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新社会人時代、ハシビロコウの決定的瞬間を撮り損ねた

神戸どうぶつ王国で出合った
1属1種の不動の鳥

 何年か前に新社会人になり、勤務地が神戸だったこともあり、ポートライナーに乗ってすぐの「神戸どうぶつ王国」へ行ったことがありました。もとは「神戸花鳥園」という名前で、花と鳥を主軸にした施設でした。神戸花鳥園時代にも何度か訪れたこともあり、私にとっては思い出のある空間です。神戸どうぶつ王国として生まれ変わってからも、色とりどりの羽の鳥が広い空間を自由に羽ばたき、当時はいなかった(確かいなかったはずの)カピバラやサルの仲間を間近で観察でき、とても充実した時間を過ごせました。

 なかでも、ハシビロコウ(Balaeniceps rex)を初めてこの目で見ることができたことが、とても感動的でした。ハシビロコウはペリカン目に属するアフリカの鳥です。ペリカン目というとあの大きな袋状のくちばしをもつ水鳥をイメージするかもしれませんが、トキやシラサギの仲間もまたペリカン目に属します。一般的に目にするアオサギはペリカン目サギ科、日本を代表する特別天然記念物のトキはペリカン目トキ科に分類されます。
 トキ科、サギ科の鳥は何種類もいるのですが、ハシビロコウ科という鳥は、このハシビロコウのみです。1属1種の、まさに唯一の鳥なのです。

凛々しく佇むハシビロコウ

飛翔姿や捕食シーンを撮りたくて
行ったり来たりの繰り返し

 一時期話題になり、メディアでもよく取り上げられた鳥ですので、知名度もそれなりに高いと思っています。なので、ハシビロコウと聞くと、いかつい顔と不動のイメージを思い浮かべる人も少なくないでしょう。あまり動かないハシビロコウですが、立派な翼をもち、優雅に飛翔する鳥でもあります。また魚をみつけると、あの大きなくちばしでバクッとダイナミックに捕食する姿も魅力的です。そうした不動の鳥の決定的な姿をスマホカメラに収めたくて、私はハシビロコウに密着していました。

 ですが、どれだけ粘っても、ハシビロコウは翼を広げるどころか、場所を移動する気配もなく、じっと一点をみつめたまま動いてくれませんでした。タイミングを合わせようとして、私は別のエリアでほかの動物をみては、ハシビロコウに戻り、また移動しては、戻ってハシビロコウにカメラの焦点を合わせる、といったことを繰り返していました。すると、いつの間にかさっきと違う場所に移動していて、がっかりしたのを覚えています。結局、ダイナミックな捕食シーンも、飛翔の瞬間にも立ち会えないまま、私は神戸どうぶつ王国をあとにしました。

いつの間にか移動していたハシビロコウ

全長60cmの大型魚を得る
「気が熟すまで待つ」の姿勢

 もしあの当時、私にもう少し、機が熟すまで待てるゆとりがあれば、もしかするとハシビロコウの魅力的なワンシーンに立ち会えたかもしれないな、と今になって思うことがあります。あの頃の私はやたらと目に見える成果、というか、だれにでもわかってもらえるような実績を求めて、仕事の基本的なものを疎かにしていたような気がします。

 ハシビロコウはハイギョ(肺魚)という魚が、水面に浮上したタイミングで捕食します。その成功率は決して高くはありませんが、全長60cmの大きなハイギョをおもなエサとして狙います。不必要な焦りのせいで、なにか大きくてとても大切なことを逃がさないように、ハシビロコウは進化していったような気がします。それは大袈裟に聞こえるかもしれませんが、気を長くもって地道にチャンスを狙っていけば、そのご褒美のような大きな成果に巡り会えるのかもしれません。それはハシビロコウも、私たち人間も、そんなに違わないような気がしています。

水辺でじっとしているハシビロコウ

 新社会人になると、時間が慌ただしく過ぎ去っていきます。結果を出した人、まだ出せていない人という残酷な区分けに遭い、気を落としたことも少なくはありません。それでも、チャンスを掴むために地道な努力を続けていこうと、私自身そう鼓舞しながら生きています。
 もし、この記事を読んでいるあなたが新社会人や、これから新しい道に進む人でしたら、チャンスを急ぎすぎないことも大切じゃないかな、と伝えたいと思います。さして立派でもない私が、ハシビロコウでの失敗を通じて言える、唯一のことです。

参考文献
・今泉忠明『ハシビロコウのすべて』廣済堂出版 2019年


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