シン・長田を彩るプレイヤー ~ NO CLIMBING NO LIFE ~(前編)
最近ボルダリングが趣味のあずりゅうです。
今回は新長田駅から北東へ徒歩10分、「BOSSAクライミングジム」の山田さんにお話を伺いました。
クライミングジムで楽しめるインドアボルダリングは、様々な傾斜の壁に取り付けられたカラフルなホールドを使って、決められたコースを登るスポーツです。筆者も1年前に始めて、今では週3回で通うほどの熱中ぶり。
趣味の域を超えてクライミングを仕事にする山田さんはどんな人物なのか?
クライミングの魅力とともに、前後編に分けて深掘ります!
BOSSAクライミングジム
体験クライミング 一般:3,080円 大学生・専門学生:2,860円
神戸市長田区川西通5丁目101-3 共栄ビル西館2階 Tel : 070-4378-6161
詳細は公式ホームページにてご確認ください。
スポーツとは無縁ですね
-記者-
初めに簡単な経歴をお願いします!
-山田さん-
出身は、九州の長崎県佐世保市。大学は高知県へ進学、伊丹市で就職しました。
-記者-
少年時代はどんな学生でした?
-山田さん-
普通でした。小学生の時、リコーダーを吹くのが好きで、中学から吹奏楽部に入ってサックスを吹いていました。スポーツとは無縁ですね。
-記者-
大学でも吹奏楽を?
-山田さん-
そうですね。部活やサークル、地元の楽団にも通ってました。
-記者-
失礼ですが、ご年齢はおいくつですか?
-山田さん-
47です。
-記者-
え、全然見えない!
いつからクライミング始めたんですか?
-山田さん-
いつの間にかですね。
-記者-
なるほど、当時はどんな仕事を?
-山田さん-
エンジニアです。機械で実験したり、半導体の中のパーツをいじったりする仕事。
そんな中、個人的にできる趣味ということで、まずは登山を始めたんですよ。
そこからクライミングジムがあるということを知って、行ってみたら全然登れなくて、すごく悔しかったな。
最初は週1のペースで登りに行っていたのが、いつの間にか週4~6に(笑)
-記者-
かなりハマってますね(笑)
一歩前進してる感覚
-記者-
当時、仕事や趣味は全部伊丹市で?
-山田さん-
伊丹市近辺ですね。クライミングでいうと、西宮市のOLD BUT GOLDっていうジムに通ってました。
最初は全然登れなくてね。
「あいつめっちゃ弱いのに何回も来てるわ」って思われてたかもしれません(笑)
-記者-
最初、筋肉痛になりませんでした?
初めて行ったとき3日間くらいずっと痛くって。
-山田さん-
もう2週間くらい痛かったですよね(笑)
初日は5時間ぐらい登ってました。めっちゃハマったんですよね。
-記者-
僕もまったく一緒です(笑)
-山田さん-
そうですよね!
全然登れないし、なんか簡単そうに登るおじさんいるし。
-記者-
最初はそういう人の動きを真似て、だんだん登れるようになってきた時には、もう引き返せないですよね。何がこんなにハマらせるんでしょうかね。
-山田さん-
なんでしょう。達成感なのかもしれない。
できなかったことができる感覚。一歩前進してる感覚。
社会人になってからなかなか得る機会がないですけど、仕事とかに比べればまだ手軽じゃないですか(笑)
仕事で俺前進しているっていう感覚、あんまりないですよね。
今までスポーツも大してしてなかったんですけど、初めて自主的にスポーツが面白いなって感じた経験でした。
-記者-
すごくわかります。
前よりうまくなってるって手軽に思えるところ、またその変化が楽しいですよね。
-山田さん-
ただ、筋肉痛にはなるんで、手軽と言えるのか怪しいですけど(笑)
何かを自分でやってみたい
-記者-
クライミングを初めてどれくらいでジムを開業したんですか?
