主催者発表の数字 あなたは信じますか?
新聞記事には「数字」が欠かせません。神戸ルミナリエの来場者354万人、神戸マラソンの沿道観衆61万人、正月三が日の県内の初詣客646万人、須磨海岸の海水浴客7万人…。あてずっぽ? だいたい? ではなく、きちんと取材をした上で書いている、いわゆる「主催者発表」の数字です。
現在では、スマートフォンのデータを集積し、人流データを把握することが可能になりましたが、私(ド・ローカル)が現場で取材をしていたひと昔前は、こうしたハイテクデータはなく、主催者発表に依存していました。一方で少し疑念を抱いていたのも確かです。
「入場券もないのに一体どのようにカウントしているのか?」
まずは、どんな主催者発表の記事があるのでしょうか。少し古いですが、この記事からどうぞ!
阪神Vパレードに25万人 神戸の街に〝仙風〟
20年近く前のことです。私も沿道観衆の取材に行きました。人、人、人…。沿道観衆が25万人との主催者発表ですが、数えるすべもなく、発表を信じるしかありませんでした。体感的にはそれ以上いたかもしれないと思いました。
続いて政治の世界の話です。人気の党首が来神した際の街頭演説には、街行く人だけでなく、各党の動員も相まってごった返します。一体、どうやって人数を把握しているのでしょうか?
小泉台風 神戸に上陸
コロナ禍の現在では考えられない「密」ぶりです。注目すべきは主催者発表の数です。自民党県連が1万5千人なのに対し、兵庫県警は7千人。2倍以上の差があります。一体どちらが正しいのでしょうか? あまりにも違い過ぎて両方の発表を併記した恰好です。
生田神社に紀香効果? 三が日初詣で18万6千人増
主催者発表による記事を見てきましたが、最後に、その根拠となる計測方法に迫ります。
ルミナリエ、神戸マラソン、初詣の人出どう算出? 警備員の目視、おみくじ、さい銭額… 計測手法は千差万別
入場券がないのに、どうして来場者数が把握できるのか? 神戸ルミナリエでは国土交通省観光庁が例示する調査手法を採用しているといい、「1平方メートル当たりの人数×開催面積」を1時間ごとに足し合わせてその日の来場者数をはじき出すとの回答でした。
会場内やJR元町駅方向に続く行列の途中などに最大15カ所の計測点が設けられており、密度を警備員が1時間ごとに目視で確認。少なければ0・5人、混雑時は4~5人程度という。その数字に警備員が担当するエリア面積を掛け、計測回数ごとに足し合わせるという。
神戸マラソンの沿道観衆の計測手法はルミナリエに似ています。事務局によると、調査は電通(東京)が手掛け、42・195キロの沿線にある観覧可能面積を把握した上で、計測点の密度(何列できているか)や回転数(声援者の入れ替わり)などを目視し、割り出すといいます。
神戸ハーバーランドの「umie(ウミエ)」やJR姫路駅の「piole(ピオレ)姫路」には、いずれも出入り口にセンサー式のカウンターが設置され、入館者数を計測していました。ウミエは18カ所あり、モザイクと行き来する客が全体の2割ほどいるため、重複数となっています。
一方、年明けの一大イベントの初詣。県内最多の参拝者数を誇る生田神社(神戸市中央区)は、「正月三が日の祈祷(きとう)件数やおみくじ販売数、境内の一区画の参拝者密度などを基に、神主が算出しています」。同じ神社でも湊川神社(同)は「さい銭の額を基に、過去の実績を踏まえ、数字を出している」と話しています。
最後に観光庁に尋ねてみました。
「例示手法で実数値を反映できていますか?」
「真の値(実数値)は把握できていません。あくまでも推計値。ただ、これまでの試験調査やノウハウに基づき、目視や映像解析、レーザーなど数種類の方法を例示しています。手法によって誤差の大小はありますが、大きくかけ離れていない数字が出ているのでは…」と回答してくれました。
<ド・ローカル>
1993年入社。数字は大好きです。数が多ければ多いほど、大きなイベントを取材している気になり、うれしく思うのは私だけでしょうか? しかし、冷静に考えてみると、入場券がない大規模イベントの実数値なんてだれも把握できないのでは? との思いがこみ上げ、今回の記事をまとめてみました。