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百物語 第三十一夜~第四十夜

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百物語 第三十一夜から第四十夜までをまとめたマガジンです。
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#小説

百物語 第三十一夜

もう五年前のことだが、一度だけエレベーターに閉じ込められたことがある。
当時住んでいたマンションのエレベーターで、台風による停電が原因だった。

人生に一度あるかないかの体験なので、正味五分も閉じ込められてはいなかったが鮮明に覚えている。

その時エレベーターに不運にも閉じ込められてしまったのは私だけではなかった。同じマンションに住んでいる50代と思われる男性も私と一緒に閉じ込められてしまった。

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百物語 第三十二夜

僕のお父さんの話です。

こういう言い方が正しいのかどうかわかりませんが、お父さんは、あまり信心深いひとではありませんでした。

例えば、法事のときにあからさまな普段着で出席するだとか。お葬式終わりにパチンコをして帰るだとか。仏壇のお供え物を片っ端から食べるだとか。そういうことを平気でしてしまうのです。

しきたりや言い伝えを重んじる田舎にあっては、珍しいタイプでもありました。



―――お盆

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百物語 第三十三夜

 

去年、母校の小学校が廃校になった。
私と同級生や同じ学校へ通った先輩、後輩と集まり、学校とのお別れ会のようなものをした時のことだ。

廃校なんて言葉を使うと、趣深い木造の校舎を思い浮かべるかもしれない。しかし実際にはどこにでもある特徴がない校舎の学校だった。けれど、それでも私やその卒業生たちにとっては思い出深い、特別な場所だった。

お昼に体育館でお別れ会をした。

そのあとは各自、お別れ会

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百物語 第三十四夜

私には、年の離れた弟がひとりいる。トキオという。

トキオには、霊感がある。幽霊が見えるとか、そういうやつだ。触ったり、話したりすることは出来ないらしい。もちろん、除霊なんてもってのほかである。トキオは五歳だ。まだ小学校にも上がっていない。

家族は、父と母、私とトキオの四人だが、霊感があるのはトキオ一人である。私たちには、トキオの見ているものが見えない。

だからなのだろう。両親はトキオを忌避し

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百物語 第三十六夜

高校の頃、細かくいうならば高校一年生の頃。
私は初恋をした。
相手はひとつ上の学年の先輩だった。

女子高校生なんて恋に恋する時期だ。私は先輩に恋をしたことを友達に打ち明けた。
それは当たり前のことだった。
放課後、友達同士で恋バナでもりあがるのは毎日のことだったし、私だって好きな人ができれば友達たちに言うのが普通だとおもっていた。
そして友達が好きな人をカミングアウトしたときのように、みんなが応

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百物語 第三十七夜

昔から、よく見る顔がある。

男である。いつも黒いコートに黒いズボンという出で立ちで、顔だけが異様に白い。目つきは悪く、顔つきは陰鬱で、あまり機嫌が良さそうには見えない。というかたぶん悪いのだと思う。

よく見る、と言ったが、実際に男の姿を見たことはない。

男はいつも、写真にうつっている。

初めてそれに気づいたのは、中学一年の夏、母に言われてアルバムの整理を手伝っていたときのことだった。

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百物語 第三十八夜

この保育園に勤めるようになって、今年で二年目になる。

まだまだ新人の私だが、職員不足の関係もあり、年長組の担任を任されることになった。

私が生まれるずっと前からある施設なので、お世辞にも綺麗とは言えないし、遊具や設備もちょっと時代遅れの感がある。それでも、保育士の先輩たちはみんな優しく、保護者の中にもクレーマーはいない。クラスの子どもたちは素直でかわいらしく、せんせいせんせいと慕ってくれて、反

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百物語 第四十夜

四年ぶりに会った彼女は、四年のブランクをまるで感じさせることがなく、当時とまるで変わらなかった。
以前勤めていた会社で付き合いがあった彼女とは、山登りという同じ趣味があったことから意気投合し、一番の飲み友達となった。飲み屋には山ほど行ったのにもかかわらず、なぜか結局いまだに一緒に山へと行ったことはないのだが…。

私が転職し地方勤務になってからは、SNSではお互いの様子は確認していたが、なかなか会

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