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デジタル思考の業務フローとデータ起点の接続施策

 本連載では、「デジタル思考とデータドリブン・マーケティング」というテーマに焦点を当て、アナログとデジタルの判断の違いやデータの特性や活用上の課題、DXを推進するために必要な考え方やステップなど、ますます求められるファクトベースの変革について考えてみたいと思います。

 DXを成功に導くための起点となる取り組みは、小さくても1周回った事例作りを経験することです。このプロセスを通じて得られる成果や気づきは、異なる部署や部門間をつなぐ共通の言語となり、判断の物差しとして活用することができるためです。

 DXの取り組みやプロセスは、デジタル思考(現実に基づくアプローチ)を日常的に実行し、実践するスキルを持つ人材の育成と、組織全体のカルチャーの確立と結びついています。したがって、計画はこれらの側面を考慮して設計される必要があります。

 今回は、食品加工メーカーのマーケティング部による商品開発プロセスを取り上げ、商品開発に関わる業務を通じて、データ起点の読解、思考、実行の取組みを、具体的な業務への落とし込む方法に焦点を当てます。

 また、データ起点で商品コンセプトと一貫性を持たせた施策展開例を、ご紹介したいと思います。


1.デジタル思考の商品開発業務フロー

 メーカーのマーケティング部が、「属人的な商品企画の体制を脱し、データを活用することで、質の高い企画作りが自走している状態を作りたい」という目標を掲げているケースを元に、データ起点の商品開発業務について説明していきます。

 この1周目の取組みは、データ起点で商品を企画し、販売するまでの業務の実践を通じ、データをもとに自社の課題を可視化するスキル(読解力)の習得と、データをもとにして企画する力(思考力)を養い、獲得することに主眼が置かれています。

 現段階で取り扱っている既存商品のリニューアルではなく、市場に類似の競合商品が存在しないホワイトスペースを見つけ、独自の顧客価値を備えた商品をリリースし、新たな商品のカテゴリを創出する際の業務フローは、以下のとおり、分解することができます。

1.課題・仮説の設定

(1)課題・目的
①自社の課題を明確化する
 現時点で、自社が抱えている問題や、解決すべきイシューは何か
 例:利用用途やシーンが固定的で広がりが少ない

②企画の目的を明確にする
 本企画を行う目的を多角的に設定する。自社視点、流通対策視点、生活  者の目線で取り組む理由を明らかにする
 例:生活者の家族団らんをサポートする

(2)仮説の考案
 課題を解決し、目的を達成するための企画仮説を整理する。
 例:目的は、主力商品の使用シーンの明確化。調味料として使用場面の提示。他の万能調味料との違いの把握および訴求

 業務フロー設計時に、最も重要なポイントは、手番(手順の順番)を前後させない、という点にあります。データを眺めるだけで、有効な示唆が見えてくるわけでなく、解決に繋がるアクションが自動的に導きだされることもありません。

 まず、仮説が先にあり、仮説の確からしさを、データを使って点検するという姿勢で臨む必要があります。データの分析はあくまでも手段であり、ツールであるという前提にたつことで、データを効果的に活用することができるようになります。

2.分析

設定した課題・仮説をデータ起点で立証、評価、オプションを考案する
(1)データの確認
①市場トレンドデータ
 食のトレンドに関するデータを読み解き、生活者の変化を把握
 例:外食メニューの頻出ワードや口コミからトレンドメニューを確認

②自社商品の分析
 自社カテゴリー、SKUの商品販売動向や顧客属性を把握
 例:ID-POSデータで、食品SMにおける自社商品購入者、非購入者の顧客属性や志向性の特徴を把握
 
(2)企画立案
①コンセプト整理
 複数のデータを裏付けしながら、コンセプトを具体化
 新商品で解決したい課題・目的、開発目的、新商品が提示する顧客価値の整理

②詳細の分析
 食の人気店、TV番組のデータ等を用いて、求められる味や商品特徴、シズル感のある表現など、現在受け入れられているキーワードを確認し、誰に、何を(どのようなフレーバー)、いつ頃、どこで(販売チャネル)で、どのような形状やパッケージで提供するか、商品企画を精緻化

