中学高校の探究サポートに博士号教員が増えてほしい
今回は、中学校や高校の探究活動の現場に博士号を持った先生が増えてほしいというお話です。
今回のテーマのきっかけとなったのは、ダイヤモンドオンラインさんのこちらの記事でした。
内容は、来春の大学入試動向に関するものです。
今、大学入試はハイスピードで変化を遂げています。総合型選抜や学校推薦型選抜と言われる、今までのペーパーテストとは違う方式での入試形態が急激にその割合を増やしています。最近メディアでもよく取り上げられていますのでご存知の方も多いことでしょう。上記の記事も、そうした内容が中心となっています。
個人的に興味深く感じたのが、総合型選抜や学校推薦型選抜などの非ペーパーテスト型の入試に地方の公立高校もだんだん適応してきている旨の言及があった点です。
県立秋田高校の快挙
記事で言及されていた県立秋田高校では、校内に博士号を持った先生を配置し、東大のような難関大学に推薦で合格するような生徒を育てていると書かれてありました。
東大の学校推薦型選抜がはじまったのは2016年度です。これまで合計8回試験があったことになりますが、合格者が出なかった年は1年だけなのだそうです。
これは相当すごいことです。というのも、東大の学校推薦型選抜には学校が推薦できる人数に上限があり、2020年度までは1校あたり2名まで、2021年度以降は1校あたり4名までと決められているからです。何人も送り込めるわけではないのです。
少数の精鋭を毎年確実に送り込み、なおかつ、合格まで持っていけている。これはかなり力のある体制だと思い、いろいろと調べてみました。
秋田の博士号教員採用システム
博士号教員を配置しているのは、県立秋田高校だけではありませんでした。秋田県が県の施策として進めており、今年度は、県立秋田以外にも、大館鳳鳴、能代、秋田中央、大曲農業、横手、横手清陵の各県立高校に先生方が配置されています。
博士号教員採用制度が始まったのが2008年。かれこれ15年ほどになります。当時、大学入試センター試験で、県内の高校生の理数系科目の成績が低迷していたことから、知事の補佐機関の考えた対策がこの博士号教員の制度だったそうです。
これまでこの制度で採用された先生は12名、今現在活動されてる先生は7名いらっしゃいます。その7名が7つの県立高校に1人ずつ配置され、そこで生徒たちのサポートをしている格好です。
10年ほど前からは、博士教員教育研究会を立ち上げ、組織として多様な取り組みをするようになりました。
自校の生徒へのサポートだけではなく、小中学校も含めた他の学校での出張授業。「未来の博士養成講座」として県内の高校生を対象にした公開講座の実施。探究活動をしている各学校の生徒が研究発表を行い、それに講評し合う「サイレンスカンファレンス」の開催。探究活動の進め方に悩む先生や生徒の相談に乗る「研究相談」。実に様々な取り組みを進め、15年の年月をかけて知見をためてきました。
似たような取り組みをしてる自治体は、もしかしたら他の都道府県にもあるかもしれないですが、こうした取り組みを始めたのは、秋田県が初めてのことなだそうです。
探究活動、取り組みの難しさ
学習指導要領の改訂により、探究活動が必修化となったことは、すでによく知られているかと思います。
小中学校では「総合的な学習の時間」の中で探究的な活動が取り入れられています。高校では昨年度から「総合的な探究の時間」が必修となりました。
探究活動とは何かと言いますと、「自ら課題を設定し、その解決に向けて情報を収集したり整理・分析したり、まとめ・表現したりしながら、周囲の人と協働して進めていく学習活動」と位置付けられています。
鳴り物入りではじまったこの探究活動。個人的にはとても好きな取り組みです。ただ、実際の現場においては、難しさと言いますか、なかなか上手くいってないという声も聞こえてきます。
どのような問題が起こってるのでしょう。いくつか例を挙げていきます。
まず、探究的な活動は、学習者1人1人の主体性に基づいて行われるべき活動です。しかしながら、学校の授業で行う場合、みんながみんな、はじめから積極的に動いてくれるわけではありません。先生側が引き出さなければならないケースも出てきます。そうした関り方は、生徒の主体的に基づいた活動になるのだろうか?というところに、引っかかりを感じている先生もいらっしゃいます。
指導の仕方や、出てきたアウトプットの評価が難しいという話もよく聞きます。
生徒1人1人が、いろんな「問い」をもって活動を進めるにあたり、それを1人の先生が見るのも現実的ではありません。外部の有識者などに協力をお願いすることもあります。地域によっては、連携する先がなかなか見つからなかったり、そもそも外部の方を巻き込んで調整・管理したりするのは先生の負担に直結します。
先生も大変なら、生徒も大変です。探究は、目標やゴールがわかりやすい教科学習とは違い、ある種、「終わりの見えづらい活動」です。学校の教科学習だけでなく、受験勉強と並行して進めるのは簡単なことではありません。
博士号の専門性を活かして
今回、博士号教員の制度が魅力的に映ったのには理由があります。
博士号を取った方というのは、まさに「探究のプロ」なのです。自分の研究領域で独自のテーマを見つけ、その道で認められて最終学位を取ったわけですから、探究を極めた人材といっても過言ではありません。
そんな先生が中学生・高校生の探究活動に寄り添ってくれたら、教科担任の先生方も負担が軽減されますし、博士号を持った先生方の専門性も活かせます。これ以上ない組み合わせだと思うのです。
中学生・高校生がイチから“自分の問いを立てる”のはなかなか難しく、素朴な考えや気になることを持っていたとしても、それを適切な「問い」に落とし込むには技術が必要です。そのサポートに入ってもらうこともできるでしょう。
そしてそれを、研究のかたちに整える部分にも博士号の知見は活かされます。研究が上手く進まないときの相談や考察のまとめ方・見せ方でも、学ばせてもらえることは多いでしょう。
こうした博士号教員のサポートが特定の地域や学校だけでなく、いろんな地域、いろんな学校で進んでいったならば、すばらしい学びの環境につながっていくと思います。
現実にある課題
ニュースでもよく取り上げられているように、学校の先生は、今、本当に多忙です。生徒ひとりひとりの探究活動に心を砕くのは厳しい状況だろうと想像します。
一方で、日本は他の先進国と比べて博士号を取る人数が減ってという課題もあります。最大の理由は、博士号を取ったところでその実績を評価する就職先があまりないという状況でしょう。文系の場合はより顕著かと思います。
仮に、博士号を取った方が思い描く理想の就職先に就けなかったとしても、自らの専門性を活かし、高校で後輩を教える、後進を育てる道が開かれているのであれば、ひとつのモチベーションになるのではないでしょうか。
そのためにも、学校の先生の多忙感の解消を進めると同時に、待遇面の改善がはかられてほしいと願っています。博士号まで取ったのにこんな給料では、、、と思われるような待遇ではなかなか選んでもらえないでしょうから。
中学生・高校生は、未来の大学生・大学院生と続いていく存在です。彼らを大切に育くみ、未来を輝かせることは、「探究のプロ」にとってもやりがいのあるミッションではないかと考えます。
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