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人はなぜ口コミ情報を発信するのか

こんにちは。

マーケティング視点で読解力を高めるノートでは、小さくてもファンを増やす仕組みと仕掛けがわかると題し、デジタルネイティブ時代の情報発信を主たるテーマとし、中小企業や個人事業主がオンラインチャネルを活用する際の前提となる、情報接触態様の変化を読み解き、IDやSNS、そして口コミを科学して理解するノートをお届けしてまいります。

第1章 デジタルネイティブ時代の情報接触
第2章 知らぬままに置いてけぼりになるリスク
第3章 生活者理解のために必要ないくつかのこと
第4章 口コミが生まれる、広がる、その理由を科学
(4)人はなぜ口コミ情報を発信するのか

第5章 ファンを作るために必要なことはひとつだけ
第6章 オリジナリティとどこにもないストーリー
第7章 ファンを増やす、共感を得る仕組みと仕掛け


1.人が口コミを発信する(書き込む)動機を考える


前節では、情報を手繰り寄せる必然性を持つ商品の特性を読み解き、主に口コミ情報を利用する側の立場にたち、口コミに頼りたくなる局面や商品が持つ特徴について説明いたしました。

本節では、人が口コミを書き込む動機を一段掘り下げ、口コミを発信する人はどのような想いを抱いた時、「よし、口コミを書こう」、「レビューで自らの意見を表明しよう」という心境になるのか、について読み解いてまいりたいと思います。

人が口コミを発信する理由には、心理的な理由と実利的な理由、利己的なもの、利他的なものと、様々な理由が考えられますが、口コミやレビューを書き込む動機を、大きく5つに括り付けて整理致しましたので、まずは以下の図表をご覧ください。

モチベーション

真ん中の丸に書き入れた「?」も1つの理由にあたるのですが、こちらの理由は、次項でリサーチ結果とともにご紹介を差し上げます。

まず、1つ目の動機は、「購入した商品を好きになるしかないから」です。皆さんも、「この商品の選択は果たして正しかったのか?」、「このタイミングで、この価格で購入した判断は妥当だったのか」と心配に駆られることがあるのではないかと思います。

私の場合は、自家用車を購入した時に、この想いに駆られたことを覚えています。1年間他の方が乗った後に中古で購入した車だったのですが、購入から程なくして、同じメーカーから別の車種ですが、新型の車がリリースされました。

「もしかしたら、もう少し待って新車を買ったほうが良かったのではないか?」、「価格は同じくらいだし、やっぱり新車を選ぶべきだったのかな」をいう疑問や、後悔に似たような感情を抱きました。

このように自身の感じた不安を解消する、という動機で人は口コミを書きこむことがあります。例えば、自動車のレビューサイトには、購入した車の乗り心地、装備、購入した時の値引き額、ディーラーの営業マンとのやり取り等が書き込まれ、活発な情報交換が行われていますが、自身が書き込んだレビューに対し、「私もそう思う」や「イイね」、「参考になりました」というフィードバックがあると、「やっぱり、購入した車は良い車で、みんなもそうだと言っている」、従って、「自分の下した判断はきっと正しかったんだ、大丈夫」と自分自身を納得させることができます。


自分の不安を解消しようとする、自分の商品選択を正当化するための行為は、じっくりと比較検討する商品や、取引価格が高い商品において起きやすいもので、一度決めた決断は取り返しのつかない、後戻りが出来ないというケースで起きやすく、心理学では「認知的不協和の解消」と呼ばれ、口コミの発生動機として最もポピュラーな理由だとされています。

私が自家用車を購入した時の事例からも分かるように、「購入した商品を好きになるしかないから」という動機は、あくまでも自分の為に発信するものであり、利己的な理由からの発信と言えそうです。

2つ目の動機は、「良いものを選んだ自分は偉い」というもので、Instagramがわかりやすいのですが、「こんな良い場所(雰囲気)」にいて、「見栄えすること(ビジュアル)」を楽しんでいる私は、「皆さんセンスが良いと思いませんか!?」と周囲に知らしめ、問いかけるという行動の根底には、「自己顕示欲求」があります。

三省堂主催『今年の新語2018』で大賞に輝いた「映える」や、ユーキャンの『2017年流行語大賞』で大賞を受賞した「インスタ映え(ばえ)」や「SNS映え(ばえ)」という表現は、デジタルネイティブ世代のみならず、一般化した表現になりました。