-山田さん-
多分8年ぐらい。僕のジムが8周年だから合計16年ぐらいは関わってるのかな。
-記者-
開業のきっかけはなんですか?
脱サラしてクライミングジムを開業するのは、勇気がいりますよね。
-山田さん-
そうなんですよね。開業のやり方も全然わかんないし。
きっかけは、「何かを自分でやってみたい」っていう想いがあったからかな。
-記者-
学生時代から何か事業をしたいっていう想いがあったんですか?
-山田さん-
それはなかったですね。クライミングに出会って起業したいと思い始めたのかもしれないです。
勤めている時も、自由にやらせてもらってはいたんですけどね。
自由な職場だったので「何かやってみようかな」って思えたのかも。
-記者-
自分で自由に幅を利かせられる仕事の経験があったからこそなんですね。
BOSSAはいつぐらいからアイデアとしてあって、どれくらいの期間で開業に至ったんですか?
-山田さん-
2年ぐらい。場所の調査をしたのが1年ぐらい。
-記者-
なぜ長田で?
-山田さん-
立地だとか、人の多さだとか、アクセスの良さを調べていたんですけど、物件が関西中探しても全然なくて。
-記者-
じゃあ、たまたま見つかった場所が長田だったということですか。
-山田さん-
ですね。地下鉄とJRと山陽があるっていう立地の良さ。
正直、長田を盛り上げたいという気持ちはなかったです。
クライミングって
-記者-
ボルダリングは、スポーツクライミング3種目の一つということになりますよね。読者の中には初めてっていう方もいるので、少し競技の説明をしていただきたいです。
-山田さん-
そうですね。クライミング(※) っていうのは、ほかのスポーツで例えたら陸上ですね。 短距離走がスピードクライミング。世界共通で設定されたコースをどれだけ早く登り切れるかを競います。 長距離走がリードクライミング。6分以内にどの地点まで登れるかを競います。 そしたらボルダリングは何なんだって感じですけど。パズル的要素があるから、障害物競争みたいな感じですかね。そんなに高くない壁に配置された課題を少ない挑戦回数でどれだけ多く登れるかを競います。
※JOC「スポーツクライミング」https://www.joc.or.jp/sports/sport_climbing.html
-記者-
わかりやすいです!
-山田さん-
そのボルダリングの中でも、室内でしたり室外でしたりするものもある。
室外はアウトドアボルダリング、外岩、岩場って言われてる。大きめのマットを担いで山の岩の下に敷いて登ります。
-記者-
その外岩って室内のようにテープとか貼ってないじゃないですか。どう登るんですか?
-山田さん-
そう、貼ってないんですよ。トポっていう岩場の情報冊子があるんですけど、山やエリアごとにマップがあって、そこにどんな岩があって、どういう登り方をすればあなたのグレードは何級ですよっていうのが書いてて、これを見て登るんです。
課題にはそれぞれ名前があって、一番最初に登った人がその課題の名前を決めていいんですよ。
-記者-
へぇ、最初の人に命名権あるんですね、星みたい!
山田さんのはないんですか?
-山田さん-
そんなのないですよ。僕はもうトポ見て行ってるんで(笑)
-記者-
トポは誰が制作してるんですか?
-山田さん-
これはね、ルート開拓(※) してるクライマー。
例えば、小山田大 (※)っていうプロクライマーがいるんだけど、その人は主に開拓をやってて、その市町村や地権者と交渉して情報を公開していいかっていうのを相談して、許可が下りればこういう本に出してるんだと思いますね。
ただ、開拓をして出版する以上、課題を楽しめるための整備もしないといけなくて、自己責任とはいえど、その課題でケガをしたら訴えられたりもするんですよね。
※ルート開拓:岩や崖に新たな登り方を見出し、課題として整備すること。
※小山田大:鹿児島県出身のプロフリークライマー。国内の高難度課題の開拓をはじめとし、世界中で成果を残す。多くのメディアに出演し、日本におけるボルダリングの普及に貢献。
-記者-
整備って具体的には?
