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「やらないことリスト」でクリエイティビティを高める

TO DO リストのメリット


仕事を効率良く、かつ、抜け漏れなくこなしていく上で、TO DOリスト(やることリスト)を作成するのはとても有効です。最近はアプリで管理する人も多いのではないでしょうか。

では、このTO DOリストが、「役に立つなぁ」と思うのはどんな時でしょうか。私の場合は、こなすべきタスクがたくさんあり、しかも、そのジャンルが多岐にわたる時です。放っておくと、何から順番にやって良いか分からなくなり、焦って優先順位を間違えると、本来やるべきことに割く時間が足りなくなってしまうことがしばしばありました。この時に働く心理は以下のような感じです。

「やることがたくさんあるので、まず行動を起こすことが全体の効率化に役立つ」


米ペンシルベニア州立大学心理学部のデビッド・A・ローゼンバウム博士らの実験によると、人は目先の作業に飛びつきやすい習性があるようです。この実験では、参加者に2つの重いバケツのどちらか1つを自由に選んで、ゴールまで運ぶように指示したところ、参加者のほとんどが、まずスタート地点のすぐ近くにあるバケツを掴み、それをゴールまで運んだのです。もう1つのバケツはゴールに比較的近い場所に置かれていたので、労力を考えたらスタート地点近くのバケツには飛びつかず、ゴール近くのバケツを掴むべきにもかかわらず。(詳しくは、「ストレスなく仕事の効率を高めるコツ(その1)~ 仕事の手順を考える ~」をご覧ください

この実験からも、私たちはTO DOリストを活用して、やることの優先順位を明確にする必要性が高いことがわかります。

一方、毎日、TO DOリストできっちり管理していると、定型タスクばかりをこなす仕事のスタイルになる危険性もあります。なぜなら、TO DOリストに記載しやすいのは定型タスクであり、リストに記載した以上は完了マーク(チェック)を入れたくなるのが人の習性だからです。このような仕事のスタイルは効率的ではある一方で、クリエイティビティを低下させてしまう可能性があります。


「不足」がクリエイティビティを高める 


TO DOリストには大きなメリットがある一方で、きっちり管理しすぎる功罪についても述べましたが、それに関連して面白い実験を紹介します。アメリカのイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校のラヴィ・メタ博士ら、人は「不足」を思い浮かべると、固定観念に囚われなくなり、創造性(クリエイティビティ)が高まることを6つの実験で明らかにしました。

最初の実験では、大学生の参加者を2グループに分け、1つのグループには、「お金や物がない環境で育つこと(不足)」を想像して3分間エッセイを書くように指示し、もう1つのグループには、「お金や物が豊富な環境で育つこと(豊富)」を想像して3分間エッセイを書くように指示しました。その後、参加者全員の創造性を測定するため、ブロックで子供が喜ぶオモチャを作るように指示しました。できたブロックのオモチャは、第三者が厳正にその創造性(特に新規性)を評価しました。

結果は、「不足」を想像したグループの方が、創造性(新規性)のスコアが、「豊富」を想像したグループよりも、20%以上高かったのです。また、他の5つの実験では、「不足」や「豊富」をイメージさせる画像をインターネットで検索させた後、創造性を測定しましたが、いずれも同様の結論が得られました。

研究者らによると、「不足」を想像することで、固定観念(例えば、物の本来の機能や使い方など)に囚われなくなり、自由な発想が可能になるため、創造性が高まるとのこと。ちなみに、「不足」を想像するテーマに関係なく、何らかの「不足」を思い浮かべるだけで、創造性が高まったのです。


「やらないことリスト」の有効活用


上述の実験から、「不足」を思い浮かべることがクリエイティビティの向上には重要だとわかりましたので、TO DOリストの功罪(定型タスクによるマンネリ化)を解消する簡単な方法をご紹介します。それは、「やらないことリスト」を作って実行(不実行)することです。

「やらないことリスト」にリストアップされたことは、その日1日、やらないで我慢することになりますので、これは明らかに「不足」を感じることになります。毎日同じことをやっていると同じ思考回路がどんどん強化され、他のことを発想しづらくなることも脳科学の研究で明らかになっていますので、「不足」を感じることで他の手段を考えるようになることが、クリエイティビティの向上にはとても大事です。

とはいえ、毎日やらないといけない業務上の定型タスクを1日やらないというわけにもいかないと思いますので、この「やらないことリスト」に記載するのは、仕事に支障のないこと、例えば、ちょっとした日課や楽しみにするのが良いと思います。

私の場合ですと、1日にほぼ必ずスタバのコーヒーを飲みますので、「やらないことリスト」に「今日1日、スタバのコーヒーを飲まない」と記載します。こうすることで、スタバでコーヒーを買って飲むというルーチンが制約されますので、その代わりになる行動を考えて実行することになります。(例えば、今日はいつも行かないタリーズのコーヒーを飲もう、という具合に)こうすることで、普段とは異なる行動を自然に取ることになり、それがクリエイティビティの刺激につながります。そして、日々の小さなクリエイティビティはメンタルヘルスに良い影響がありますので、ぜひ、この「やらないことリスト」をたまに実行してみてください。

参考文献:
・Rosenbaum, D. A., Gong, L., & Potts, C. A. (2014). Pre-crastination: Hastening subgoal completion at the expense of extra physical effort. Psychological Science, 25(7), 1487-1496.
・Mehta, R., & Zhu, M. (2016). Creating when you have less: The impact of resource scarcity on product use creativity. Journal of Consumer Research, 42(5), 767-782.

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