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ストレスなく仕事の効率を高めるコツ(その1)~ 仕事の手順を考える ~

新しい仕事に取りかかるとき

 新しい仕事を振られ、それに取りかかるとき、どのように対応しますか?もちろん、仕事の中身によって、対応は大きく異なるでしょう。例えば、簡単な仕事で、ゴールもはっきりしている場合、「さっさと片付けてしまおう」という気持ちが強く働くのではないでしょうか?

 一方、ゴールが見えていると思って、すぐに目先の作業に着手してしまうと、危険な場合もあります。例えば、エクセルでデータを分析する際に、まず手始めに着手した分析が、後々無駄になる、あるいは、パワーポイントのプレゼン資料を作成する際、見切り発車で作ったスライドが、後々不要になる、なんてことは、誰しも経験があるのではないでしょうか?仕事の期限がタイトで、時間的なプレッシャーを感じているときほど、このようなことが起きやすいかもしれません。やったことが無駄になることほど、ストレスを感じることはありませんよね。

 実は、私たちは、目先の作業に飛びつきやすい習性があることが、心理学の研究でわかってきていますので、興味深い実験を次にご紹介します。

人は目先の作業に飛びつきやすい

 人は、目先の作業に飛びつきやすい習性があること示す興味深い実験を行なったのは、米ペンシルベニア州立大学心理学部のデビッド・A・ローゼンバウム博士らです。実験では、27人の参加者に、2つの重いバケツのどちらか一方を自由に選んで、ゴールまで運ぶように指示しました。状況を図示すると下図のようになります。図からわかるように、ひとつのバケツはスタート地点の比較的近くに置いてあり、もう一つのバケツは、スタート地点からやや遠くに置いてありました(スタートからゴールまで約5メートルです)。

2つの重いバケツのどちらか一方を自由に選んで、ゴールまで運ぶ実験

 実験の結果、ともて興味深いことが明らかになりました。ほとんどの参加者が、スタート地点の近くに置いてあるバケツ(左側のバケツ)を選んで、ゴールまで運んだのです。合理的に考えれば、スタート地点よりも遠い方のバケツ(右側のバケツ)を選んだ方が、バケツをゴールまで運ぶ距離が短くなり、体力的な負荷とストレスが減るはずです。にもかかわらず、ほとんどの参加者が無意識にスタート地点の近くに置いてあるバケツを選ぶのは、「バケツをゴールまで運ぶ」という本来の目標(ゴール)に対して、「バケツを持つ」という小目標(サブゴール)が優先され、サブゴールを早く達成することが、ゴールを早く達成することにつながると思ってしまったからです。また、「早く、バケツをつかまないと!」という意識が、脳のワーキングメモリーに負荷を与えるため、この負荷を早く解消したいと無意識に思ってしまうようです。

 これはとてもわかりやすい実験ですが、日常の仕事を進める過程でも、このような非合理的な選択を知らずにしている可能性は多いにありますよね。それによって、余計なストレス負荷がかかっているかもしれません。それを回避するには、その仕事の最終ゴールをイメージして、作業手順をよく考えてから着手することが大事ですね。

ゴールを分割する

 では、もっと大きなプロジェクトの場合は、どうすべきでしょうか?つまり、ゴールが遠すぎて、見通しが悪い場合です。当然、闇雲に作業に着手してしまうと痛い目に合います。その場合は、見通しがきくまでゴールを分割した上で、その分割したゴールを達成するための最適な方法を考えてから、仕事に着手するのが良いでしょう。

 例えば、「モンスターハンター」のような壮大なゲームの開発では、まずは、1ステージ分のプロトタイプ(これを「バーティカル・スライス」といいます)を完成品に近いクオリティで制作します。そして、それを見たときに、どれくらい「ワクワク感を感じられるか」で、その後の開発方針を決めていきます(出典:「DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー」2018年9月号)。こうすれば、最終ゴールのイメージを高めることができ、何を優先してやるべきかが見えてきますね。

 また、少し未来のゴールを想像することによって、心理的距離が遠くなり、思考が抽象化するため、創造性(クリエイティビティ)を発揮しやすくなる効果も期待できます。(詳しくは、「クリエイティビティを上げる科学的だけど簡単行動(その1)」をご覧ください)
 
 焦って目先の作業にすぐに飛びつかず、最終ゴールを考えてから仕事の手順を決めるようにしましょう。そうすることで、余計なストレス負荷をかなり減らせるはずです。

参考文献:
・Rosenbaum, D. A., Gong, L., & Potts, C. A. (2014). Pre-crastination: Hastening subgoal completion at the expense of extra physical effort. Psychological Science, 25(7), 1487-1496.
・辻本良三. (2018). 『モンスターハンター』 のプロデューサーが明かす 個性派集団のひらめきを形にするマネジメント (特集 発想するチーム). Harvard business review= Diamond ハーバード・ビジネス・レビュー, 43(9), 50-59.


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