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こべこべ
2024年5月22日 23:32
-犬にまつわるひとつの断片- タロウの寝床が冷たくなって、二十四回目の朝がやってきた。いつもなら散歩のために早く起きなければならないマサルは、三十分も遅く寝坊してしまい、危うく学校に遅刻しそうになる。五年も一緒に住んだ飼い犬だ。愛犬を失った悲しみもあるが、もう面倒を見なくてもいいという浅はかな安心感が彼の眠気を増大させた。布団から飛び起きると急いで服を着替え、朝食も食べずに歯を磨き、ラ
2024年5月15日 00:47
私が喋らなければいけないことに気づいたのは、観客の視線が一挙に私へ向いたときだった。白熱したスポットライトが体に当たった。火照った顔の内側で必死に次のセリフを思い出そうと努力するが、それは徒労にすぎず、もはや直前まで自分自身が何者だったのかも思い出すことが難しかった。私は誰だろう。これから何をするつもりなのだろう。そう何度も反芻するが、心臓の鼓動は早すぎる時計のように私の気持ちを急がせている。