【後編】イベントレポ「いまさら聞けないアパレル生産管理の話」
続編です。
前編は「アパレルの生産管理が円滑に業務を進めるための7つのポイント」について座波さんがお話されたことをまとめました。
トークセミナーの前半のこの部分だけを切り取って考えてみても、アパレルの生産管理と言う仕事が他の業界にも通じる汎用性の高い職業だと言うことがわかります。
当日のトークセミナーではここから座波さんがTwitterではじめた
#アパレル生産管理死亡かるた を用いながら実際に体験談から学んでいったことをお話されました。面白いけど、深い!!
#アパレル生産管理死亡かるた ** とは**
座波さんがTwitterで「ミスに泣くアパレル生産管理の人を励ましたい!」という気持ちではじめたハッシュタグをつけたツイートで、アパレル業界人のみならず多くの人に共感をもたらした伝説の?ハッシュタグツイートです。2,3日で1,000件近いツイートが投稿されたといいます。
「励ましたいと思ってはじめたらはじけちゃった!」
という座波さんはとにかく前向き!納期遅れや仕事上のトラブルを
イベント
と呼び、ポジティブに捕らえながらそれを自身の今後の仕事で改善していくための糧にしています。とにかく前を向きながら仕事できるので一読の価値ありです。
トークセミナーではこのアパレル生産管理死亡かるたの中から5つのカテゴリーに分けて抜粋したものが取り上げられました。
ちなみに50音すべてのかるたの内容はフェイクなしのすべてリアルな事象なのだそうで・・・想像するだけで冷えます・・・
では、行ってみましょう⤴️
その1,コミュニケーション不足による発狂
【の】納品3日前に裏地がとどいていないこと発覚。
まさにイベント発生の瞬間です。裏地を送ったと思い到着まで確認しなかったために3日前に確認の電話をして発覚した驚愕の事実。
【め】メールみてくださいーもう何回も送ってますーえ!?パスワード忘れた!?!?え!?いつからみてないの!?
アパレルの工場はいまだにFAXでやりとりしているところが多いのです。
これ、本当に多いのです・・・メールで送ったからと言って安心してはいけない。
【せ】(私)先方が電話出ませんーーー(先輩)昼に散髪行くっていってたから誰もいないと思うよ。(私)散髪!?!?!?
閑散期に工場の人が「午後はお休み」とお休みをするなんてこともアルという(おそろしい・・・)こうしたイベント(トラブル)はよくあるようで、東北の工場は「稲刈りなので今日から3日お休みする」といった地域柄イベントも続発するという。
対策
□日頃のコミュニケーションを大切に
□お互いの言葉の定義をすりあわせしよう
□エビデンスを入手しよう
人と人とのつながりを大切にする座波さんならではの対策が面白い。
例えば納品に行ったときに「ここのおじさん、そろそろ髪の毛伸びてきたな」と思ったら散髪のタイミングが近いことを察知して先手を打つ。
「この工場は秋になると稲刈り案件発生しやすい」などと覚えておきあらかじめ日程を詰めるなど先回りするのだという。
人がいる限りその数だけのやり方がある。あそこの工場は工員さん3人、こっちは100人と言う風に中身を知っておくことが重要。相手先の中のことがわかっていないとコミュニケーションも進まない。
この日出荷なのか、この日にあがり(仕上がること)なのか、Fax送った日が何日なのかこのあたりもきちんと明確にしておさえておくことが重要だという・・・エビデンス、全くその通りである。(でも、意外とみんなできてない)
その2,生地にまつわる死闘
【き】昨日出荷するって言いましたよね??今日手で持ってきてくれてもいいんですよ?5反
説明しよう。洋服を作るときに絶対必要なのがそう、布。
布を仕入れるとき、幅150センチ×50メートル(あくまで標準のサイズ)の巻き巻きしたものが届きます。1反とか2反とかいう呼び方をします。
大体1反約10キロくらいあるそうで・・・
想像してください、死闘です。5反手で持ってこいとリクエストしたくなるくらいの死闘。切羽詰まり具合が容易に想像できます。
座波さんは穏やかに言います。
「米俵くらいですね」
(「今時米俵で重さの想像ができる人がどのくらいいるのだろうか・・・」という突っ込みが入る和やかな雰囲気)
座波さんは続けます。
これも確認しなかったからいけないんです。生地を送ってもらうときは先方から「明日おくりますね」という言葉が出るまで確認する。たった数秒の確認でこんなイベントは発生しなくなる。
【き】き、生地幅が20センチ短い・・・だと・・・!?
