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日本人の仕事に対する熱意は世界的に低い

 日本人の仕事に対する熱意は、世界的に見るととても低く、さらにそれが年々下がっているというショッキングな結果があります。下図は、グローバル組織コンサルティングファームのコーン・フェリーが発表している調査結果*ですが、「熱意を持って会社に貢献しようとしている社員の比率」は、日本は世界の他の地域と比べて断トツに低く、2017年で27%となっており、これは北米(55%)の半分以下です。同様に、米大手調査会社のギャラップ社の2017年の調査によれば、日本企業における「熱意あふれる(エンゲージした)社員」の割合はわずか6%で、調査対象となった139カ国中、132位とほぼ最下位レベルでした*。

コーン・フェリー社員エンゲージメント調査結果(2017年データ)をもとに、筆者作成


 上記とは逆に、「仕事に熱意が持てていない社員の比率」は、下図のコーン・フェリーの調査結果によると、日本は世界の他の地域と比べて断トツに高く、2017年で48%となっており、これは北米の約2倍です。なぜ、このようなことになってしまったのでしょうか?様々な理由が考えられますが、理由のひとつは、仕事の複雑化ではないでしょうか。社員は、自分の仕事が最終的な成果にどのようにつながっているかわからなくなっています。自分の仕事が本当に付加価値を生んでいるのか、誰のどんな役に立っているのかが実感としてわかりづらい。特に、終身雇用、年功序列を前提としてきた日本企業は、仕事の複雑化の影響がより大きいのではないかと思います。終身雇用制度が機能していれば、社員は仕事そのものの意味よりも、その組織に所属して働いていることを重視することで、仕事への熱意を保てたかもしれませんが、終身雇用制度が崩壊しつつある今となっては、そうもいきません。

コーン・フェリー社員エンゲージメント調査結果(2017年データ)をもとに、筆者作成


仕事の熱意が高い職業とは?

 いきいきと仕事を行っているかどうかを示す指標として注目されているのが、ワークエンゲージメントという概念です。正確には、ワークエンゲージメントとは、仕事に対する、活力、熱意、没頭の3つが満たされている心理状態をいいます。(学術的には、「ワークエンゲイジメント」と表記します。)このワークエンゲージメントという概念は、オランダのユトレヒト大学のウィルマー・B・シャウフェリ博士が提唱したものですが、そのオランダで、約4,000人のオランダ人従業員を対象にした調査が行われ、ワークエンゲージメントのスコアが高い職業の順番(トップ10)が明らかになりました。結果は以下の通りです。

【ワークエンゲージメントが高い職業(オランダ)】

第1位 起業家

第2位 小学校の教師

第3位 芸術家

第4位 看護師

第5位 管理職

 第1位は、起業家です!自主性と裁量のレベルが高く、責任が求められる仕事である点がこの結果になったと研究者は考えています。では、日本人の仕事に対する熱意の低さを解決するには、どんどん起業家を増やせばいいということになるのでしょうか?

日本人は起業に向かない?

 日本の起業率が欧米に比べて低いと言われています。前述のように、起業家は仕事に対する熱意が最も高い職業だとすると、日本でもっと起業家を増やせば、仕事の熱意が低い日本人という不名誉を挽回できるかもしれません。政府も起業家教育に力を入れると宣言しています。しかし、それにあたっては、私たち日本人の特性をよく理解しておく必要があります。

 NTTデータ経営研究所の萩原一平氏の著書『脳科学がビジネスを変える ニューロイノベーションへの挑戦』によると、不安や恐怖などに関連が強いセロトニンという脳内化学物質の伝達に関わる遺伝子を「セロトニントランスポーター遺伝子」といい、これにはS型とL型がありますが、S型がある人は、L型がある人に比べて不安傾向が強いようです。(その組み合わせはSS型、SL型、LL型の3種類になりますが、不安傾向が強いのは、SS型 > SL型 > LL型、という順番になります)そして、国立精神・神経医療研究センター・認知行動療法センター所長の大野裕博士らの研究によると、日本人はSS型68.2%、SL型が30.1%、LL型は1.7%であることがわかりました。つまり、S型を有している割合が、98.3%にもなるのです。一方、アメリカ人の場合は、SS型18.8%、SL型48.9%、LL型32.3%でした。S型を保有している人は、約3分の2ほどになりますが、LL型が約3分の1を占めているのは、日本人の状況とは大きく異なります。 

 他の調査結果でも、日本人は世界的に見て、不安傾向、慎重傾向、そして、リスク回避傾向が強いことが明らかになっています。となると、起業をどんどん促して、仕事の熱意の高い起業家を増やそうと言っても、簡単には行かないかもしれません。日本にあったやり方は、他にあるのかもしれません。例えば、大企業の行う社内起業プログラムや、社員の副業を認めることなどは、日本人に合った、いわば「準起業家」を増やし、仕事の熱意を高める有効な方策になる可能性が高いのではないでしょうか。大企業がセーフティネットを用意し、社員の不安を解消しながら、起業家精神(アントレプレナーシップ)を後押しすれば、日本人の仕事に対する熱意に大きな変化が生まれるかもしれません。

参考文献:
*1 コーン・フェリー社員エンゲージメント調査結果(2017年データ)
*2 https://www.nikkei.com/article/DGXLZO16873820W7A520C1TJ1000/
・Smulders, P.G.W.(2006).De bevlogenheid van werknemers gemeten. [Measuring work engagement].TNO special
・萩原一平. (2014). 脳科学がビジネスを変える: ニューロイノベーションへの挑戦. 技術と経済= Technology and economy, (565), 26-32.

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