「衝動のサーフィン」でセルフコントロールする
ビジネスで衝動的になる瞬間
「衝動」を感じる瞬間というと、一般的には、アルコール、たばこ、食べ物(ジャンクフード、スナック類、スイーツなど)、ゲーム、あるいは、怒りなどが挙げられます。ビジネスではどうでしょうか?ビジネスでは日々いろいろなことが起きます。スタートアップのビジネスでは尚更その傾向が強いです。私がスタートアップ経営で一番経験する衝動は、「スマホへの衝動」です。特に、頻繁にデータをスマホでチェックしたくなる衝動ですね。
私の会社では、健康系のアプリを展開していますが、以前は、このアプリのダウンロード数やアクティブ利用者数のチェックに翻弄されておりました。何をやっていても、次の瞬間、すぐにデータをチェックしたくなる衝動に駆られるのです。これは、他の衝動でも共通して見られる現象でしょう。上場企業の社長でしたら、自社の株価の動きをチェックしたくなる衝動に常に駆られるかもしれません。
神経科学の観点からみると、衝動は、脳の奥深くに位置する大脳辺縁系から生み出される反応です。大脳辺縁系は、意識的な処理を必要とせず、情動や直感を生み出す場所です。それに対して、脳の前方に位置している前頭前皮質(前頭前野ともいう)は、大脳辺縁系から送られてきた衝動をよく吟味し、適切な反応になるように調整します。そのおかげで、私たちは衝動をそのまま行動に移してしまうことを防げるのですが、疲れていたりすると、この前頭前皮質によるコントロールに失敗してしまい、衝動のままに暴走してしまうことがあるのです。では、前頭前皮質の頑張りを支え、衝動にうまく対処するには、どうしたら良いのでしょうか?
「衝動のサーフィン」とは?
例えば、お酒を飲みたいという衝動に駆られたとき、その衝動を波にたとえ、その波に逆らわずに軽々と乗りこなして、やがて波が小さくなるのを待つイメージを持つトレーニングを「衝動のサーフィン」(Urge Surfing)といい、米ワシントン大学のG.アラン・マーラット博士によって、1994年に提唱されました。これは、マインドフルネス・トレーニングの中で、「受容」(Acceptance)、つまり、判断をせずに、ありのままを受け入れる態度を高めるトレーニングとして、活用されています。
何かの衝動に駆られたとき、その衝動と争うことをせず、衝動の波に乗っかり、その波が小さくなるまで待つことができると、衝動と行動の間にスペースを与えることができるため、例えば、お酒への強い衝動を感じても、飲酒という行動を控えることができるのです。スマホなどのデジタル機器を自発的に断絶する「デジタル・デトックス」なる言葉もありますが、いつもそれをやっていては仕事にならない場合もあるので、「衝動のサーフィン」を使って、頻繁な衝動には対処しつつ、たまにデジタル・デトックスをして、一定期間、「デジタルを断つ」のが良いのではないかと思います。
自分を受容すると身体は反応する
衝動を感じたときに、「受容」することが大事だと書きましたが、これは身体の反応にも表れます。そのことを明らかにした研究があります。米カリフォルニア大学サンディエゴ校精神医学部のローラ・キャンベル=シルス博士らは、約5分間の映画のワンシーンの視聴によって生じるネガティブな感情を、抑制する場合と受容する場合で、その後の気分や心拍数がどう変化するかを調べました。ベトナム戦争を題材にした、ロバート・デ・ニーロ主演の『ディア・ハンター』(1978年)の中で、兵士達がロシアン・ルーレットに興じるワンシーンが対象に選ばれました。参加者は2グループに分類され、1つのグループは、映画を見て生じる感情をなるべく抑制するように指示され(感情抑制グループ)、もう1つのグループは、感情をありのままに受け入れるように指示されました(自己受容グループ)。
結果は、感情抑制グループは、映画視聴によって心拍数が増加し、ネガティブな感情が視聴後も持続しましたが、自己受容グループは、なんと、映画視聴中の心拍数が減少し、視聴後のネガティブな感情もすぐに消失したのです!
この研究から、ネガティブな感情を無理やり抑制することは、かえってストレス反応を強めること、一方、感情をありのままに受容することは、ストレスを軽減し、心身への悪影響を抑えられることがわかりました。衝動を感じたときにも、無理やりその衝動を抑制するのではなく、「衝動のサーフィン」を使って、自己受容できるようになれば、ストレスを抱えずに済むようになりますね。
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