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現実を受け入れてストレスを受け流す

アップダウンへの対処

 どんなビジネスでも同じかもしれませんが、スタートアップのビジネスは、特に、アップダウンが激しいと思います。昨日良いことがあったと思ったら、翌日は悪いことが起きて、ジェットコースターに乗っているような気分になることが結構あります。このジェットコースターに振り回されていると、メンタルのリソース(資源)がとても消耗するため、私はある段階から、ひとつの習慣を身につけました。それは、ビジネスのアップダウンに対して、「喜びも落ち込みも、半分に抑える」ということです。

 落ち込みを半分に抑えるのは、意識すると比較的実行しやすいのですが、喜びを半分に抑えるのは、結構難しいと感じました。喜びはとことん味わう(セイバリング)方が、ポジティブ心理学の考え方に従えば、ウェルビーイングが高まっていいかもしれませんが(詳しくは、「今この瞬間を、味わう」をご覧ください)、スタートアップビジネスの中では、喜びをとことん味わうと、その後、ちょっとネガティブな出来事が起きただけで、喜びの感情が大きく毀損されてしまうように思います。

 したがって、喜びも、落ち込みも半分ぐらいに抑えておけば、アップダウンに対して、メンタルのリソース(資源)の消耗をかなり抑えることができると考えるようになりました。これは、学術的には、感情を評価せず、ただ受け入れる、「自己受容」という概念に近いと思います。


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「自己受容」と心拍数の関係

 ストレスを低減する有効な手段として、「今ここ」に意識を集中するマインドフルネス瞑想がありますが、「自己受容」はマインドフルネス瞑想の中の考え方のひとつです。人は、ネガティブな出来事を経験すると、そのガティブな感情を評価し、内省を繰り返してしまいがちですが、そんな時に、自己受容は有効です。この自己受容が私たちのストレスに与える影響について、興味深い研究をご紹介します。

 米カリフォルニア大学ロサンゼルス校心理学部のカリッサ・A・ロー博士らは、評価や内省、自己受容が、心拍数に与える影響について、実験を行いました。実験では、81人の参加者(大学生)に、現在抱えているストレス(学業、恋愛、人間関係等)について記述してもらった後、参加者を3つのグループに分けました。1つ目のグループには、そのストレスから生じる感情について、評価し、内省する内容を記述してもらい(評価グループ)、2つ目のグループには、否定も肯定もせず、ありのままを受け入れるように記述してもらい(自己受容グループ)、3つ目のグループには、ストレス経験の事実のみを記述してもらいました(統制グループ)。この間ずっと、全参加者の心拍数を計測し、記述による心拍数の反応(増加)と、記述後の心拍数の回復(減少)を比較しました。

 結果は、自己受容グループが、心拍数の増加が少なく、心拍数の回復が早いことがわかりました。逆に、評価グループは、心拍数の増加が多く、心拍数の回復が遅いことがわかりました。つまり、自己受容することで、ストレス反応をうまく受け流すことができたということですね。


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ビジネスシーンでの「自己受容」のやり方

 では、具体的なビジネスシーンで、どのように自己受容を取り入れればいいのでしょうか。例えば、アプリのバグが発生して、ユーザーに迷惑をかけてしまったというシーンで考えてみます。アプリのバグは、開発企業にとって、とてもストレスフルなイベントですが、以下の2つの対応パターンを比べてみましょう。

 まずは、ストレスを評価・内省するパターンです。

「あー、ユーザーに多大な迷惑をかけてしまったなぁ。クレームもたくさんきてる。なんで、未然に防げなかったんだろう。自分たちはスキルレベルが低くてダメなあ。一体誰のミスでこうなってしまったんだろう?

 次に、ストレスを受け止め、自己受容するパターンです。

「あー、ユーザーに多大な迷惑をかけてしまったなぁ。クレームもたくさんきてる。でも、起きてしまったことはしょうがない。自分たちのスキルレベルを見直して、良い改善策を考えよう。リリースのタイミングに無理がなかったかも確認しよう。

 いかがでしょうか。後者の自己受容パターンの方が、受けるストレスは少なくて済むような気がしませんか?

ちなみに、評価・内省でも、自己受容でもなく、感情を抑制するという3つ目の方略について、その影響を調査した、米カリフォルニア大学サンディエゴ校の研究によると、ネガティブな感情を抑制すると、かえってストレス反応を強めてしまうことがわかりました。したがって、ビジネスでネガティブなことが起きたときには、評価・内省でも感情の抑制でもなく、意図的に自己受容することで、ストレスを受け流すように心がけましょう。


参考文献:
・Low, C. A., Stanton, A. L., & Bower, J. E. (2008). Effects of acceptance-oriented versus evaluative emotional processing on heart rate recovery and habituation. Emotion, 8(3), 419.
・Campbell-Sills, L., Barlow, D. H., Brown, T. A., & Hofmann, S. G. (2006). Effects of suppression and acceptance on emotional responses of individuals with anxiety and mood disorders. Behaviour research and therapy, 44(9), 1251-1263.

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