023年1月11日付神戸新聞朝刊)

神戸市・山の春告げる花飾り馬

花で飾った馬がパレードし、摩耶山に春の訪れを告げた=神戸市灘区摩耶山町

 人と動物の無病息災を願う「摩耶詣(まやもうで)祭」が、神戸市灘区の摩耶山天上寺などで開かれ、花で飾った二頭の馬がパレードした。摩耶山の春の山開きも兼ねた行事で、約500人のハイキング客らでにぎわった。
 摩耶詣は、農耕シーズンを前に、農家が馬とともに参拝した天上寺で、花かんざしを飾り、土産にコンブを持ち帰るという風習。江戸時代には年中行事として定着し、関西の奇祭として全国に知られていたという。馬を飼う農家が減って大正時代にはすたれたが、地元の観光施設などの要望で四年前に復活した。
 午前10時ごろ、六甲山牧場の木曽馬と与那国馬の二頭が天上寺の金堂前に到着。桜と菜の花のかんざしを二頭の背中に授け、法会を行った。続いて山伏がほら貝を吹き鳴らす中、天女(巫(み)女(こ))らにひかれて約七百メートル南の掬星台までパレード。集まった約百人の写真愛好家らが盛んにシャッターを切っていた。
 会場では、この日だけ復活するという名物料理「摩耶鍋」も振る舞われ、酒かすを使った熱々の鍋に参加者らが列をつくった。

(2007年3月22日神戸新聞朝刊)

<ド・ローカル>
 1993年入社。おにぎりを後方へ放りなげる洲本の法要。容姿端麗な人を見ると嫉妬する「山の神」を鎮めるため、男の子が墨で顔を汚して参加する香美町の祭りなど、㊦も特徴ある奇祭を五国から集めてみました。1年でも長く、祭りが伝承され、各地域で見られることを望みます。取材をしきれていない地域の奇祭はまだまだあるかもしれません。その発見を続けていきたいと思います。

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