TOHOシネマズ「POP&COKE」物語、許すまじ!

私が唯一腹立たしく感じる「カップル」

 今日も今日とて、たくさんのカップルが街にいる。カップルの存在を疎ましく思う人もいるらしいが、私はおっさんのせいか、微笑ましく感じる。駅で名残惜しそうに抱き合うカップル、自然と手をつなぎ連れ添うカップル、人目をはばからずチュッチュとするカップル……善哉善哉。「あら、若いっていいわね」なんて、おっさんは若いカップルを見て思う。

 が、そんな私にも、二年くらい前からだろうか、許しがたいカップルが現れて、そのカップルが目に付くたびに、妙に腹立たしい思いに苛まれる。じゃあ見なければいいのだけれども、半強制的に見せつけられるので避けられない。下記のカップルのことである。



 これは、全国一の上映館数を誇る「TOHOシネマズ」で映画を観ると、高確率で予告の時間帯に流れるCMだ。初見の際には、「頭おかしいんじゃないの?」と衝撃を受けた。その後、何度も何度も見せられるうちに、どんどん「許すまじ!」という気分になってきた。詳しく見ていこう。

上映中に席を立つ迷惑バカ男

 まず、これは映画館による、映画館のための広告である。映画館の収入源は主に二つ。入場料とフード料で、意外と後者の比重が高いことはよく知られている。だから、ただでさえ無駄に長いTOHOシネマズの予告時間帯に、この手のCMが挟まれることは許せる。クソつまらないウサギとリスの寸劇も許せる。

 だが、このCMは、映画が好きで劇場まで観に来ている人に向けて、いくらなんでも常軌を逸していないだろうか。
 整理しよう。まず、カップルが主人公だ。おそらく高校生くらいだろうか。土曜日に私服でデート♡ってな空気である。良き良き。

 場内は満員だ。人気作なんだろう、上映時点で席が埋まっている。「ドキドキ、ワクワク。さぁ映画が始まるぞ!」というタイミングで、男の子が不意に席を立つ。

 「どうしたの? おしっこしたくなっちゃったの?」と思うでしょう。それが違うんですよ、旦那!

 こいつ、この期におよんでポップコーンとコーラを買いに行ってやがる! いったい何を考えているんだ!! ってことは、もし私が隣に座っていたとしたら、集中して観始めた矢先に、いきなり横を通られ、また戻ってきて通られ、するわけだ。ふ・ざ・け・る・な!
 いや、おしっこならしょうがないよ。おじさんも鬼じゃない。ゲリピーだったら、「君、お腹の調子大丈夫かい?」くらい声かけたげるよ。
 でも、ポップコーンとか、コーラとか、「先に買っておけよ!!!」。つうか「もはや食うなよ!!!!!」
 
こやつ、確実に仕事ができないタイプ。手順とか考えられず、仕事が少し増えただけで、収集つかなくなってフリーズするタイプ。爽やかで初々しいカップルだな~と思いきや、ただのバカ男だったとは!!

媚び媚びで男をアシに使う迷惑ブリッコ女

 とまあ、だんだんこの男の迷惑っぷりに腹が立ってくるのだが、このCMにはもう一段ある。そう女の子のほうである。男の子がなぜ席を立ったのか、今一度ご覧いただきたい。

 めっちゃ目で「買ってこいや!」って指示出している~!!
 いやいや、それは穿ちすぎでしょう、彼の様子が気になっている可愛らしい笑顔じゃない、と思うでしょう。ところがですよ、奥さん!

 彼が買って帰って来るなり、「ありがとう」とか、のたまっとるんです、この小娘は!いやはや、元凶はこいつだな!!!自分の手は汚さず、「ポップコーン食いてえなぁ、かつコーラ飲みてぇ」というてめぇの我欲を、さも慎まし気な「ブリッコ」でごまかして迷惑をかける。
 「そんなに食いたきゃ、てめぇで買ってこいよ、てめぇで!」
 こやつ、ブリブリの媚び媚びで人生渡り歩いてきたタイプ。自分の発言に責任を取らない、人の話を聞いたふりして聞かない、人を理解しようとしない、の三・三・「ないないない」拍子のタイプ。イケメンと美少女のお似合いカップルだな~と思いきや、ただのクズ女だったとは!!

このカップルの前途を憂う、もはや呪う

 このカップルが実在していたら、なんて声をかけるだろう。じじいの説教にしかならないが、あえて言おう。
 私も若者だったとき、女の子と映画館になんぞ行ったりしたもんだ。そんなとき、おじさんはどうしていたと思う?

