人生初のシアトル一人旅 ~慎重な私が「やってみると案外普通」をパスポート代わりに人生を切り開くまで~
「何を血迷ってるの??」当時付き合っていた彼女からのひと言は、今思い返してもなかなかパンチが効いている。
15年ほど前、大学の春休みを使ってアメリカへ短期留学中だった時のこと。「人生初めての一人旅をする!」と誓ってアメリカに来たのに、いざとなったら怖気づいて「止めようかな」と伝えた後の返信がこれだった。
石橋を叩いて壊して、渡らない
私は小さい頃から慎重な性格で、親からは「石橋を叩いて壊して渡らない」と言われていた。プライドが高く恥をかくのが嫌、失敗が怖い。長男としてしっかりしなければ。良い成績を取らなければ。それに加えて人見知りなのだから、慎重さにかけてはこれ以上ないくらいの要素を備えていた。
一方で、そんな自分が嫌だった。人と違うことをする友人に憧れ、漠然と「普通の人生なんていやだ!」と考えていた。何が普通かも分かっていなかったくせに。
小学校まで良かった成績は、中学・高校と成長するにつれ振るわなくなり、一つのアイデンティティが失われようとしていた。第一志望への進学が叶わず失意のなか大学に入った。新しい自分を見つける必然に駆られていた。
大学では、それまでとは比べようのない自由を手にして、何も成し遂げていないのに根拠の無い自信を抱えてアメリカに行った。
といっても「単身渡米した」などの勇ましいものではなく、大学が提供する「お金を払えば参加できるプログラム」に参加しただけなのだが。日本人学生が数ヶ月間集団で渡米し、アメリカで日本人向けの英語教育を受ける。いわゆる「長めの修学旅行」的なものと言っても良いかもしれない。
ダサすぎる男、目を覚ます
「アメリカに行ったら、俺は日本人とはツルまない」なんて息巻いていたのは最初だけ。生活の主要部分を占める英語教育が日本人専用なのだから、意思の弱い私にはそもそも無理な話だったのかもしれない。
滞在期間中の連休を利用して、プログラム参加者たちは皆で旅行する。そのタイミングで一人旅をすると決めていたのに、周りの仲間たちが楽しそうに計画しているのを見て寂しくなってしまい「一人旅、止めようと思う」と彼女に告げたのだった。
そんなダサ過ぎる姿が海を越えて伝わったのだろう。冒頭の「何を血迷っているの??」というひと言を喰らい、すっかり目が覚めた。というか目を覚ましてもらった。
そこからは早かった。旅行先に選んだのはシアトル。これといった理由もなく直感で決めて、アメリカ人の友人にシアトルの知人を紹介してもらい、現地で会う約束を取り付けたり、見るべきスポットを調べ上げたりした。ありきたりな表現だが「期待と不安」を抱えて旅行を待った。
結論から言うと、初めての一人旅ではいわゆる「人生を変える決定的な出来事」は起きなかった。ただ、決してつまらなかったわけではなく、スターバックス1号店に行ったり、スペースニードルというタワーに登ったりした。海を見て「この先は日本と繋がっているんだなあ」と思いを馳せた。
「やってみると案外普通」が背中を押してくれる
むしろ旅そのもののインパクトよりも「やってみたら案外普通だった」という結果が、私の人生に大きな影響を与えた。やる前はとてつもなくハードルが高そうに思うことも、いざやってみるとそれほどでもない。この事実は、慎重な私がチャレンジする時に背中を押してくれた。とりあえずやってみよう、何とかなる。
そして初めの一歩は小さなチャレンジでも徐々に歩幅を大きくし、かつ継続することでいつか本当に「人生を変える決定的な出来事」に辿り着く。少なくともこの方法でこれまで3回、人生の節目に遭遇した。「本当にやりたい」と思える今の仕事を見つけたのも(詳しくはこちら)、そのうちの一つだ。
そう考えると、結果的にシアトルへの一人旅は、今の私を形作る一つの引き金となっている。この引き金を引いてくれた彼女には、改めてお礼を言いたい。
ちなみに彼女とは縁があり、結婚して子どもを2人授かった。
長男は私に似て慎重な性格で新しいことはやりたがらないのだが、唯一探検だけは例外のようだ。近所を一緒に散歩していても、どんどん先に行ってしまう。しかも知らない道へ。危なっかしくて仕方ない。ある時「なんでそんなに知らない道に行くの?」と聞いたら「だって知らない道の方が楽しいもん!」と言う。
私が後天的に、苦労しながら身に付けた「未知へのチャレンジ」が、何かのはずみで遺伝したのだろうか。それとも妻から伝わったのか。とにかく親としては目を離さないよう付いていくのが大変なのだが、反面少し頼もしくもある。
話をシアトルへの一人旅に戻す。
泊まったホテルの近くには大きな壁画があった。様々な人種の人が描かれていて、改めて自分がアメリカにいることを実感した。当時の私はやたらこの壁画が気に入ったらしく、下手くそな写真が何枚も残っている。
長男がもう少し大きくなって旅に興味を持ってくれたら、この写真と共に思い出を語りたいし、その後は彼の旅の思い出を聞かせてほしい。そんな日を楽しみに待っている。
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