これは先ほどの1反の説明を見ればわかるけど、生地には幅があり洋服を量産するときには1反で何着分つくれるか(用尺といいます)パターン(型紙)を計算しておきます。これが一般的な生地ではなく、生地からオーダーの製品だったりすると発生しがちな生地幅の違い。
幅が違うとパターン(型紙)がどんどんずれていき着分が結局少なくなってしまう。
このときは結局減産するしか手がなかったそうで・・・
【わ】割れると色ブレするのでその一反になんとか50枚おさめてください!!!
布を染めるとその染めた時によって同じ色でも微妙に違いが出ます。これを「ロット」と言います。例えば同じ赤いタンクトップでも「ロット」違うと商品として棚に陳列したときに違う赤になってたりするのです。これが色ブレ。そして反が変わることを「割れる」といいます。
だから同じロットで同じ製品を作らないといけません。例えばセットアップで色ブレ発生してしまうと上下で微妙に違う色だったり、ということです。それはちょっと困ります。結構かっこわるい。
ちなみにシーズン立ち上がり(春夏、秋冬のシーズン)とシーズンおわりでは同じ商品でも色ブレしていることがあるとかないとか、ベージュに色ブレでやすいんだとかそうじゃないとか・・・
アパレルあるあるなんですけど、知らない人多いです。泣ける。
こういうこと知ってるとお店を見て回ったときに
「すごい、同じロットで作られている!」と感動するかも。しないかも。
対策
□生地の発注〜届くまで「楽観」は禁物
□生地のロットや在庫を確認すべし
□送り先・出荷明細は必ず確認
対策読んで当たり前だと思うでしょ?でも意外とやらないんです。確認。
ロットについては本当にアパレルならでは、ですね。
こういうイベント発生で生産管理の方々はおなかが痛くなっちゃうのだそうです。
生地の発注からお届けまで楽観してはいけません。生地を発注するときは生地のロットや在庫まで確認する必要があります。在庫が何反あるのか、安全策で何個もらえるのか、同じロットで何反あるのか・・・
工場は自分たちだけを相手にしているのではなく、ものすごい数のお客様と仕事をしているんです。なので相手に確認を任せずこちらから聞きに行く姿勢が大切。
「届きましたか?」
「色ムラありましたか?」
「忙しいところお手数ですか確認してもらえますか?」そういうところまで詰めることで後で大変なことにならないようにするんです。
確認することで自分が伝えたことが合っているかな、と確認もできます。
座波さんは常に相手の立場に立って行動する。
そしてとにかく人任せにしない、常に先手を打つ姿勢。
これってアパレル生産管理だけに役立つスキルじゃないな・・・。
さぁ長くなってきたけどその3です。
その3.指示ミスによる地獄
【お】落ち着いて聞いてくださいね。ネーム全部逆さまについてます。そう、500枚。
ネームというのは洋服の襟の内側部分についているブランドロゴなどが入ったタグのことです。これが・・・逆さまについて500枚納品されたというお話です。実話だそうです。ホラーです。
これは筆記体の英語表記のブランドできちんと上と下を指示、確認をしなかった詰めの甘さ(と、座波さんは言います)から発生したイベントだといいます。自分の常識は相手の常識ではないかも知れない。
このとき座波さんは全部ほどいてネームをつけなおしたのだそうです・・・500枚。苦労話・・・
【え】襟ぐりが小さく、頭が通りません全量!!!、
アパレルに従事していなくても想像つくと思いますが、これは非常にイベントです。全量・・・サンプルあがったときに確認しておけば・・・
そう、事例を見ていくとだんだんどういう対策が事前にとられるべきだったのかわかってきた気がしませんか??(まだしないかな・・・)
対策
□指示はわかりやすく的確に!
□仕様書は「間違っている」前提で確認
□サンプルあがりチェックも入念に
わかっているだろう、という曖昧さは禁物です。
指示はここまでやるかなってところまで、こんなのわかっているだろうと油断はしません。「右から5センチの上から4センチ・・・、こっちが上でこっちが下」など仕様書は間違っているという前提でチェックするんです。自分で書いていても「間違っているかも知れない」という気持ちで。
座波さん、もはや尊いレベルです。
その4.納期死守の攻防
【あ】明日出荷?違うってば、明日納品、の・う・ひ・ん!
納品の確認は必ず「明日」ではなくて何月何日、どこに着なのかを確認すべしという事例。さらにブランドだと店頭着がいつなのか、も詰めておく必要があります。
【や】ヤバイヤバイ台風台風くる便止まる便止まる納品できない穴があく!!!!台風止まれ!!動くな!!
