たられば<7話>
蟻の関係
「なぜなのよ!!」
それは2025年10月。シュンとアヤが婚約を決め、2か月が経過した頃である。
アヤは大きく口をあけ、眉間にシワを寄せる。この日はいつもと違い、2人の巣には彼女の声が響き渡った。
同棲を始めて3年が経つ。一般的に言えば、今まで喧嘩がない方が不思議であった。これは乗り越えるべき壁なのかもしれない。
「ごめん。ごめん。気をつけるから。」
シュンはアヤを恐れつつも、その細くなった目を見て謝罪した。
「2回もいらないんだけど。本当に反省してるの?」
アヤは問い詰める。
この時、シュンは反省などしていなかった。もちろん自分がミスをしたのは事実である。加えてミスをしない人間などいない。仕事でも、今2人の間で問題になっている家事においても。しかしあんな小さなミス、片方がでカバーすれば良い話だ。今まで自分がどれだけ彼女に尽くしてきたか。
結果的に過去の行いを思い出したシュンは、初めて彼女に嫌悪感を抱いてしまった。
一方この嫌悪感を吐き出したところで、何か生まれるわけではない。自分が吐いた汚物を綺麗にする居酒屋店員はいない。家出ができないこのご時世、1番避けるべきは対立だ。
そう考えたシュンは、自分の心情とは真逆の行動をとる。
「反省してる。本当にごめん。」
彼は自分の感情を押し殺した。これは優しさではない。ただの服従である。まるでアヤという女王蟻に仕える、働きアリようだ。
はいはい、と言わんばかりの彼女の態度に、またも嫌気がさす。
ミスの後処理を行う中で、彼の沸々と燃え上がるイライラは溜まっていった。このオノマトペが、自分1人のために作られた言葉に思えた。
ЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖ
2026年、4月。
シュンは神からのお告げを無視し非常階段を昇っていく。
その途中、小学生くらいの女の子2人が階段に座り込んでいた。どうやら他の友達と喧嘩をして、その解決策を相談していたようである。
「もっと早く話し合えばよかった。」
彼女らを避け、一歩一歩階段を昇って行くたびに、シュンの心は後悔で荒んでいく。
続く
※ この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
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