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理想のブランドは、タモリ?深める・浅める、これからの価値の届け方。後編

深める・浅める、事例編。

以前のnoteで、『ブランドの価値を届けるには、タモリさんのように、軽やかに、深める・浅めるを行き来するのが良い』という話を書きました。

ここでは、コンテンツやブランドを深く掘り下げることを「深める」、濃度を薄めずに軽やかに"浅く"することを「浅める」と呼んでいます。

前回noteハイライト
・ブランドやコンテンツを「深めっぱなし」だと、誰もいなくなる。
・ブランドは、目利きと、目利かず、両方を喜ばせる必要がある。
・『浅める』ことと、『薄める』ことは違う。浅める=濃度を保ちながら、浅い状態。面白さそのままに、浅めている。/薄める=濃度が低くなり、薄くなってしまう状態。面白さも、薄まっている。
・深める・浅めるのプロフェッショナルは、タモリさん。

深めっぱなしの弊害。

事例の紹介の前に、前回の振り返りも含めて「深める」ことについて書きます。コンテンツやブランドを「深める」ことは、決して悪いことではありません。「深めっぱなし」によって色々な弊害が起きてしまうのではないかと考えています。

①時代に取り残される。
奥深いジャンルや、積み重ねてきた時間が長いものほど起こりがちなのですが、価値観が凝り固まり、身動きが取れなくなります。そうなると、時代に取り残されてしまう。

例えば、本当はとても面白い歴史やストーリーがあるのに、さびれて誰も訪れなくなってしまった地方の博物館。素晴らしい職人の技術で作られたプロダクトなのに、わかりづらすぎて誰にも理解されず、潰えてしまうもの。

そんなものたちが、良い例かもしれません。サステナブルに存在し続けるためには、マニアックなだけではなく、時には軽やかに「浅める」ことも必要だと思うのです。

②内輪ノリになりがち。
前回のnoteにも書いたように、能の大成者・世阿弥も「目利き」に情報を届けることも大切だが、「目利きかず」も見捨てないことが大切だと語っています。私はこれを、新しいファン予備軍を見捨てるな、という意味でもあるのかなと解釈しています。

深さを理解してくれているいわば「常連さん」だけのコミュニティは、とても居心地が良いものですし、繋がりも強固になっていくと思います。一方で、新しい人がはいりづらい場合も。特に、「深いは偉い」「浅いは悪い」と思っている雰囲気があると、尚更です。(逆に言えば、そんなことがなく、浅さも受け入れてくれるコミュニティは、入っていきやすいです。)

「わかる人にだけ、わかればいい」
「深いことが偉い」

という考えが行き過ぎると、エゴや内輪ノリに見え、新しく人の参加の余地を潰し、新陳代謝が悪くなってしまう可能性があると思っています。

では、健やかな新陳代謝を生み出したり、時代に取り残されない価値の届け方とは、どのような形が良いのでしょうか。

今回は、実際に浅める・深めるを上手に行き来していると感じた事例を、いくつかご紹介したいと思います。

シーンを変えて、浅める。

<事例>
1.フレンチレトラン sio (レストラン → おうち)
2.tokyobike (スポーツ → 街)

1.フレンチレトラン sio (レストラン → おうち)
代々木上原にある、ミシュラン1つ星レストラン「sio」。コロナ禍の中、レストランのレシピを家でも楽しめるようにアレンジして発信した「おうちでsio」は大注目され、レシピ本も出版されました。

「東京にある、ミシュランの一つ星の高級レストラン」

それだけ聞くと、自分には縁がなさそう、敷居が高いな、滅多に行かない、と思う人も多いはず。おうちでsioを通じて、高級レストランから、おうちへ。クオリティの高いレシピを武器に、お客さんとの接点の場(シーン)を変えたことで、多くのファンを獲得されたかと思います。レストランの価値をそのままに、新しい層へコンテンツを届けている素晴らしい取り組みだと感じます。

2.tokyobike (スポーツ → 街)
tokyobikeは、街を楽しむ大人のためのスポーツバイクをつくっているブランドです。速く走ることや移動することだけが目的ではなく、街や日常を楽しむためのツールとしての自転車を提案してくれています。

このブランドは、代表者の方の自転車業界に対する課題から生まれたブランドとのこと。ブランドが誕生した2002年当時、自転車の楽しみ方といえば、スポーツや走るためのもの。街を楽しむという考えは浸透していなかったようです。

代表の金井一郎さんへのインタビューにこのように書かれていました。

この独自性に富んだシティーバイクは発売当時、自転車業界ではまともに評価されなかったという。

「誤解を恐れずに言うと、当時の自転車業界は、専門知識が豊富な自転車好きが集まり、自分たちが乗りたいものを作っていました。彼らの価値観を突き詰めると『性能の高さ=優れた自転車』となる。それがロードレーサーを頂点とするヒエラルキーを業界内に生み出しました。あえて機能を絞ったトーキョーバイクは業界のセオリーから外れているため、多くの自転車専門店からは関心を示されませんでした」(金井さん)

金井さんは“業界の常識”が実際に自転車を使う人のことを置いてきぼりにしていると感じていた。

(朝日新聞デジタルマガジン& インタビュー記事より一部抜粋)

はじめ、業界の中で評価をされなかった。では、どうしたか?別の入り口、ライフスタイルブランドやショップ・メディアなどから引き合いが生まれ、間口を広げていったそうです。これまで自転車業界の常識からはずれ、新しい市場に対して提案を行なってきたことがうかがえます。

