真夏の午後の夢
私のアパートはものの配置がよく変わる。
はじめのうちは気のせいだと思っていた。
しかし、私が帰宅する度に変えられているのだ、流石に気が付く。
今日は特にひどい。
部屋を見渡す。
食器や洗濯物は店頭商品のようにきちんと収納されている。そして、机、椅子、本棚、本棚、本棚、本棚全ての位置がものの見事に整然と並べられている。
綺麗に。
なんだかもの凄く、部屋らしい、部屋だ。
自分の部屋とは思えない程に。
何がそうしているのかわからない。霊か、それとも小さなおじさんでも棲みついているのか。押し入れの天井がパカッと開き、屋根裏の居住地からそそくさと這い出ては、綺麗に部屋を整えていく……善意なのか悪意なのか、イイ奴か悪い奴か、敵か味方か分らないし、まずそんなものはいない。バイトで疲れたんだよ……バイトで。
いいじゃないかこのくらい考えたって。
ひとまずベッドに横になる。
勿論いつもの場所にはなく、シワもひとつもない。なんだか、このベッド、私のものではない気がする。ベッドだけではない。この部屋の何一つ、私のものではなくなってしまったのかもしれない。
もう寝てしまおうか。
「ウグッ!」
穿かれる様な痛みと窒息する様な重さが、一気に押し寄せた。
ああ、これ、死ぬ。
頭の奥の方で浮かんだ。
これが直感というものなのか。
動こうと思えば動けるのかも知れない。でも、動き始めるのは辛い。はじめの1を動かすための力は、1ではないのだ。必要な力を想像する。途方もない。
疲れた。
もうゆっくり休みたい。
「ウグッッッッッ!!!!!!!!!」
心臓をグシッと掴まれた。
捻り上げられる様な感覚に息が詰まる。
もうダメか、そうか、私はもうダメなのか、本当にダメなのか。
それなら、もう、おやすみ……
「いや!だめだ!」
遠くから声がした。
声と共に心臓を掴んでいた手が離れ、重さも痛みもすーっと引いていく。
目を開ける。
知らない間に目を閉じていたのか。
部屋を見渡す。
床には本棚に入りきらなかった本が、机には書きかけの原稿用紙が山をつくっている。
そしてその奥に私がいた。
声の主は案外すぐ側にいた。
そうだ、だめだだめだ、私はまだ眠れない。
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