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芥川龍之介論2.0

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2024年5月の記事一覧

平野啓一郎の『三島由紀夫論』を読む64兼 芥川龍之介の『西郷隆盛』をどう読むか④

平野啓一郎の『三島由紀夫論』を読む64兼 芥川龍之介の『西郷隆盛』をどう読むか④

 芥川龍之介は平野啓一郎に何が言いたいのであろうか。

 金閣寺は天皇である?

 書かれている範囲では決してそうは言えないのだと芥川龍之介は平野啓一郎に言いたいのではなかろうか。勿論芥川は平野を名指ししていない。しかしここで言われているロジックは恣意的なものではない。一つの仮説を前提にしてしまうような、そうしたすべての言説は芥川の批判から逃れられない。

 少なくともそこを胡麻化して四千円近い本

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鏡花の弟子? 牧野信一の『嘆きの孔雀』をどう読むか⑥

鏡花の弟子? 牧野信一の『嘆きの孔雀』をどう読むか⑥

 これは「私」が美智子と艶子さんの二人に向かって「そういう話」をしているのか、本当に四人がそういう世界に入り込んでいるのか、もうどちらとも判断できない状況になってきた。

 最初は明らかに「私」が美智子と艶子さんの二人に向かって「そういう話」をしていたはずだった。ところが美智子がお姫様に話しかけたところ、いや孔雀が現れた時点で我々は既にこの物語の中に引き込まれていたのである。そもそも空間移動ができ

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カメラ残しの術 芥川龍之介の『西郷隆盛』をどう読むか③

カメラ残しの術 芥川龍之介の『西郷隆盛』をどう読むか③

 芥川が「シナリオもの」においてかなり先進的なカメラワークを遊んでいることは既に述べた。『誘惑』しかり、

 それから『浅草公園』しかり、

 そして「シナリオもの」とは言えないが、やはり映画を意識した『影』のカメラワークはすごい。

 しかもそれは飽くまで言われてみればの話で、芥川の文章は圧搾の美で上手いとは言われるけれどカメラワークという点ではあまり言われてこなかったのではなかろうか。そして寧

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顔は変わっていなかった 芥川龍之介の『西郷隆盛』どう読むか②

顔は変わっていなかった 芥川龍之介の『西郷隆盛』どう読むか②

 芥川龍之介の『西郷隆盛』に関してはこれまでに軽く触れ、西郷隆盛が今も生きていてこの汽車に乗っている、という皮肉だけを指摘して来た。

 ところで本当に西郷隆盛はなかなか死ななかった。

 こうして西郷隆盛生存説は繰り返され、

 なかなか死んだことにならなかった。

 実際その生死は真面目に論じられてきたようだ。

 これはもう源義経伝説のようなもので、判官びいきの国民性の中で創られた英雄像の共

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