見出し画像

「孤立」と「孤独」

 コロナ禍でのリモートワークの広がりによって、働き方に大きな変化が起きました。オフィスにあまり出社しなくなったことで、通勤ラッシュを回避できたり、移動時間を節約できるメリットがある一方で、人とあまり会わなくなるため、「孤独」が助長されています。
 
 そもそも、コロナ禍にかかわらず、日本では、一人暮らし(単身世帯)の割合が年々増えており、2025年には、2015年よりも8.4%増えて、1996万世帯(総人口の16%)になると予測されています*1。その中で、「社会的孤立」の問題が深刻になっています。

「社会的孤立」とは、近隣の住人、友人や親族等,身近な人との接触頻度が少ない状態を指します。したがって、一人暮らしをしていても、ご近所さんや友人、知人、親族との付き合いが盛んな人は社会的に孤立しているとは言えません。そして、「孤立」と似ている言葉に「孤独」があります。

「孤独」とは、寂しさや心細さといった情緒的な感情を抱いている状態を指します。したがって、仮に社会的に孤立していても,ネガティブな感情を抱いていないような人は,「孤独」には該当しません。逆に,他人とよく接していても,その人間関係に満足しておらず,寂しさを抱いているような人は、「社会的孤立」には該当しませんが、「孤独」に該当するということですね。

孤独とメンタルの関係

 孤独は身体的な健康に様々な悪影響を及ぼしますが、メンタルにも大きく影響します。米シカゴ大学心理学部のジョン・T・カシオポ博士らは、孤独は抑うつにも関連していることを明らかにしました。カシオポ博士らは、アメリカ人の中高年の成人を対象に、2つの調査を行いました。1つ目の調査は、全米の54歳以上の成人1,945人を対象にしたもので、調査の結果、孤独は、年齢、性別、人種、教育、収入、結婚、社会的支援、および知覚されたストレスの影響を除いても、抑うつと関連することが明らかになりました。

 また、2つ目の調査は、イリノイ州クック郡の50~67歳の成人229人を対象にしたもので、3年間にわたって収集されたデータを比較分析しました。その結果、孤独は抑うつの原因になり、抑うつは孤独の原因になることがわかりました。

 さらに、孤独と抑うつの関連性は、女性よりも男性の方が強いことがわかりました。つまり、男性の方が女性よりも、孤独になると抑うつ状態になりやすいということです。一般的に、女性の方が男性よりも、抑うつになりやすいにもかかわらず、孤独から抑うつになりやすいのは男性なのです。リモートワークで孤独に陥らないように、特に男性は要注意ですね。

手軽に孤独感を緩和するには・・・

 孤独を解消すると言っても、簡単ではないと思いますよね。コミュニティに参加したり、趣味を持ったりして、新たな人間関係をつくるといっても、なかなか腰が重かったりもします。ここで述べる方法は、孤独の根本解決にはなりませんが、手軽に孤独感を緩和できる方法としては、試してみる価値があるものです。
 
 人は,身体から得られる感覚運動情報と、言語や概念などの情報の処理を脳内で同時に行っています。そのため、社会的な温かさや冷たさと、身体的な温かさや冷たさを同等に処理することが明らかになっており、これを身体性認知(embodied cognition)といいます。

 米イェール大学心理学部のジョン・A・バーグ博士らは、この身体性認知を確かめるために、幾つかの実験を行いました。まず、人は暗黙のうちに、自分の生活における社会的暖かさの欠如(孤独感)を、肉体的な暖かさの経験で補うのではないか、という仮説を立て、実験を行いました。具体的には、51人の大学生を対象に、普段感じている孤独感の強さと、入浴習慣(お風呂またはシャワーの頻度や時間の長さ)との関係を調査しました。すると、孤独感が強い人ほど、入浴(お風呂またはシャワー)の頻度が多く、時間も長いこと、そして、お湯の温度が高いことがわかり、仮説が検証されました。

 また、別の実験では、参加者は、温熱パック、または、冷却パックのどちらかを、1分間、手の平に乗せたまま、孤独感に関するアンケートに回答しました。その結果、冷却パックの参加者は、温熱パックや統制条件の参加者よりも、孤独感のスコアが統計的に有意に高いことが明らかになりました。逆にいうと、温熱パックで身体を温めたことで、孤独感が低下したと考えられます。

 これらの実験から、手軽に孤独感を緩和する方法として、熱めのシャワーを浴びたり、温かい飲み物で体内を温めるなどの手段は有効だと思われますので、リモートワークの孤独対策として、意識的に取り入れてみてください。

参考文献:
*1 国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(全国推計)」(2018年1月推計)
・Tunstall, J., 1966, Old and Alone: A Sociological Study of Old People, London, Routledge & Kagen Paul. (光信隆夫訳,1978,『老いと孤独:老年者の社会学的研究』垣内出版.)
・Cacioppo, J. T., Hughes, M. E., Waite, L. J., Hawkley, L. C., & Thisted, R. A. (2006). Loneliness as a specific risk factor for depressive symptoms: cross-sectional and longitudinal analyses. Psychology and aging, 21(1), 140.
・Bargh, J. A., & Shalev, I. (2012). The substitutability of physical and social warmth in daily life. Emotion, 12(1), 154.

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?