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USJ開業時の熱気とその再生を振り返る【未来を生きる文章術014】

 2002年4月8日のコラム。
 この前年、大阪にUSJが開園しました。開業1周年で累計入場者数は計画を超える1,100万人だったという熱気を受けて書いたもの。

 もっとも、USJの入場者数は開業2年目に763万人と落ち込み、その後1,000万人を超えられずにいました。
 しかし2010年に新社長が就任しテコ入れを図った結果、2013年から再び1,000万人台を回復し、以降毎年100万人前後の増加を続けました。2017年からは入場者数を公開していませんが、2,000万人に迫る規模というのが大方の推測です。

 復活を成し遂げた森岡毅氏は著書でその考え方を披露しています。映画という特化したポジショニングを「世界最高のエンターテイメント」に位置づけ直し、家族層をターゲットにしたといいます。
 その頃、ハリウッド映画ではない日本のキャラクターも取り込むUSJの路線に驚きを覚えたことを思い出します。

 遡って2002年の原稿では、USJ人気の裏に「ファンタジー」を求める志向を見ています。それがあたっていたかどうかは評価が難しいところ。
 しかし、「(お客様に)何を提供するか」ではなく「(お客様が)何を求めるか」という視点からサービスを評価することは重要です。

 文章としては、具体的事例を並べて帰納的に共通原理を探し、それを理論面から補強した上で最後は演繹的に結論を導く。そんな、ぼくの文章によくある流れかなと思います。

■ ■ ■

世界最速1000万人突破、USJにファンタジーを求める大人たち

日経ビジネスExpress2002年4月8日掲載

大阪市のテーマパーク「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)」が先月末で開業1周年を迎えました。1年間の入場者数は1100万人と、当初目標の800万人を大きく上回っています。3月初旬に1000万人を突破していましたが、これはテーマパーク開園後のスピードとして「世界最速」だといいます。
 USJ成功の要因としては、東京ディズニーシーの開業と重なってテーマパークへの関心が高まったこと、本物志向を心がけたこと、中心部から近かったことなど、さまざまに考えられます。加えて、やはり今という時代の気分と切り離せません。

 高知県北川村に「モネの庭」という施設があります。名前の通り、モネの絵を模した庭のある観光施設です。年間の入園者数は約20万人。USJの数字のあとでは小さく見えますが、北川村の人口がわずか1600人ということをふまえると、いかに大きな数字かわかります。
 USJもモネの庭も、元ネタがあるという点では同じ。一方は大ヒットした米映画の世界を、一方は日本人好みの印象派の絵画を現実に体験させてくれる施設です。モネの庭に訪れたときの感覚は、一種独特でした。花が咲き、池を囲んで美しい庭が整備されています。近くの山からは野鳥の鳴き声が聞こえ、しっかりした手触りのある感動を与えてくれます。しかしふと気づくと、目に入る光景はモネの絵画のイミテーションとなっていて、仮想の世界に遊ぶ自分がいる。現実の感動と、仮想のめまいが接する体験です。

 仮想の世界といえば、『ハリー・ポッターと賢者の石』や『ロード・オブ・ザ・リング』、あるいは『千と千尋の神隠し』といったファンタジー映画の大ヒットも記憶に新しいところ。幻想に身を遊ばせたいという気持ちを、みんな持っているのかもしれません。
 これらファンタジー作品にはひとつの共通した特徴があります。それは、言葉としては矛盾するようですが、リアリティあふれる世界設定がされているということです。ナマの感動を与えてくれるUSJやモネの庭と同様の背景があるわけです。

 フランスの思想家ロジェ・カイヨワは、遊びを「競争」「偶然」「模擬」「めまい」に4分類しました。ままごとやチャンバラごっこなど、「模擬」は子どもの遊びの大きな要素です。しかし大人世界では、スポーツやギャンブル、絶叫マシンなど「競争」「偶然」「めまい」の遊びはあっても、「模擬」を利用した遊びは少ないのではないでしょうか。
 そうした中で、USJもハリー・ポッターも、失われた「ごっこ」の世界を取り戻させてくれる。気恥ずかしさを感じさせないため、頑丈に組み立てられたリアリティで保護して。
 幻想は、厳しい現実から心を浮遊させ、より広い視野を与えてくれます。それが癒しにつながるところに、今の時代にファンタジーがヒットする背景があるでしょうし、われわれには、もっともっとファンタジーが必要だとも感じます。

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ゼロ年代に『日経ビジネス』系のウェブメディアに連載していた文章を、15年後に振り返りつつ、現代へのヒントを探ります。歴史が未来を作る。過去の文章に突っ込むという異色の文章指南としてもお楽しみください。

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雑文を書いたり、地域づくりに取り組んだり、そんな日々です。noteでは、ゼロ年代に『日経ビジネス』関連のウェブメディアに連載したコラムを現代の眼で振り返ります。時代の変遷に未来への目線を養う。あわせて、15年以上前の自分の文章に突っ込むという異色の文章指南・文章論でもあります。
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