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創作

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#掌編小説

(創作)ぼくの知る街

 夜九時の各駅停車に乗る。ぼくが降りるべき駅まであと四駅だ。ひと駅停車するごとに、今日のことを思い出した。
 退屈なこと、楽しいこと…。割合はどちらの方が多いのだろう。少なくともいまのぼくは退屈だ。なら退屈さが一日のうちでいちばん優っていたのかもしれない。ゴムの紐がたわむように、列車につられてぼくの肩が揺れた。ようやく、仕事が終わったことに気がつく。
 列車がどこか見知らぬ場所に向かって走り出すと

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(創作)大きな犬

    -犬にまつわるひとつの断片-

 タロウの寝床が冷たくなって、二十四回目の朝がやってきた。いつもなら散歩のために早く起きなければならないマサルは、三十分も遅く寝坊してしまい、危うく学校に遅刻しそうになる。五年も一緒に住んだ飼い犬だ。愛犬を失った悲しみもあるが、もう面倒を見なくてもいいという浅はかな安心感が彼の眠気を増大させた。布団から飛び起きると急いで服を着替え、朝食も食べずに歯を磨き、ラ

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(創作)眠れないまま思うこと

 どこからか、水の流れる音がしてした。雨が降っているのかな。明日の朝のことについて考えると、たまらないくらいに心臓の鼓動が大きくなった。とん、とん、とん、と首筋を通って私の耳にふるえが伝わってくる。明日まで雨が降っていたら、登校するとき傘を差さなくちゃならない。水気で重たくなった前髪を想像した。先月に雨が降ったとき、雑巾みたいに髪の毛の束を絞ったら、雫がぼろぼろ落ちてたな。あのときは傘を差してたっ

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