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「ポケモンGO」に熱中するのはなぜ?


「ポケモンGO」は、2016年にリリースされた、位置情報とAR(拡張現実)機能を使ったスマホアプリのゲームで、世界中で爆発的な人気を博しました。では、「ポケモンGO」は、それまでのソーシャルゲームと何が違うのでしょうか。

以下、『なぜ人々はポケモンGOに熱中するのか?』(鈴屋二代目タビー,井原渉著,2016)から引用します(p.50-51)

「ポケモンGO」とこれまでのソーシャルゲームでは、多くの違いが見られます。

まず、そもそも「ポケットモンスター」が世界でも多くの人が知るビッグタイトルであること。様々な国で配信される度に大きくニュースでも取り上げられるように、世界中で既に受け入れられているキャラクターであることが大きな理由の一つです。

そして、現実と連動しているということも、大きな違いです。

外に出掛けて歩いてポケモンを探し、ポケストップを訪ね回る様は、さながらスタンプラリーを行っているようです。そして現実と連動した場所にあるジムは、陣取り合戦しているかのようでもあります。

こうしたポケモンを探し回る行動は、まるで「ポケットモンスター」のアニメの主人公になったかのような気分にさせてくれます。

『なぜ人々はポケモンGOに熱中するのか?』(鈴屋二代目タビー,井原渉著,2016)(p.50-51)


このように、他のソーシャルゲームとは異なるユニークな世界観と機能を有する「ポケモンGO」ですが、国内のある調査では、「最も長くプレイしているゲームタイトル」、及び、「最も課金したゲーム」という項目で、2020年から2022年まで3年連続で1位を獲得しています。(「モバイルゲーム市場における課金にまつわるユーザー調査」, 2023)

しかし、「ポケモンGO」の魅力はゲームの魅力だけに留まらないようです。「ポケモンGO」は歩数を増やし、メンタルヘルスの改善にも役立ち、活性度を高めてくれる可能性があるのです。


「ポケモンGO」で歩数は増えるか?


米ハーバード大学公衆衛生大学院のキャサリン・B・ハウ博士らは、1,182人の米国の若者を対象に、「ポケモンGO」をインストールしてから6週間の歩数の変化を調査しました。調査では、iPhoneでカウントされる歩数を使用し、「ポケモンGO」をインストールする前の4週間の平均歩数も比較データとして活用しました。

結果は、「ポケモンGO」プレーヤー群では、インストール前の1日平均歩数4,256歩に対して、インストール後1週間では5,123歩に増加しましたが、2週目は4,994歩、3週目は4,693歩、4週目は4,499歩、5週目は4,108歩、6週目は3,985歩徐々に減少しました。つまり、インストール後6週間で、ほとんど元の歩数に戻ってしまったということになります。

ちなみに、最初の1週間での歩数増加分(867歩)は、時間にすると1日約11分、1週間で約77分となりますが、WHO(世界保健機関)は週150分程度の運動を推奨していますので、その約半分に相当することになります。一方、非プレーヤー群では、インストール前の1日平均歩数4126歩に対して、インストール後も歩数に大きな変化はありませんでした。

この研究結果から、「ポケモンGO」による歩数の増加効果は、アメリカの若者に対しては、期間限定であることが示唆されましたが、日本で行われた中高年を対象にした同様の研究では、異なる結果が出ています。

東京大学工学部、及び医学部(公衆衛生)の研究者らは、40歳以上の230人の日本人を対象に、「ポケモンGO」をインストールしてから8ヶ月間の歩数の変化を調査しました。調査では、専用の万歩計を配布し、「ポケモンGO」をインストールする前の1ヶ月間の平均歩数データと比較しました。

結果は、「ポケモンGO」プレーヤー群では、インストール前の1日平均歩数7,641歩に対して、インストール後、最大で8,010歩まで増加しました。特筆すべきは、一般的に活動量が停滞する冬の12月に、「ポケモンGO」プレーヤー群は歩数が最大に達したのです。一方、非プレーヤー群では、冬場は特に、1日の歩数が減少していました。そして、「ポケモンGO」プレーヤー群の歩数増加効果は、インストール後、7ヶ月まで持続することが明らかになりました。

特に、55歳から64歳の男性において、歩数の増加効果が長く持続する傾向が見られました。年齢が上がるにつれて、健康意識が増加し、「ポケモンGO」はその健康意識の後押しにつながった可能性が考えられます。


「ポケモンGO」とメンタルヘルス


「ポケモンGO」がメンタルヘルスに与える影響はあまり研究されていませんでしたが、東京大学医学部の研究者らは、計2,530人の日本人ビジネスパーソンを対象に、「ポケモンGO」のリリース前と、リリースから5ヶ月後のメンタルヘルスへの影響を調査しました。

全対象者のうち、調査対象期間において、1ヶ月以上、「ポケモンGO」をプレーした人(プレーヤー群)は246人でしたが、このプレーヤー群と非プレーヤー群を比較した結果、プレーヤー群は、非プレーヤー群よりも、5ヶ月後の精神的苦痛(活力の低下、いらつき、疲労、不安、抑うつの5つから成る総合指標)が有意に低下していました。これは、性別、年齢、喫煙・飲酒の習慣、仕事上のストレスという要因を統制した上での結果です。

詳細な因果関係まではこの研究ではわかりませんが、デジタルゲームによる介入がリラックスや楽しみを増進し、メンタルヘルスの改善に役立つという研究は複数あります。また、歩くことは抑うつの改善に有効であることを示す研究もあります。ゲームのやりすぎは、「ゲーム依存症」という別の問題を引き起こす可能性があるものの、「ポケモンGO」のように位置情報を活用して、実際に歩くことを促進するゲームは、心身の健康、そして、活性度の向上に一役買っている可能性があります。

活性度の向上は、小さなクリエイティビティ(リトルC)を発揮するのにとても大事ですので、間接的にクリエイティビティを高めるために、「ポケモンGO」を活用するのはオススメです。ただし、私の経験上、ポケモンやポケストップに気を取られながら歩いていると、アイデアを生み出す最高の機会であるウォーキングの効果は全く享受できなくなるので、そこは悩ましいところです。

参考文献:

・「モバイルゲーム市場における課金にまつわるユーザー調査」(株式会社HIKE, 2023)全国10代〜60代の男女1,000人を対象にしたインターネット調査
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000324.000051825.html
・Howe, K. B., Suharlim, C., Ueda, P., Howe, D., Kawachi, I., & Rimm, E. B. (2016). Gotta catch’em all! Pokémon GO and physical activity among young adults: difference in differences study. bmj, 355.
・Hino, K., Asami, Y., & Lee, J. S. (2019). Step counts of middle-aged and elderly adults for 10 months before and after the release of Pokémon GO in Yokohama, Japan. Journal of medical Internet research, 21(2), e10724.
・Watanabe, K., Kawakami, N., Imamura, K., Inoue, A., Shimazu, A., Yoshikawa, T., ... & Tsutsumi, A. (2017). Pokémon GO and psychological distress, physical complaints, and work performance among adult workers: a retrospective cohort study. Scientific reports, 7(1), 1-7.

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