3.施策実行

 企画の具体化、業務プロセス上、前後関係にある取り組み同士を繋ぎ、共通の物差しとなるデータに立脚した施策を実行する。商品のコンセプトに適した「営業企画」、「販促企画」、「デジタル施策」のプランを設計。全体が整合的で、一貫性を持たせた施策になるようにコーディネーションを行う。

2.データ起点で商品コンセプトと一貫性を持たせた施策を展開

 次に、マーケティング部のカテゴリや商品の担当が、お客さまの期待や食に対する市場の変化を取り込み、新たな提供価値として具体化した商品コンセプトとの間に一貫性を持たせる形で協働する周辺業務について、見ていきます

(1)営業企画との連携

①データ起点で実施するオンライン時代の営業企画
・営業企画部門の市場理解
 自社取扱いのカテゴリの伸縮、新しいメニュー受容度など市場変化を営業へ情報提供
・店長向けのレポート
 オンラインの商談が増えている状況下、商談時の情報提供や、読み物として持参したり、データで送付するレポートのコンテンツ化
・オンラインウェビナー
 外食、中食、内食のトレンドや新しい食材とのマッチング、クロスMD例の解説

②バイヤーへの情報機会と提案品質の向上
・取引先屋号分析
 課題カテゴリの特定と販促や企画の提案
・販売動向分析
 併売食材の分析や他屋号事例からみたクロスセルの機会損失の説明
・クロスMD提案
 食のトレンドデータから、新たな食材や他社商品との組み合わせ販売や販促提案

(2)販促企画


①デジタル時代のSP販促
・ペルソナに基づく発信内容
 自社顧客、ターゲット層のペルソナ像を明確化、顧客理解を前提に、適したクリエイティブやコミュニケーションプランを策定
・自社オウンド
 上記のターゲット層を想定した自社オウンド(WEB、SNS)のコンテンツ作成と情報発信
・リテールメディアの活用
 自社オウンドのコンテンツと連動する小売店頭メディアの活用(小売のサイネージやレシピ会社が店頭に設置するタブレット等への配信)

②オンとオフをつなぐタッチポイントの設計と共同販促
・小売りのクーポン
 小売が展開するアプリに対するクーポン配信(レジオペレーション不要のCLO型)
・コード決済事業者の購買証明型販促
 PayPayやd払い等QRコード決済事業者が展開する、対象小売で対象商品購入時のインセンティブ付与
・小売との共同販促、広告配信と購買証明
 小売の顧客IDや購買履歴を用いて自社のターゲット層に近いオーディエンスに配信するデジタル販促広告

 上記は、一例ですが、デジタル思考の業務スタイルを浸透させ、全レイヤー、全ての業務で、ファクトベースの意思決定や顧客価値の開発が行われる状況を作るため、前後関係を持つ業務を、共通の物差しとなるデータで接続することで施策に一貫性や整合性を持たせる必要があります。

 お客さまのことを知り、お客さまの期待にお応えし続け、その価値を伝える、という一連のアクションを、同じ目線、統一された基準、共通の物差しで結びつけることで、業務間の連続性と一貫性が向上します。この結びつきが広がるほど、業務の効果的な遂行と効率の向上が期待されます。

3.まとめ

意思決定やアクションを決める際の判断の物差しとしてデータを利用部署、部門や業務間をファクトデータで接続し、同一の目線の元で一貫性を持った統合的な取り組みができる範囲、面積を拡張

 次回は、本連載の締めくくりとして「マーケティング領域のDXに取組む前に最低限知っておくべきこと」と「デジタル思考で取り組むデータドリブンマーケティング」の注意点、課題、手法、具体例のポイントのまとめをご案内します

 ここまで、ご一読いただきありがとうございます。マーケティング視点で読解力を高めるノートでまとめた電子書籍のコンテンツも、ご覧いただけたら、幸いです。

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