物流を介すので不可抗力もあります。例えば台風、雪。「雪が降ると便が鈍くなる」そうで、さすがの座波さんも天気までは変えられない。
でもそこは座波さん、「台風シーズンは余裕をもたせる」など経験上得た知識をフル活用している。
【た】たんま、だめ、そこの工場旧正月その後工員帰ってこなかったからだめ、ぜったいあがらない
海外の工場の事例ですね。旧正月、中華系の行事ですね。
経緯としては旧正月でお休みをとった工員が故郷に帰り、家族親族と話をする→他の工場はもっと時給や待遇がよいことを知る→もとの工場に戻らず、そっちに転職してしまう。といったことが想像できるそうで・・・
これは文化だから仕方がない
さすが座波さん、動じません。そして相手の文化までひっくるめて尊重しています。尊重しながら仕事をする姿勢がぶれてない。
独特の文化があるならばそこを見越して、どの時期、どの量をどの工場に発注すべきかなど検討材料にしていくのでしょう。工場の特徴を把握しておくことが結果的に納期攻防戦を勝ち抜くコツだったりするんですね。
【い】いっちばん速いので送ったっていったじゃないですか!?なんで夕方届くんですか!?
一番速い、これ、とても抽象度が高い言葉ですね。誰にとって一番速いのか、朝一なのか、昼過ぎが一番速いのか、もしかして夕方なのか。
自分から運送会社に電話して確認します。こっちから学びに行くことが大事です。最悪こっちから取りに行きます。
座波さん、明るく語る口調から想像できないくらい修羅場をくぐってきたのでしょう。アパレル生産管理の生き字引(そんな年ではない!!)
すごいぞ、もっと話が聞きたい!!
対策
□謎の運送会社には注意 事前の確認を
□過去の事例を学ぼう
□最後はハンドキャリー(自分が行く)
ジェンダーフリーなこのご時世にこの表現が合っているのか、若干の語弊があるかも知れないけど・・・文脈的に柔らかく理解して欲しい・・・
座波さん、イケメンすぎる。
その5.海外想定外シリーズ
メイドインジャパンが3%を切っているアパレル製造業界。海外工場に発注することも多々あります。
【ま】間に合わせるつもりでしたが、今日は工場が停電です
特に東南アジア圏などインフラが整っていないケースもあるのだそう。
そんな工場は停電する可能性ありというリスト入りする
工場によっては金曜の夜ボーリング大会がある、なんて工場もあってそこはもう工員さん、金曜朝から気もそぞろ感が出ているのだそう。
そんな場合は「木曜夕方までに詰める!」ことで対応するとか。
きっと金曜夜ボーリングありで、リスト入りしているのだろう。
謎のリスト、面白そう(面白がってはいけないリスト)・・・
【ひ】B品なら納期間に合います
世界中の人が日本と感覚が同じではないのです。
文化的に何かを選択したら何かをあきらめる文化もある
この場合、納期をとるか品質をとるか、という選択ですね。
「(指定されたレベルじゃないけど)このレベルでも着られるよね?」ということでしょう。日本は両方そろって当たり前の感覚ですね。
対策
□常に常識や当たり前を疑おう
□相手国の習慣を知ろう
□過去の事例を学ぼう
相手の国の習慣が日本と違ってもそれは決して悪いことではない。
知ることによって学べる。停電、週末のボーリング大会・・・相手の習慣を理解してすすめる。我々はおねがいする側なんです。
座波さん、名言すぎてこのnoteの文字数がひどくなってきました。
わたし、自分があまり長いnoteを読まないのですがさすがにこれはまとめたい!一心。名言多い。
しかし、お願いする側という発想、仕事を長く続けていると忘れがちです。いつまでもその気持ちを持ち続けられる座波さんはやはり尊いのか!?
