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緊張するイベント前の不安コントロール法

人前でのスピーチ

 緊張するイベント、例えば、プレゼンや試験など、人それぞれ、たくさんありますよね。種類は違えども、特に、直前の緊張や不安は何とも言えないものがあります。心理学の研究では、参加者にストレス負荷をかけるために、人前でのスピーチ課題(さらにそれを録画する)がよく活用されますが、人前でのスピーチは、人が緊張する典型的な場面だと言えそうです。

 起業家は、自分のビジネスをいかに人に知ってもらうかがとても大事なので、必然的に多くの人の前でプレゼンをする機会が多くなります。その中でも、ベンチャー企業を集めた、いわゆる「ピッチコンテスト」は、私も何回も出場しましたが、いつやっても緊張します。慣れは大事ですし、事前にきっちりパワポを準備して、1~2回時間を計ってリハーサルをして、時間内に収まることを確認すると、だいぶ安心して臨めることはわかりましたが、自分の番の直前になると、不安な気持ちが湧き出てきます。こんな時に、とても有効な対処法を2つほど紹介します。どちらも科学的エビデンスに基づいているので、時と場合によって使い分けるといいかもしれません。

不安を書き出す

 人前でのプレゼンや大事な試験の直前に不安な気持ちに襲われると、脳のワーキングメモリに悪影響を与えることが明らかになっています。ワーキングメモリとは、脳の前頭前野の働きの一つで、作業や動作に必要な情報を一時的に記憶し処理するシステムを指しますが、不安や心配は、ワーキングメモリの容量をいっぱいにしてしまうため、高いパフォーマンスを発揮するために必要なワーキングメモリの容量がなくなってしまうのです。

 この不安の対処法として、米シカゴ大学心理学部のジェラード・ラミレス博士が、とても興味深い実験を行いました。実験では、参加者は全員同じ数学のテストを受けるのですが、事前に、参加者は2人組のチームに分けられ、チーム成績が優秀であれば賞金がもらえること、試験の様子は評価のため録画されることが、全員に伝えられました。つまり、非常に緊張する環境が用意された訳です。そして、参加者は2つのグループに分けられ、1つのグループは、試験直前の10分間、その時感じている不安を書き出すように、もう1つのグループは、同じ10分間、何もしないで待つように指示されました。

 結果は、不安を書き出したグループの方が、何もしないで待っていたグループよりも、6%も試験のスコアが高かったのです。これは、不安を書き出すことで、ワーキングメモリが解放され、高いパフォーマンスが発揮されたと考えられます。これくらいなら、緊張するイベントの直前でもできそうですね。紙だと難しい場合は、スマホやパソコンに入力するだけでも有効かもしれません。ちなみに、もともと不安を感じにくい人には、あまり効果が見られませんでした。

「不安」の解釈を変える

 先ほどの不安を紙に書くという対処法は、筆記開示と呼ばれる手法ですが、もっと簡単に実践できる方法があります。それは、不安に対する自分の解釈を少し変える(再評価する)ことです。

 米ハーバード大学のアリソン・ウッド・ブルックス博士らは、140人の大学生を対象に、人前で短いスピーチを行う実験を行いました。スピーチの前に、1つのグループには、「私はワクワクしている」と考えるように指示し、もう1つのグループには、「私は落ち着いている」と考えるように指示しました。そして、実際にスピーチを行ってもらい、その内容は、「説得力があるか」「有能か」「自信を持っているか」「一貫性があるか」という4項目で、第三者に評価されました。

 結果は、「私はワクワクしていると考えたグループの方が、全ての項目において、「私は落ち着いている」と考えたグループよりも、高い評価を受けたのです。他にも、知らない人の前でカラオケを歌う課題や、数学の問題を解く課題で、同様の実験を行いましたが、結果はいずれも同じでした。

 この理由ですが、下の図を見てください。

「不安」から「落ち着き」に行くよりも、「ワクワク」に行く方が近道

 不安と興奮(ワクワク)はともに、心拍数の上昇といった高い覚醒水準にある一方で、落ち着きは、低い覚醒水準にあります。「不安」を「落ち着き」に変えるには、図の横軸の「感情価」を「ネガティブ」から「ポジティブ」に変えるだけでなく、図の縦軸の「覚醒水準」も「高い」から「低い」に変えないといけません。それに対して、「不安」を「ワクワク」に変えるには、「覚醒水準」は変える必要がなく、「感情価」のみ変えれば良いので、こちらの方がハードルが低いということになります。

 一般には、プレゼンの前には、「落ち着け」と念じる人が多いかも知れませんが、これからは「ワクワクしてきたぞ」と念じるようにしましょう。私も試したことがありますが、こちらの方が割と自然に切り替えられるように感じています。

参考文献:
・Ramirez, G., & Beilock, S. L. (2011). Writing about testing worries boosts exam performance in the classroom. science, 331(6014), 211-213.
・Brooks, A. W. (2014). Get excited: reappraising pre-performance anxiety as excitement. Journal of Experimental Psychology: General, 143(3), 1144.


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