「映える私」を発信する行動は、自分をよく見せたい、そして「映えな
私」を認めてほしい、という心理から行われるもので、デジタルネイティブ世代に限らず誰もが持っている「社会的欲求」の一つです。

旅行先での体験や、お洒落なカフェでのひと時を切り取った瞬間、そして、お気に入りのファッションに身を纏った私の存在を、その時の気分を表す「#」とともに投稿するInstagramの口コミは、「良いものを選んだ自分は偉いでしょ」という、自己顕示欲を満たすための、利己的な理由に基づく発信と言えるでしょう。

3つ目の動機は、「相手を喜ばせたい、役に立ちたい」というものです。自分の為ではなく、自分の知識や経験を、他の人に教えてあげることで、「相手に喜んでもらいたい」、「役に立てたら私も嬉しい」といういわば「利他の意識」の表われです。

Wikipedia(ウィキペディア)にまとめられた、懇切丁寧な記事ほどでなくても、世の中の掲示板、レビューサイトには、「なんでこんな丁寧に教えて
くれるんだろう」、「どんなモチベーションを持っている人なんだろう」、「謝礼が払われるわけではないのに、何度も返信してくれて有難いな」と
俄かに信じられないほどの親切な書き込み、レビューを見かけます。

質問対し、丁寧に書いてくれた回答に、「イイね」や「💛」を送り、感謝の気持ちをフィードバックすることで、回答者の気持ちが満たされるという側面も確かに存在すると思いますが、私は、日本人に備わった特有の意識の表われ、という理由を捨てきれないと思っています。

農耕民族で、住まう土地を移動することが少ない中で、村や集落という社会集団を形成・維持するには、お互い助け合うことが必須だった、という日本人の歴史や生い立ちが、私たちのDNAに深く刻み込まれており、もしかすると「無償の愛」にも見える回答は、互助の精神のもとで成立しているのではないかと考えています。

「相手を喜ばせたい、役に立ちたい」という動機は、「おせっかいな人が多かったり」、「無償の奉仕を厭わない」、という利他的な理由からの発信であり、利己的な動機から発信されるものに比べ、情報検索の際、役に立つ情報が多い口コミのカテゴリだと言えるでしょう。

4つ目の動機は、「単純にその情報が興味深く、面白い」というものです。皆さんも、興味深いエピソードや面白いと思える動画、希少価値が高いと
考えられるネタを見かけた時は、きっと誰かに教えたくなるのではないでしょうか?

2つ目の動機でご紹介した「映える」、「映え」という表現と同じように、近年、日本語として市民権を得たものに、「バズる」、「バズりそう」という表現があります。

単純に興味深い、面白い動画は、Twitter等のSNSのネットワークを通じ、加速度的に拡散され、Youtubeでは何百万再生、何千万再生されるという形で話題を呼び、多くの人に目に触れるコンテンツになります。

とても興味深い情報や、面白い動画、希少価値が高いネタには、そのコンテンツ自体に、誰かに伝えたい、語らずにはいられないという、人の気持ちを湧き立たせる力が備わっていることに加え、口コミが次の口コミを呼び、幾何級数的に広がるという、SNSが持つ波及力とが相まって、デジタルネイティブ時代には「バズる」というムーブメントが生まれやすくなっています。

「単純にその情報が興味深く、面白い」という動機は、「あなたにもこの楽しさをおすそ分けしたい」という気持ちが起点となるため、利他的な理由からの発信だといえるのではないでしょうか?

2.見て見ぬふりができないもう一つの動機

前項では、人が人が口コミを発信する(書き込む)動機を心理的な側面からひも解き、4種類の動機を紹介致しましたが、ここでは、前項図解でご紹介した「?」にあたる理由をご説明いたします。

まずは、平成28年度情報通信白書「ICT化による経済社会の非貨幣的側面の変化」から、レビューを書き込む主な理由・動機について尋ねた(図表1-4-2-18)をご覧頂きます。

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こちらの調査結果では、以下の説明があります。

どの年代でも「ポイントや割引等の見返りのため」の割合が最も高くなっており、口コミを主とするサービスと比べてもその割合が高い。また、年代が高くなるにつれて「自分の体験を他の人にも伝えたいため」の割合が高くなる傾向がみられた。

続いて、株式会社クロス・マーケティング自主調査レポート、オンライン上の口コミ利用に関する実態調査(2018年10月30日)から、Q16.あなたがオンラインの口コミ情報に書き込んでいる理由についてあてはまるものをすべてお答えください(MA)、の回答結果をご覧ください。

