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シン・長田を彩るプレイヤー~僕のガラスアートが未来に残せること~(後編)



前編は吉田さんのガラスアートの向き合い方について、根掘り葉掘りお伺いしました。
作品のさらなる発展を求める姿勢が印象的でした。
後編では、今の長田を吉田さん目線で語っていただきました。
・・・と、同時に有名なあのドリンクについても驚きの事実が明らかになります。


留学で得たもの

-記者-
帰国後イギリスのアーティストの方と交流はありますか?

-吉田さん-
イギリスのコンテンポラリーグラスソサエティー(Contemporary Glass Society:現代ガラス協会)をはじめ、現地の作家やプロジェクト等を通して出会った人達と仲良くさせてもらっています。Naked Craft(日本に海外作家を招くアーティスト・イン・レジデンス事業)を立ち上げ、2015年から英国現代ガラス協会に公募協力を頂いて、日英審査員の投票点数の一番多い方を、隔年で長田へ招待作家として招致してきました。

-記者-
作家として刺激を求め、イギリスの方との交流をされるということでしょうか?

-吉田さん-
動機としては僕が現地へ行きたいことも含みます(笑)
See you again(また会おうね)ってバイバイして2005年に日本に帰ってきたんですけど、その後7年ぐらい音沙汰なく人生を過ごして。
7年に1回だと人生においてあと何回友人に会えるか、と考えたときに10回も会えない、ならプロジェクトにしてしまえば行くだろうと。
イギリスで出会った彼らが、僕にとって財産でもあるので、イギリスをはじめ海外との交流は継続したくて。
コロナ禍による海外渡航の制限が緩和されてきているので、来年、出来ればもう一度、海外から長田へ作家を呼びたいと思っています。
過去に長田でレジデンスを経た人達が、最近ワールドクラスのコンペで入賞したり成長してきてるんですよ。プロジェクトで出会った事がきっかけで新たな別のプロジェクトが立ち上がる事もあって、クラウド的に世界へ拡がることに、手ごたえとやりがいを感じています。マイクロレジデンスを通して、世界の小さなアートハブとして、この長田のまちの、なかとそとが繋がっていくのは面白いと思っています。

現在の長田の状況とは

-記者-
アートでまちを繋ぐということですが、長田をアートのまちにしたいというような思いはありますか?

-吉田さん-
2014年頃、長田文化倶楽部から、ポートランドや北加賀屋を参照したアートビレッジ構想が立ち上がりました。今の長田区は、長田区独自の文化賞選定やcitygallery2320の復活など、自身の活動も含め、アートの現場が育ち始めている実感があります。
ブルックリンやイーストロンドン、モンマルトルの様に、衣食住の安い、治安があまり良くない混沌の場からアートが媒介となる例はあるのですが、神戸市長田区は、首都ではない地方都市の一区域なので、規模感や環境は、バンクシーやビートルズを生んだブリストルやリバプールなど、港湾都市が近いと思っています。

Naked Craft 2018 research of city of Bristol


ブルックリン等は現在、土地の価格が上がって、旧住民が去り、別のまちになった、と聞くので、まちがどこへ向かうのか?気を付けないといけないと思っています。

-記者-
なぜそう思われるんですか?

-吉田さん-
震災後、復興再生の過程を、10代から傍らで観てきて。行政、新旧住民が足並みを揃えることの難しさを体感しています。多種多様な渦の中、まちの中で、競い合う事が復興の力を生むんだけど、そこへ行政のお金がドバーッと投入されたりすると、パワーバランスが崩れて、商売とは別の実態の見えにくい補助金事業が走ってしまう。
事業を走らす為のお金は大事なんだけれど、その時々のバランス感覚と外側から俯瞰で観る事の出来る各分野の専門性や評価軸が大切になると思っています。

-記者-
長田のまちは過渡期みたいな感じなんですかね。
今後、拮抗してる状況がどうなってほしいというのはありますか?

