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メンタルヘルスを改善し、クリエイティビティを高めるウォーキング

ウォーキングはメンタルヘルスの改善に有効


現代の私たちは「座りすぎ」と言われており、平均座位時間が長い人ほど、不安が強いという関連性があることがわかっています。(詳しくは、「ずっと座っていると不安になる」をご覧ください)  では、不安を解消し、メンタルヘルスを改善するにはどうしたらいいのでしょうか。

スコットランドのスターリング大学のローマ・ロバートソン博士らは、ウォーキングのうつ病や抑うつ症状に対する改善効果について、14,672本の論文から厳選された8本の研究論文をレビューしました。

その結果、ウォーキングは、うつ病や抑うつ症状に対して高い改善効果があることが示されました。8本の研究論文は、屋外および屋内(トレッドミル)でのウォーキング、1人およびグループでのウォーキングの実施結果が含まれていましたが、いずれも有意な改善効果が見られました。

では、どのくらいの頻度で行うと良いのでしょうか。この研究からは、1日30分のウォーキングを週2〜3回のペースで2~3ヶ月続けていると、メンタルヘルスに良い効果が現れてくるということが示されています。ウォーキングは年齢にかかわらず、長期間継続できる良いメンタルヘルス対策といえるのではないでしょうか。


ウォーキングは拡散的思考を高める 


ウォーキングの効果はメンタルヘルスの改善に留まりません。クリエイティビティを高めるのにも有効なのです。日々のクリエイティビティの向上はメンタル不調の予防になるというのが、この「クリエイティブ・メンタルマネジメント法」の考え方ですので、ウォーキングはとても重要な行為です。

創造性(クリエイティビティ)には、「拡散的思考」と「収束的思考」という2つの思考方法があります。拡散的思考とは新しいアイデアを自由にたくさん生み出そうとする思考法で、収束的思考とは1つの最適解を導こうとする思考法です。

米スタンフォード大学教育学部のマリリー・オペッツォ博士らは、大学生48名を対象に、座っている状態と(トレッドミル上で)ウォーキングをしている状態で、拡散的思考収束的思考を測定するテストを行い、その効果を調べました。

なお、拡散的思考のテストとは、例えば、「レンガ」の新しい使い方に関するアイデアを思いつく限り挙げる、などです。また、収束的思考のテストとは、例えば、「コテージ」、「スイス」、「ケーキ」という3つの英単語に共通する1つの英単語を回答する、などです。(この場合、正解は「チーズ」)

この実験の結果、座っている時よりも、ウォーキングしている時の方が、拡散的思考が高まることがわかりました。全参加者のうち、80%以上の参加者の拡散的思考が、ウォーキング時に向上したのです。つまり、歩いている時の方が断然、良いアイデアをたくさん出せたということですね。一方、収束的思考については、ウォーキングの効果は見られませんでした。

さらに、ウォーキング中のみならず、ウォーキングの後でも、この拡散的思考力が高まる効果が残っていることもわかりました。また、室内で歩くことは、屋外で歩くことと同じく、拡散的思考の向上に有効であることも明らかになりました。


「クリエイティブ・ウォーキング」とは!?


ウォーキングはメンタルヘルス対策として有効で、拡散的思考に代表されるクリエイティビティの向上も見込めることがわかりましたが、ここでは、より効果的にクリエイティビティを高めることができる「クリエイティブ・ウォーキング」をご紹介します。

「クリエイティブ・ウォーキング」とは、決められたルートを歩くのではなく、いつもと違うルートを、目的地を特に決めずに20~30分ほど歩くことです。できれば、注意資源が分散しないように、自然の中や人通りの比較的少ない夜道を歩くことをオススメします(もちろん、安全には十分配慮してください)。

では、この「クリエイティブ・ウォーキング」の効果を検証した研究をご紹介します。台湾の国立屏東大学のチュン・ユ・クオ博士らは、短時間のウォーキングと創造性の関係を調べる実験を行いました。実験では、64人の大学生を対象に、400m×500mの長方形内を、自由に2分間歩いたグループと、同じ長方形の線上(決められたルート)を2分間歩いたグループの、創造性テストのスコアを比較しました。

結果は、創造性の3つの要素、つまり、アイデア数(流暢性)、アイデアの多様性(柔軟性)、ユニークさ(独自性)のいずれにおいても、自由に歩いたグループのスコアが有意に高いことがわかりました。

なぜ、このようなことが起きるのでしょうか。これは、自由に歩くという感覚運動情報を脳が取り込み、それが自由な発想をするという概念処理につながると考えられています(これを「身体化認知」と呼びます)。ちなみに、65歳以上の高齢者を対象にした同様の実験でも同じ結果が出ています。そして、興味深いことに、決められたルートを歩いた若者の創造性のスコアよりも、自由に歩いた高齢者のスコア(独自性のみ)の方が有意に高かったのです。

この研究から、「クリエイティブ・ウォーキング」は短時間でも拡散的思考力のアップに有効で、かつ、年齢に関係なく効果が期待できるということがわかりましたので、ぜひ実践してみてください。

参考文献:
・Robertson, R., Robertson, A., Jepson, R., & Maxwell, M. (2012). Walking for depression or depressive symptoms: a systematic review and meta-analysis. Mental health and physical activity, 5(1), 66-75.
・Oppezzo, M., & Schwartz, D. L. (2014). Give your ideas some legs: the positive effect of walking on creative thinking. Journal of experimental psychology: learning, memory, and cognition, 40(4), 1142.
・Kuo, C. Y., & Yeh, Y. Y. (2016). Sensorimotor-conceptual integration in free walking enhances divergent thinking for young and older adults. Frontiers in psychology, 7, 1580.

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