書き込む理由

2つの調査結果から、人がレビューを書き込む大きな動機には、レビューを書くことで得られる「ポイントや割引」といった実利的な側面があることがお分かりいただけると思います。

実は前項の図表で「?」としていた、5つ目の動機は「金で買われる口コミやレビュー」として説明できる「経済的な対価、金銭的な報酬が支払われるから」であり、近年、最も大きな理由ではないかと言われています。

「金で買われる口コミ、レビュー」をいくつかご紹介すると、1つ目に、「送料無料のため」というものがあります。レビューを書くと、当該ECサイトで購入した商品の送料を無料にしてくれるのですが、特典である送料無料やポイントのもらい忘れを回避するため、購入した商品が到着する前に、レビューを書いてしまう人がいるため、実際の使用感がわからない、事実と異なるレビューが書き込まれてしまうという問題を抱えていました。

2つ目に、「アフィリエイト収入を得るため」という事例があります。レビューを読んでくださった方が商品を購入すると、レビュワーに1%分のポイントを付与する、というサービスがあり、この場合、レビュワーは商品について買ってもらわんがために、良いことしか書き込まない、という問題が生じます。

3つ目に「ファーストレビューの商品券欲しさ」という事例があります。一番早くレビューを書いた人の中で、2,000円分の商品券が抽選であたるというキャンペーンでしたが、高額の商品券がもらえることもあり、実際には商品を購入していない人が、「買ってないけど、たぶん良い商品です」といった感想を書き込むという事態が頻発していました。

最後に「モニター制度」が挙げられます。これは、化粧品メーカーが現品のばら撒き型モニター施策を展開し、モニターになるには、口コミを書く、レビューを投稿することが前提としちえるキャンペーンです。

人の心理としても、せっかく頂いた商品について悪いレビューを書くことは憚れるため、商品の真の評価になりづらい他、当該商品を正規価格で購入しているロイヤリティユーザーが不信感を持つという状況が生まれていました。

利己的、利他的の違いを問わず、前項でご紹介した、人の内側から沸き起こる内発的な欲求に動機づけられた口コミと比べ、「金で買われる」口コミや
レビューは、経済的、金銭的な報酬によって、外側から与えられる動機付けであり、少なからず問題があるように思います。

外部からの動機付けによって書き込まれた口コミは、どこか白々しく感じますし、情報量は少なく、説得力に欠ける口コミになりやすいと思います。また、上記4つの事例から、評価自体が正確でなかったり、恣意性が高く、実態を表していない、時に押し付けられた感が醸し出されることも多いはずです。

第1章では、デジタルネイティブ世代にとって、SNSが検索手段になる理由として、商業ベースのWEBサイトと比較して、SNSは情報発信主体が内発的な
動機の下で投稿する個人が多いため、発信された情報の真偽を確認するために考えるコストが少ない、という情報検索手段の採否を分けるポイントを
ご紹介しましたが、インターネット時代に主流だった掲示板や、コミュニティサイトに書き込まれるレビューや口コミにも、同じことが言えると思います。

インフルエンサーマーケティングと呼ばれたり、Buzzマーケティングと言われる商業ベースの取り組みを通じ、口コミやレビューを増やそうとする方法、すなわち「金で買われる口コミ、レビュー」の存在が、口コミの品質を劣化させ、結果として利用者の真偽確認にかけるコストが増加し、敬遠され始めている実例も、見受けられるようになりましたので、こちらは、次節にてご紹介したいと思います。


第4章(4)人はなぜ口コミ情報を発信するのか、では、人が口コミやレビューを書く内発的な動機を解説するともに、外側から金銭的な動機付けによって書き込まれる口コミ、レビューの問題点について、ご紹介いたしました。

第4章(5)従来型メディアの受難とSNSへのシフト、として、インターネット時代のコミュニティ、レビューサービスの決算発表を読み解き、UU数の減少傾向を確認するとともに、その受け皿がSNSである理由を明らかにしていきたいと思います。

 ここまで、ご一読いただきありがとうございます。マーケティング視点で読解力を高めるノートでまとめた電子書籍のコンテンツも、ご覧いただけたら、幸いです。

 マーケティングの視点で見聞きし、読み解き、整理、体系化したこと事を発信しています。発信テーマ別に目次を用意していますので、気になる記事がありましたら、ぜひご覧ください。


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