 ガチで映画観ていたよ!超集中してた!!なんだったら、隣に女の子いるの忘れる勢いで号泣したりしてた!!!もっといやぁ、映画が終わってすぐに感想を話そうとする相手に対し、「ちょっと余韻に浸りたいから、5分くれるかな?(`・ω・´)キリッ」と言いたいくらいだったよ(言わないけど)。
 それをば、君はなんだい?

 あっ、ポップコーン食べようとしたら、指が当たっちゃった!

 「タハ~♡(*ノωノ)」って、タハ~じゃないよ、タハ~じゃ。スクリーンじゃ人が、2、3人死んでるところだろうが!

 だんだん二人の距離が縮まって、気づけば手をつないで……

 そして、見つめ合い……って、スクリーンを観ろよ、スクリーン!何のために映画を観に来てるんだよ。大爆発が起こって、血が噴き出してる頃合いだろうが!!ねぇ、それ今じゃなきゃいけない? 上映終了後まで、待てないかな??

 そして、本当に怖いのは最後の最後である。

 「この男、マジでチョロ( ´艸`)」と言わんばかりの女の子の笑顔(これはだいぶ穿った見方だが)。人に対して、そういったなめ腐った態度をとるのは止めなさい。彼も可哀想だし、周りの客も迷惑だし、それで君が得られる幸せとはなんなんだい!?

TOHOシネマズは、マジでなんでこんなCMを作ったのか

 彼らの行動を整理しよう。
1)映画館に来る(楽しそう!)。
2)彼女の無言の圧で、彼氏が上映中にも関わらず、席を立って「POP&COKE」をキメてくる(迷惑!)。
3)上映そっちのけで彼氏が堕とされる(バカ!)。
4)映画に興味ない彼女がご満悦(クズ!)。
 いったい毎度毎度、楽しみに映画を観に来て、何を見させられているのだろうか。

 これが映画興行側の「公式作品」であることの恐ろしさたるや。
 いや、わかる。映画なんて、別に肩肘張るようなものでもなし、デートでサラッと観て話のタネにするもよし、暇つぶしにチョチョっと入るもよし。私もシネフィルなわけでもないから、それ自体はわかる。し、わりと自分もそうしてきた気はする。

 でも、それは公式に訴えることなのだろうか。今の賢しい若者たちが、これを見て「いいわ~、キュンキュン!」「僕たち/私たちも、『POP&COKE』をキメようね!」となるんだろうか?

 ……ならんだろう。少なく見積もっても、あれだけ「マナーを」「マナーを」と何度も警告を流しておいて、この「マナー違反」作品を流す存念をうかがいたい。大袈裟なところで言うと、PC、PCと盛んな昨今に、この男女へのバイアスのかかりよう、歪んだカップル観は、異常であろう。

勝手に対案を提出するならば、ずばり『ゴーン・ガール』

 「そういうけどさー。じゃあさ~じゃあさ~、どうすればいいわけ?こっちはマーケティングとか、客のリテラシーへの配慮とか、いろいろ考えた末なんですけど~」と言われそうだ。「『POP&COKE』は必須だし、手つなぎもマストだかんね」か……。よし、一例として対案を出そう。

1)デヴィッド・フィンチャー好きということで意気投合したカップル。映画館に行く(楽しそう!)。
2)「『POP&COKE』キメる?」と彼氏。彼女、うなずく。支払おうとする彼氏に対し、彼女は「自分の分は自分で」と譲らずに払う(ここで「自立した女性」を強調)。
3)『ゴーン・ガール』上映が始まり、食い入るように観る二人。「POP&COKE」もキマってくる(とっても楽しそう!)。
4)エイミー(ロザムンド・パイク)が金持ちの元カレの首を掻っ捌くシーンで、恐怖のあまり悲鳴を上げ、ポップコーンをぶちまける彼氏(映画への没入感を演出)。
5)それに気づいた彼女が微笑み、「あたいはこんなCRAZYガールじゃありまへんで」とばかりに彼氏に手を添える(キュンキュン要素注入)。
6)落ち着き、笑みをたたえた彼氏が、「俺っちもニック(ベン・アフレック)みたいな浮気男じゃないぜ」とばかりに手を握る(キュンキュン要素増強)。
7)上映が終わり、ロビーで熱く議論を交わす二人(超楽しそう!)。
8)そして、見つめ合い……「POP&COKE」と出て終了。

 いいじゃん!これだ、これ。すごく応援したくなるカップル。というより、もはや前途が有望すぎて、「お幸せに!」って感じすらする。

 これでいきましょう!解決解決。

 あっ、ちなみに件のシーンは下記です~。
※グロいのが苦手な人はお気をつけを。


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