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軽井沢

台風を無視して軽井沢に来た。気温23度という予報は本当だった。なにしろ台風直撃のお盆だったから高速道路が空いていて、出発からいよいよ快適で、時折ザッと来る雨も関東の猛暑からすればよほど恵みに感じた。遠出の旅は久々で僕は岩からなる高い山や一面びっしり繁る苔などにいちいち驚いた。武蔵野むさしのの雑木林、これとは全く別世界の、外国のように感じた。安直に別荘でも構えたいと思った。来年のお盆休みにでもぜひ、せめて一週間くらい滞在しようかと思う。今回は翌日にも予定の詰まった旅だったから、街を行くにも森を行くにも車でいそいそ動いた。今度はぜひとも散歩して、ビールを飲んで絵を描きたい。

標高1000メートルの街だそうだ。曇天に霧が立ち込めてただでさえ冷涼な場所なのに、雨霧のつぶてが僕の半袖はんそでの腕をいっそう冷やし、また見た目にも霧の林は殊更に涼しかった。車窓に流れる木立はすべて真っ直で、その隙間から西洋風の建物が幾つも見えた。ある所で車を降りて、観光客に開かれている一つの邸宅にお邪魔した。白樺林に建つ背の高い屋敷である。林は庭の中にも構わず立って、その皮のすべてに緑や銀の色をした苔が貼り付いていて湿っていた。窓ガラスが分厚くてりてりしている。屋内には古い材木の濃い匂いが充満していて静かであった。生憎あいにく僕はなんの画材も持ち合わせていなかったので、再訪を強くこころに決めた。

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