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社会人1年目「もう一つの成人式」 ~親父とのサシ飲み~

「無敵だったり、無気力だったり」。10年以上前の社会人のスタートは、そんな感じだった。
高校、大学の受験ではことごとく失敗してきた私が、就活で初めて「第一志望」に合格。業界最大手、東京ベイエリアの本社で研修を受け、日本経済の最先端に加わったと錯覚し自意識はパンパンに膨らんでいた。ところが配属から数ヶ月で少し特殊な部署へ異動となり、適応できずにモチベーションは転がり落ちていった。

プライドと失望がごちゃ混ぜの当時の自分に声をかけるなら「君は決して無敵でも万能でもなく、力を発揮するには『本当にやりたいこと』をするのが最も重要だよ」と言う。でも、聞いてくれないだろうなあ。

■ラーメン屋での乾杯
働き始めて変わったことの一つに、父親との関係がある。父親は世間的に「おカタい」と言われる仕事をしていて、休日はライフワークである空手に打ち込む。鉄拳制裁は得意分野、時にロジックが全く通用しない「父ルール」を押し付けてくることもあり、いつしか思うことがあっても「本気で向き合うことはない」存在になっていた。

社会人1年目、私は一人暮らしをしており、父が来たタイミングで飲みに誘ってみた。理由はよく思い出せないが、大学までは親の庇護の下にいたのが自分で稼ぐようになり「今日は俺が奢るよ」と言いたかっただけかもしれない。といっても高い店ではなく、薄暗い近所のラーメン屋なのだが。

父はとにかく、終始上機嫌だった。「オヤジ、めっちゃ喋るな」と感じたのを覚えている。今思えばオヤジも人間だから当たり前なのだが、当時の私には新鮮だった。終盤にはラーメン屋の店主も交え、色々な話をした。オヤジが「今日は息子の驕りなんです」言い、店主が「良い息子さんですね~」と言った時のオヤジの赤い顔が印象的だった。

それ以来、自分の中でオヤジとの向き合い方が変わった。息子としてだけでなく人間としてオヤジと向き合えるようになった。そのきっかけとなったラーメン屋での乾杯は、私にとってもう一つの成人式と言えるかもしれない。あのお店、まだあるのかな。

けっこうな月日が経ち、オヤジは現役を引退し、病院の売店で楽しく働いている。私は転職して、子どもが産まれ「息子に酒を奢ってもらう」気持ちが、何となく想像できるようになった。実際に奢ってもらうにはもうしばらくかかりそうだが、気長に、楽しみに待っていようと思う。

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