トンネルを初めてつくった人はどこの国の人かわからないけれど、多分一人っ子だと思う。みんなが山を越えたり、迂回ルートを探している中「うるせぇ、山が俺に合わせやがれ!」と言わんばかりに穴を開けてしまったのだから。兄弟の顔色を伺ったこともなかっただろうし、それはそれは甘やかされてきたのだろう。なかでも一際甘やかしてきたおばあちゃんは「山に穴を開けたい!」と言った孫のためにスコップを持って山に走ったはずだ。

そんな行動力に満ち溢れた一人っ子のおかげで我々は山を登らず、迂回もせず進むことができる。僕の住む県は山ばかりなのでトンネルも多い。トンネルの入り口に取り付けられた看板にはそのトンネルの名前が書かれている。その名札を見るたびに「よくそんなにトンネルだけで名前のレパートリーがあるな」と感心する。

以前、僕はとある島のことを聖地だと言った。

数ヶ月前にその島に行ってきた。その島に"青影トンネル"というトンネルがある。僕の好きなバンドの曲に『aokage』という曲がある。この島を舞台に書かれた曲で"青影トンネル"も登場する。かなり古いトンネルなので、つい最近"新青影トンネル"が開通し、島の人はそっちを通っているようだ。"青影トンネル"は車で通れないようになっているがどうしても通りたい僕は車を停めて歩いてそのトンネルまで向かった。そしてイヤホンから流れる『aokage』を聴きながらトンネルを往復した。曲中の人物がトンネルをどちら側から進んだのか歌詞と目の前の景色を照らし合わせながら。ただトンネルを通っただけなのにとても暖かい気持ちになった。

そして話は現在。僕は今散歩している。夜は真っ暗だ。多分これを読んでいるキミが想像するよりも真っ暗だ。なんて言ったってこっちは超がつくほどの田舎だから。真っ暗な道を進むとトンネルがある。闇に浮かぶトンネルは不気味な罠に見える。コンビニでバチバチ音を立てて光る紫のライトのようだ。トンネルの中はひどく冷たく感じた。"青影トンネル"の方が圧倒的に古く狭く暗いのに。トンネルに呑まれないように進む。トンネルを抜けた先には信号機が黄色く点滅している。まるで「こっちに来るな」と警告しているかのように。

時刻はまだ21時。だが時間に関係なく怖いものは怖い。丑の刻が確か2時ごろだからきっと幽霊の出勤時間は1時ごろだろう。さらに逆算すると0時ごろが通勤ラッシュ。つまり僕はあと3時間以内に帰宅すればいい。余裕だ。そう考えると足取りが一気に軽くなる。鼻唄でも歌ってみよう。口笛なんか吹いてみたりして。あれ、今そこの茂みが揺れたような......。

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