-吉田さん-
人の性(さが)だし、混沌がまちを育てるので、どうなってほしいというよりは、地域の記憶を踏まえて、自分のすべきことに軸足を据えて淡々とやる事が大事だと思っています。

―記者―
長田でいうと震災前後を経験されてると思うんですが、印象は変わりましたか?

―吉田さん―
生まれ育ったまちが丸々燃えて無くなるっていうのは大きなショックでした。

―記者―
特に長田地域の火災の被害はすごかったんですよね。

―吉田さん―
そうですね、今の再開発エリアの大部分が震災の影響で焼けました。
高校1年の冬に震災があったんです。数学とかやってる場合じゃないなと改めて思ったのと、出席日数が足らないって言われても留年する気になれなくて。それなら、もっと美術をやりたい、死ぬまでにやりたいことをやりたいなと高校を中退し、大学受験資格を取りながら、ハプリ美術研究所(美術受験予備校)へ通い美術の勉強をしました。
ただ、当時の環境や迷いの中、あまりモノを造るメンタルでは無くなっていて、10代〜20代前半の作品制作は苦労しました。

作品だけでなく、文化も残す

-記者-
今後やりたいことや夢はありますか?

-吉田さん-
最近、ガラスの制作活動と並行して、家業の取扱いであるガラス瓶飲料と絡めたプロジェクトをしています。
神戸の清涼飲料水、「アップル」とか「ラムネ」っていうのは現在製造が市内一社になってしまって、そこの跡継ぎがいない状態で。
だから後継者を探す活動として、現代のアーティストにこれらをテーマに作品を作ってもらう活動を始めています。大橋地下道にある、震災記録を展示しているWall Galleryでは、Glass Wall Gallery として、新進気鋭のガラスアーティストの作品を定期的に展示しています。ガラスには風化しにくい特性があり、震災を風化させない為のWall Galleryで、清涼飲料水と一緒に、ガラスアートも展示しています。
まちで、造る事のできる環境を、つくれたらと思っています

-記者-
「アップル」に対してはどういうイメージですか?

-吉田さん-
まちに愛されていると思う。最近は長田のソウルドリンクと呼ばれるようになっているし、
思い出募集すると、80通くらい応募があったんですね、そのポスター見ただけで泣けてくるっていう感想も届いたり。長田に限って言うと、ほんと莫大な支持を得てる。
長田・兵庫あたりの支持層が厚くて特に、70代・80代・90代の支持は非常に熱い(笑)
ただ、愛されてはいるけど、駄菓子にせよ、ジュースにせよ、ほんまになくなろうとしてるってみんな思ってなくて。神戸の清涼飲料水は次世代が、現状いない。

-記者-
難しいですね。

-記者-
アップルの普及活動には苦労していますか?

-吉田さん-
淡々と取り組んでいます。
時代へ繋げたい神戸の文化資源、食文化の一つと捉えて、活動に興味ある人達と一緒になにかできないかなと話しながら可能性を模索してますね。

-記者-
それでは、最後の質問です。
あなたにとって、ガラスとは?

-吉田さん-
非常に人間的な素材だと思います。
割れやすくて壊れやすいけど、分厚いガラスはある一定の方向からは非常に強固で、ダイヤ等でないと磨けない。磨くのはすごく大変だけど、丁寧に磨けば光ったり、焼けば溶けて再生したり。

-記者-
そういう目線でガラスを見たことがなかったです!!

-吉田さん-
プラスチックとかもあるんだけど、プラスチックは風化してしまう。
ガラスだと万年単位で私たちの人生スパン以上に長く遺るので、できれば後世に遺していきたいなと思いますね。


いろんなまちに触れてきた吉田さんならではの、多様性を認め、尊重した長田のまちの見解だと思いました。
文化や思いをアートの力で後世に残す。
吉田さんの、更なる発展が今後も続いていきそうです。

(編集:サウスポー)