スポーツや走り重視から、街の中、ライフスタイルへ。

自転車業界が取り組んでこなかった新しいシーンへの提案は、楽しく自転車へのハードルを下げてくれたのではないかと想像します。きっとtokyobikeをきっかけに自転車や街のことを、もっと好きになった人は多いはず。

旧態前としてアップデートされていない業界こそ、「浅める」考えが必要で、もっともっとその業界の可能性を広げることができるのではないかと感じました。

普遍的な価値を授けて、浅める。

<事例>
日用品ブランド「THE」

「THE」は、"最適と暮らす"というビジョンと、”定番”をつくる、というブランドコンセプトのもと、様々なジャンルの日用品をアップデートしていています。

「THE」brand concept
世の中の定番を新たに生み出し、
これからの「THE」をつくっていくこと。
世の中の定番と呼ばれるモノの基準値を引き上げていくこと。
本当に「THE」と呼べるモノを、生み出していくこと。
わたしたちは、そんなモノづくりを目指していきます。
(HPより一部抜粋)

THEの商品を見てみると、伝統工芸の技術や、老舗メーカーの長年培ってきたものづくりの技術を使って作られた商品が、数多くならんでいます。

機能性や職人性にふりきったまま(深めっぱなし)ではなく、そこに、「定番」という普遍的な価値を授け、新しい価値とモノを生み出す。これがTHEのすごい点だなと思うのです。

ついつい深めすぎな技術力や職人性を、現代のニーズに合わせて翻訳し、決して価値を薄めずに、「定番」として表現をするプロダクト。

素晴らしいブランドコンセプトのもと、伝統工芸や老舗メーカーとの秀逸なコラボレーションだと思いました。

デザインで、浅める。

<事例>
競輪ホテル (KEIRIN HOTEL 10)

現在、私が温故知新というホテル運営・プロデュースの会社で立ち上げている、『競輪ホテル』。

そのままの通り、競輪を楽しむためのホテルで、岡山県玉野市の競輪場に併設され、ホテルの部屋やレストランからも競輪観戦を楽しめます。もうひとつのテーマとして、「競輪をアップデートする」という想いのもと、このホテルを企画しています。

というのも、私もこのホテルに関わるまでは、競馬場などには、レジャー感覚で訪れたことはあったのですが、競輪を見に行ったことがなく、全く接点がありませんでした。

しかし、競輪の歴史を調べてみたり、実際にレースを観戦してみると、全く印象が変わりました。日本発祥のプロスポーツという歴史や、生身の人間が走っている臨場感、人だからこそのレース中の駆け引き。ギャンブルという側面ももちろんありますが、純粋にスポーツとしての魅力と感動が存在しています。

(※賭け事は限度を超えるのはよくありませんが)スリルやわくわく感、競輪のもつかっこよさやスピード感、"自転車競技"の魅力。そんなものを楽しさをもって、POPに伝えられるホテルにしたい!と考えました。

歴史ある業界×デザインで、競輪をアップデートし、若い人や今まで競輪に興味がなかった人も、楽しく競輪に触れられる場に。

競輪や自転車をテーマ・モチーフにしながら、もともとの競輪ファンにも喜んでもらうのはもちろんのこと、競輪ビギナーの方にも、「このホテル(デザインが)かっこいい・かわいいから行ってみたいな!」と思ってもらえるような。そんなホテルを目指しています。

歴史ある深い業界こそ、デザインやクリエイティブの力で「浅める」余地がまだまだ存在し、それが、新しいファンや今までにない関わり方を生み出せる気がしているのです。

深め人×浅め人で、深めて浅める。

<事例>
・マツコの知らない世界 (TV番組)
・笑って!いいとものテレフォンショッキング (TV番組)
コテンラジオ (ラジオ番組)

最後の事例にやっとタモリが登場しましたが(笑)深め人×浅め人を掛け算することで、浅い深いを行き来している事例です。

どの番組も、その道に詳しい人やプロフェッショナル(深め人)と、視聴者やリスナーと同じ視点に立ち話を展開する浅め人、両者が存在していることがポイントだと思います。深め人の言葉やコンテンツを、浅め人が、ときには翻訳して浅めたり、さらに深堀したり。

この番組たちをみていると、もちろん、深めることも大切ですが、なにより、「浅める人(タモリ)」の重要性を感じます。

これは、ブランドが芸能人やインフルエンサーをアサインする時にも、役立つ視点だと思っていて、もし、自分のブランドが深まりすぎていて、浅めたい(新しいファンを増やしたい、アップデートしたい等)と感じた時は、一緒に浅めてくれる人を探すのが、きっと良いと思います。

自分の水深を知ることを、意識して。

思い入れや好きな気持ちがあるが故に、深めすぎて、独りよがりになってしまっていないか。

逆に、浅めすぎて、軽くなりすぎていないか。

どちらの視点もバランスよくもちながら、いま自分たちのブランドやコンテンツは水深どのくらいを泳いでいるのかを正しく知ること。

ついつい、深めることが良いことと思いがちですが、健やかな新陳代謝を生み出したり、時代に取り残されない価値の届け方をするためには、軽やかに深い・浅いを行き来することが、大切なのではないでしょうか。

それが、業界や市場、価値観をアップデートすることにも、つながるような気がしています。

ぜひ、みなさんの周りの「浅める」ことで、新しい価値を生み出したり届けたりしている事例があれば、教えていただけると嬉しいです!


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