「1日10,000歩」の根拠と効果とは?
「1日10,000歩」の根拠
「クリエイティブ・メンタルマネジメント法」は、メンタル・リソースを充実させ、日々の小さなクリエイティビティ(リトルC)を発揮し、ウェルビーイングを実現することを目標としますが、メンタル・リソースを充実させるには、活性度を上げることが大事です。そのためのわかりやすい手段は、「歩くこと」です。では、1日に何歩歩くと良いのでしょうか?
よく言われるのが、「1日10,000歩」ですが、これにはどのような根拠があるのか、見ていきたいと思います。
歩数をカウントするのに、現在は、スマホのアプリやスマートウォッチなどが定番になりましたが、以前は「万歩計」という専用の計測機がよく使われていました。「万歩計」は、もともと日本の山佐時計計器株式会社の開発した商品の名称(同社が商標を保有)で、それが一般に広く普及しました。発売されたのは、東京オリンピックの翌年の1965年で、日本は高度経済成長期の中、自動車が急速に普及し、国民の運動不足が問題になり始めた頃でした。
そして、「1日1万歩歩きましょう」(1日1万歩運動)を国民的運動にするべく、万歩計は発売されたようです(同社HPより引用)。一方、この数字の科学的根拠について考察しているアメリカのアリゾナ州立大学エクササイズ&ウェルネス学科のカトリーヌ・チューダー・ロック博士らは、1日の最適な歩数について、次のように定義しています。
1日5000歩以下 → 座りがちな生活(sedentary lifestyle)
5,000~7,499歩 → 低い活性(low active)
7,500~9,999歩 → やや活性(somewhat active)
10,000~12,499歩 → 活性(active)
12,500歩以上 → 高い活性(highly active)
1日30分程の中強度の運動が医学的には望ましいとされますが、これは、歩数でいうと3,000~4,000歩に相当するようです。普通に生活しているときの歩数に、この3,000~4,000歩を加算すると、大体1日10,000歩ぐらいになるため、最初は単なるスローガンだった「1日10,000歩」目標も、健康目標として一定の意味があると博士らは考察しております。
ただし、お年寄りや疾患のある人には、「1日10,000歩」は、高すぎる目標であり、また、ティーンエイジャーには低すぎる目標だとも考察しています。したがって、何が何でも「1日10,000歩」ではなく、あくまで、一つの目安と考えるのが良さそうです。
また、厚生労働省が2023年に発表した「健康づくりのための身体活動・運動ガイド 2023」では、明確に1日の目標歩数が定められていますので、後ほど触れたいと思いますが、その前に、歩数と健康の関係を調べた海外の研究を紹介したいと思います。
1日の歩数と死亡リスクの関係
1日の歩数と死亡リスクの関係については、高齢者や慢性疾患の患者を対象にしたものが多く、一般的な人を対象にした研究は限られていました。そこで、アメリカの国立がん研究所などの研究者たちは、2003~2006年に米国国民健康栄養調査のデータを使って、40歳以上のアメリカ人4,840人の1日の歩数、歩行強度(1分当たりの歩数、すなわち歩く速さ)と、死亡リスクとの関係を追跡調査しました。
平均10.1年の追跡調査期間中に、対象者のうち、1,165人が亡くなりましたが、そのデータを分析すると、1日の歩数が4,000歩のグループを基準にすると、1日の歩数が8,000歩のグループは、死亡リスクが51%低く、1日10,000歩のグループは60%、1日12,000歩のグループは65%低いことがわかりました。1日14,000歩では66%で、それ以降は頭打ちになりました。また1日2,000歩のグループは、死亡リスクが51%高いこともわかりました。上記は全ての死亡要因に対する結果ですが、心血管疾患による死亡、がんによる死亡も同様の傾向で、いずれも、歩数が多い人ほど死亡リスクが低下する傾向が認められました。
歩行強度も死亡リスクに関係があるのではないかと思われがちですが、この研究では、1日の歩数の影響を考慮すると、歩行強度は死亡リスクには有意な影響を与えないことがわかりました。(但し、1日の歩数が多い人は、歩行強度も高いことがわかりました)このように歩くことの重要性が改めて確認される結果となりました。次にもう1つ同様の研究を紹介したいと思います。
結局、1日何歩が良いのか?
1日の歩数と死亡リスクの関係については様々な研究がありますが、もう1つアメリカの研究を紹介します。
アメリカのマサチューセッツ大学アマースト校で身体運動学を研究するアマンダ・パルーチ博士らは、38歳から50歳の2,110人のアメリカ人(白人、黒人)を対象に、2005年から2018年まで(平均10.8年)の追跡調査を行い、歩数と早期死亡リスクの関係を調べました。参加者は、7日間連続して加速度計を装着して、日常生活を送りました。
その結果、1日の平均歩数が7,000歩以上の人は、7,000歩未満の人と比べて、65歳以下の早期死亡リスクが約50~70%低いことがわかりました。
正確には、1日の平均歩数が、7,000歩から9,999歩の人は72%、10,000歩以上の人は55%早期死亡リスクが低いことがわかりました。つまり、1日10,000歩を超える辺りで、早期死亡リスクの低下は頭打ちになることがわかりました。
またこの研究でも、歩くスピードや強度は、死亡リスクの低下には影響していませんでした。
さらに、男性は女性よりも1日の平均歩数が多いことや、BMIが高い人ほど、1日の平均歩数が少ないこともわかりました。
冒頭で触れた、厚生労働省が2023年に発表した「健康づくりのための身体活動・運動ガイド 2023」によると、2019年の調査結果では、日本人の20歳以上の成人の1日歩数の平均値は、男性で6,793歩、女性で5,832歩でした。また、経年変化でみると、男女ともに1日歩数の平均値は、年々低下傾向にあるようです。つまり、ますます座りすぎの生活が深刻化しているということですね。
この「健康づくりのための身体活動・運動ガイド 2023」では、成人の場合、「1日60分以上の身体活動」、そして、「1日8,000歩以上」が推奨されています。
以上をまとめると、今回の記事のテーマである「1日10,000歩」までは必ずしも必要ではなく、1日7,000~8,000歩程度歩けば、十分に効果的だと思われます。また、歩けば歩くほど死亡リスクが減るわけではなく、1日10,000歩から12,000歩程度で効果は頭打ちになるようです。
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