-山田さん-
ボルダリングだと岩の苔を取るとかですけど、リードになると、ロープを取り付けるアンカーを岩にボルトで固定したりですね。
-記者-
なるほど、初めて知りました!
クライミングの種類をたくさん紹介していただきましたが、山田さんはどれが一番好きですか?
-山田さん-
ジム経営しててこう言っちゃダメなんですけど、外で登る方が楽しい。
近場でも西宮に11月くらいからシーズン始まるところがあるから、もし可能やったら行ってみてください。
-記者-
行ってみたいです!
でも岩場に行くような人ってとても強いから、僕ももう少し実力付けてから行きたいですね。
クライミングジムって
-記者-
ルートセット(※) については全くの無知なんですけど、山田さんがどこに置くかっていうのを全部考えて作られているんですか?
※ルートセット:傾斜のついた壁に、ホールドと呼ばれる人口の石を取り付け、課題を作ること。
-山田さん-
セッター(※) っていう方と一緒に作ってますね。僕はもうそんなに強くないから難しいやつは作れないけど、どこにどのレベルのやつを置くのかっていうのをこういう紙に書きながら、偏らないように配置を考えてます。あとホールド(※) の色をかぶらないようにして。
※セッター:ルートセットを行う人。
※ホールド:クライミングジムの内壁に取り付けられる色・形・サイズが様々な突起物。
-記者-
作るのにどのくらい時間がかかるんですか?
-山田さん-
結構これが大変で、もう朝9時ぐらいから始まって、終わるのが夜の11時ぐらいとかですね。それが2日間くらい。
-記者-
長丁場ですね。
-山田さん-
またそれを仕事にしてる人もいますね。めちゃくちゃ強いだけじゃなくて、頭も良くないと作れないんですよね。だから作れる人は限られてますね。才能ですよ。算数とか数学の問題作るみたいな感じですかね。
-記者-
結構大きいホールドが多いですよね。
-山田さん-
そう、大きいのはレンタル品。同じジムに同じホールドがずっと使われてると、その使い方がみんなわかっちゃう。だから定期的に毎月違うやつを借りてます。今は、ちょうどコンペ(ボルダリング大会)があったんで、結構大きいのが来てるからいつもよりさらに豪華になってますね。
-記者-
なんか大きすぎて掴むところが見つかりません(笑)
-山田さん-
そうそう、でっかいやつは掴みにくい。でもだんだん力のかける方向がわかってきたら掴める。例えば、あのでっかいやつはピンチ(※) でぐわぁっと挟む感じ。もうカニみたいな感じ。
※ピンチ:ホールドを指でつまむこと。他にもガバ、カチなど様々なホールドの持ち方がある。
-記者-
ちなみにBOSSAでは何級から何級までのグレードの課題があるんですか?
-山田さん-
うちには8級から2段まであるんですよ。たまに県の代表の方も来てくださるので、そういうレベルの高い人でも楽しめるように。
でも2時間くらいで全部クリアしていく(笑)
-記者-
それはそういう人が来ることも考慮して、セッターさんに特別難しい課題も作るようにオーダーするんですか?
-山田さん-
そうそう。強い人たちは登るものがなくて困ってたりする。とはいえ商業ジムだから課題が強すぎても、利用者は増えないし売り上げにならない(笑)
クライミング業界としては、上級者の上達もしっかり考えて強い人を掴んでいきたいけど、そのバランスが難しいですよね。
スポーツクライミングは東京2020オリンピックで採用され、世界で活躍する日本人選手も数多く、近年急速に普及が進んでいます。
大人から子供まで楽しめるボルダリングは、街中のジムで手軽に体験でき、筆者もその虜になった一人です。
本記事を通して、読者の皆さんの興味が少しでも湧けば幸いです。
後編では、山田さんの仕事や地域に対する想いを紐解いていきます。お楽しみに。
(編集:あずりゅう、ひより)