(文章長くなってきて、自分の語彙力の欠落を痛感し始めました・・・)
ここで私のnote前半にも書いた「7つのポイント」をもう一度整理します。
この展開、むちゃくちゃ頭に入るパターンです。計算されつくされたセミナー感。
納期を間に合わせる、ハブになるために自分がいる。生産管理という立場がなんなのか、をわかっていればいいんです。
座波さんのフォロワーが多い理由がどんどんわかってきます。
洋服ができあがるまでにかかわる人数が多い。みんな専門分野、それぞれの専門用語を使う。例えば「殺す」なんて言葉も専門用語。同じ日本でも西と東でも違う。意思疎通が難しいのにそのくせ納期が短いんです。
きちんと問題を整理されていて、そしてその対応策を過去の事例からきちんと習得されている。しかも、#アパレル生産管理死亡かるた なんて方法でみんなを巻き込みながらどんどん業界全体の雰囲気を上昇させていっている感。
そんな座波さんにみんなから質問がたくさん集まりました。
白熱したトークセミナーも終盤にさしかかり質疑応答へ
まず、クイーン好きの座波さんに
「持ち歌は何ですか?」
全部のアルバム歌えるんですけど、一番カラオケで盛り上がるのはアンダープレッシャーですね!ボヘミアンラプソディーも好きです!!
会場の人がみんな座波さんのクイーン聞きたいと思ったに違いなかった瞬間である。
新しい工場を開拓するコツは??
知ろうとすると足かせになる、知らないことは「教えてください!」と相手の懐に入っていく。常識知らないんで教えてください!の姿勢が大事
もはや、座波的仕事術、っていう感じで本が書けそうである。
一番の修羅場は?
修羅場はイベント、その中でもフェス(大惨事)があった。まだ営業企画OEMをやっているときに1,000万溶かしちゃったことがあります。
それは一大フェスである。
そのときの社長がよかった。さすがに辞めちゃいたいと思っていたら社長が「よかったね、この経験は必ず活かせるように続けてくれ」と言ってくれました。昨日の失敗は明日の糧、失敗して落ち込むだけではなくて、失敗を認めて糧にしていくことがうまくなっていくコツです。
泣きそうになった。社長もすごいし、座波さんもすごすぎる。
「メンタル弱すぎ」とか自分で言っているのが恥ずかしくなってきた。
私一体、いくつだよ。
質問は続く、とにかく会場みんな熱い!
工場を選定するときのコツは?
新ブランドを1から立ち上げるのに工場を見つけるのは難しいとは思うが、という前提で・・・工場を見るときには、人数、ミシンのかず、どんなペースで仕事をするのか(夕方までか残業までするのか)どういう風に仕事を依頼すれば相手が苦しくないのかを見る。どのくらい枚数仕上げられるのか。
1工程にどのくらい時間がかかるのかを把握することが必要。裁断に1日なのか、縫製に何日かかるのか、どこの部署にどのくらいかかるのかを把握することでムリなお願いをしなくて済む。
確かに、お互いの認識をすりあわせてから交渉すれば結果的に死ななくて済む。
さらに・・・
会社としてつきあうときに、人間的にはいいんですが、検品ミスなど多くておつきあい続けるか迷うときどうしますか??
という質問には
直接言っちゃいます。どうしたんですか〜?最近ミス多いですけど?って。大変そうなら「じゃ、手伝いますわ!」ってなります。そうしていくことで「座波さんとこ、検品ミス、漏れやっちゃうとまずいな」っていう空気になっていくんですよ。
文句を言うのではなく逆にいたわるのだそうだ。
何でだろう?量多くて納期短いのかな?どのくらいゆとりもったらいいのかな?どうしてそうなったのか、考えてケアする。
もはや神レベルです。
そして、この記事すでに7,000文字
ここまで読んで頂いたかたほんとにほんとにありがとうございます。
勉強になりすぎるトークセミナーは次回も開催が決定したそうで、7月25日(木曜日)だそうです。詳細楽しみですね。
とにかくトークの中では会場のみなさんが「あるある」と大きくうなずいたり、クスッと笑ってしまったりと楽しく語られていたのですが、座波さんの言葉の中にはアパレル業界、業界で仕事をするすべての人への愛情がたっぷり盛り込まれていました。
とにかく相手の立場にたって、相手を理解し、尊重した上で自分が率先して動く!!
こういう人間性だからこそ人との信頼関係を築くことができ、仕事が円滑に進むのだと深く深く納得したのでした。
そんな座波さんがめでたく昨日新ブランドを立ち上げたそうです。
これまたブランドストーリーが熱い!
わたしの拙い、けれども長い7,000文字強のnote読ませてしまった後に恐縮ですが、座波さんんのこのnote必読です。
こんな生産管理の神、いや、人間的にできちゃってる座波さんの新ブランド、展開楽しみすぎますね。
この記事を書いた人 ーKatyー毛糸屋さんです。オンラインショップknit me!:https://knit-me.com/毛糸屋さんのTwitter:https://twitter.com/knit_me_毛糸屋さんだけど中の人のつぶやき(プライベート多め):https://twitter.com/KatyKeito
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