隣人

「そういえば、皐月達って何で一緒に帰らないの?仲悪いの?」
友香にそう尋ねられて、返事に困ってしまった。
 別にたいした理由はない。
 それに仲が良ければいつでも隣にいるって考えも変じゃない?そういう、いわゆるニコイチ的な考え方、私は好きじゃないし。
「別に悪くないよ」
ちゃんとした理由もないし、ちょっとイラっとしたから、早く話を終わらせたくて、適当に答えた。
「えーでもさ、小さい頃は手とか繋いで歩いてたんでしょ?」
話を終えられたかと思ったのに、友香は続けて聞いてくる。正直めんどくさい。
そんなに興味あるかね、この話題。
「まあ、小さい頃はね。そんなもんだよ」
「ふーん。そうかぁ、そうなんだぁ」
そう言い残して友香はどこかへ行ってしまった。

 え、聞いておいてその反応??無責任過ぎ。
 今から追いかけて行って、ありったけの思い出話を聞かせてやろうか、という反抗心的な心持ちの傍らで、頭の中にはある日の景色が映し出されていた。

 あれはたしか、幼稚園に入る何日か前のお昼頃。 
 寒さが和らぎ少しずつ春が感じられる、ホワッとした日だった。
 毎日の日課になっていたお散歩の時間。
「幼稚園に行ってみたい!」と言ったのは、隣で同じ赤い服、同じ髪型でそっくりな顔をキラキラさせている双子の姉だった。
 性格が真逆の私たちは、遊んでいてもすぐに喧嘩になっていたから、正直一緒に歩くお散歩は嫌だった。
 この日のお散歩も、私はわざわざ遠い幼稚園まで行かなくてもいいと思ってたけど、期待に満ちた姉を前に嫌とは言えず、結局散歩の目的地は幼稚園に決まった。
 いつものように母と手を繋ぐため隣に行こうとすると、既に母と手を繋いでいた姉が、自分と手を繋いでほしいと言ってきた。いつもはそんなこと言わないのに。
「なんで?」
「れんしゅう!いっちゃんとさっちゃんの2人で、幼稚園いくから!いっしょに!」
 私はなんでだか、すごく体中がじんわりとして、ちょっとだけ泣きそうになって、姉の手を取った。
 そうして姉を真ん中にして幼稚園まで歩き、帰りは私が真ん中になり同じ道を帰った。この日をきっかけにこの並びで3年間通園していたのだった。

 なんだか久しぶりに昔のことを思い出して楽しくなってきた、隣のクラスにいる姉を誘って、今日は一緒に帰ろうかな。
 手は……さすがに繋がないか。


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