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「座りすぎ」による健康リスク

 プログラマーやデータサイエンティストなど、PCに向かう時間の長い仕事が増えています。特にスタートアップ企業では、アプリ開発やビッグデータの解析に関連する事業を行っている会社が多いと思いますので、特にこの傾向に当てはまるのではないでしょうか。そして、コロナ禍の在宅ワークも、この傾向に拍車をかけているものと思われます。PCに向かう時間が長いということは、それだけ座っている時間が長いということですね。

 オーストラリアのシドニー大学のエイドリアン・バウマン博士らは、2011年に、世界20ヵ国における平日の総座位時間のランキングを報告しています。その中で、日本は「総座位時間」が1日平均7時間となっており、サウジアラビアと並んで、世界で最も座っている時間が長い国であることが、明らかになっています。

 近年、「座りすぎ」によって健康を損なうリスクがあることが、様々な研究で明らかになっています。その中で、「座りすぎ」によって健康を損なうリスクは、飲酒や喫煙と同程度であることも報告されています。オーストラリアのシドニー大学のファン・デル・プローグ博士らの研究では、1日11時間以上座る人の総死亡リスクは4時間未満の人と比べて40%程度高くなることが明らかになっています。特に、座位時間が8時間を越えたところで、総死亡リスクが顕著に上がるようです。また、職場環境では、自分が思っているよりも座っている時間が長い傾向があることもわかってきました。

「座りすぎ」と不安の関係

 座っている時間が長いと身体的健康に悪影響があることは、前述の通りですが、メンタルヘルスへの影響はどうでしょうか。一見あまり関係がないようにも思えますが、豪ディーキン大学運動栄養科学部の研究者らは、Sedentary behavior (座りがちの行動)とメンタルヘルスのうち、特に、不安との関連について、過去に発表された約900本の論文の中から、より関連性の高い9本を抽出し、レビューしました。

 その結果、平均座位時間が長い人ほど、不安が強いという関連性があることがわかりました。ちなみに、エビデンスとしての強さは、中程度とのことです。(全9本の論文のうち7本で、座位時間と不安の強さとの間に正の相関が見られましたが、残り2本では見られませんでした)ちなみに、Sedentary behavior (座りがちの行動)の違い、つまり、テレビを見ているのか、ゲームをしているのか、パソコンやスマホを見ているのかで、不安の強さに違いがあるかについても調べましたが、特に差は見られませんでした。つまり、総合的に座っている時間が長い人ほど、不安が強いという関連性のみが明らかになったのです。

 このメカニズムははっきりわかっていませんが、研究者らは、座りっぱなしの生活は、中枢神経系の覚醒や、睡眠障害、代謝不良をもたらし、それらが不安の増長につながっているのではないかと考察しています。また、座りっぱなしの生活は、社会的孤独や対人関係からの離脱につながり、それらが不安を強めている可能性もあります。PCに向かう時間の長い仕事や、外に出る必要性が少ない在宅ワークが中心の人は、身体的健康リスクだけではなく、メンタルヘルスにも要注意ですね。

不安は的中するのか?

 座りっぱなしの生活は不安を高める可能性があることがわかりましたが、私たちの不安は果たして、どのくらい的中するのでしょうか?米シンシナティ大学の著名な認知行動療法の専門家であるロバート・L・リーヒ博士の研究(2005年)によると、アメリカ人の約38%の人が、毎日のように不安を感じているようです。リーヒ博士は、実験の参加者に、何が心配なのか、そして、この先何が起こるかについて、2週間記録してもらいました。結果は、心配事の85%に対して、実際には「良いこと」が起き、さらには、悪いことが起きた残りの15%の場合でも、そのうちの79%は、予想よりも良い結果につながったのです。これらを計算すると、実に、97%の心配事は取り越し苦労だったのです。

 楽観的に考えられる性格の人には、あまり参考にならない研究結果かもしれませんが、何をやるにも心配な人、日頃から漠然とした不安を感じやすい人には、とても重要な研究結果だと思います。起業家を例にとると、新しいビジネスを立ち上げることは不安だらけですし、立ち上げてからも心配は尽きません。でも、悪い方に考えておくと、それよりはマシな結果になることが多いのも実感として頷けますし、仮に悪いことが的中しても、大抵は対処が可能で、結果としては、予想よりも良い結果になることが多い気がします。不安を感じるからこそ、入念に準備をするようになったり、バックアッププランを考えたりするようになるメリットもありますが、過度に不安を感じるのは心身の健康にとってマイナスなので、避けたいですね。

参考文献:
・Bauman AE, Ainsworth B., Sallis J, et al. The descriptive epidemiology of sitting: A 20-countr y comparison using the International Physical Activity Questionnaire(IPAQ). Am J Prev Med 2011; 41: 228 – 235.
・Teychenne, M., Costigan, S. A., & Parker, K. (2015). The association between sedentary behaviour and risk of anxiety: a systematic review. BMC public health, 15(1), 1-8.
・Leahy, R. L. (2005). The worry cure: Seven steps to stop worry from stopping you. Harmony.

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