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仕事に没入するために必要なこと

時間感覚を失うほど没入する


時間を忘れて仕事に没入した経験は、どれくらいありますか?

米国の心理学者ミハイ・チクセントミハイ博士は、時間感覚を失うほど、何かに没入している状態を「フロー」と呼びました。スポーツ選手やクリエイターは、この「フロー」という状態を経験しやすいと言われています。そして、スタートアップビジネスも同様だと私は思っています。自分たちのサービスをローンチするという目標に向かって、例えば、プロダクトを企画したり、ユーザーのログデータを分析したり、あるいは、投資家や潜在顧客へのプレゼン資料などを作っていると、「フロー」を経験しやすいと思います。

「フロー」の状態のときは、称賛や金銭的報酬といった外部からの利益は一切関係なくなり、活動それ自体が楽しく、自分の全ての意識がその活動に向けられている状態になります。

チクセントミハイ博士は、第二次世界大戦後に荒廃した祖国ハンガリーで、仕事や家などを失い、生きる希望をなくしてしまった大人達の姿を見て、「生きる事とは何か」「幸せとは何か」を考えるために、アメリカに移住し、心理学を学びました。そして、いつどんなときに人は幸せを感じるのかを、芸術家や科学者、スポーツ選手を対象として、インタビューを繰り返したのです。その結果、明らかになったのが、この「フロー」という状態です。

「フロー」になるための条件とスタートアップビジネス


チクセントミハイ博士は、フローが起きやすい主な条件として、次の7つを挙げています*。

1. 目標が明確である(何をすべきか理解している)

2. どれくらいうまくいっているかを知る(ただちにフィードバックが得られる

3. 挑戦と能力の釣り合いを保つ(活動が易しすぎず、難しすぎない)

4. 注意の散漫を避ける(活動に深く集中し探求する機会を持つ)

5. 自己、時間、周囲の状況を忘れる(現実から離れ、我を忘れる

6. 活動に本質的な価値がある(活動が苦にならない)

7. 行為と意識が融合する(自分はもっと大きな何かの一部であると感じる

スタートアップのビジネスは、この条件にとても合致すると思います。なぜなら、目標は明確であり(そもそも明確でないと、やろうと思わない)、プロダクトを市場にローンチする前から、潜在顧客や投資家からフィードバックをもらうことが常であり、挑戦と能力の釣り合いに関しては、ギリギリのチャレンジをすることが多く、ほとんどの場合、そのビジネスを立ち上げることが、何らかの課題解決につながると思っているため、本質的な価値があると感じることができます。そして、我を忘れてビジネスに集中している中で、お客さんや世の中に何らかの付加価値を提供できたと思えた時は、自分は、もっと大きな何かの一部であると感じることができます。

これはとてつもないやりがいにつながります。もちろん、リスクやデメリットも多々ありますが、このフローを結構な頻度で体感できる職業はなかなか無いのではないかと思います。そして、フローを経験する頻度が多いほど、ウェルビーイング(幸福感)が高いことも明らかになっています。

仕事で「フロー」が起きにくい理由と対処法


チクセントミハイ博士は、 仕事でフローが起きにくい理由について、「今日の仕事には明確な目標がほとんどない」(仕事の多くが従業員にとって不明瞭である)こと、「従業員のスキルは仕事の難易度にうまく適合していない」(優秀な社員でも重要でない作業に忙殺される)こと、などを理由に挙げています。

明確な目標がないのは、仕事の複雑化が原因の一つと考えられます。仕事の複雑化によって、社員は自分の仕事が本当に付加価値を生んでいるのか、誰のどんな役に立っているのかが実感としてわかりづらくなります(詳しくは、「仕事に熱意を持てない日本人」をご覧ください)。

これに対しては、自分の会社が、顧客に対して感動や満足感を持ってもらえる製品やサービスを提供できているという自負心を持つことが、職種を問わず重要だということがわかっています*。つまり、自分の会社のお客さんの反応を直に知る経験をすることが、とても大事ということですね。

次に、仕事のスキルと難易度の適合の問題については、チクセントミハイ博士は、下図のように、 自分のスキルレベルが高く、難易度も高い仕事に取り組むとき、最もフローになりやすいことを明らかにしました。

スキルが高く難易度の高い仕事に取り組むとき、最もフローになりやすい

スキルが低いのに難易度が高い仕事に取り組むと「不安」に、スキルが高いのに難易度の低い仕事に取り組むと「退屈」になります。また、スキルが低く、難易度も低い仕事(ルーティンワークなど)に取り組んでいると、「無気力」な状態になります。

つまり、積極的に新しいスキルを身につけ(これを「リスキリング」といいます)、挑戦の難易度の高い仕事に取り組めるようにすることが、仕事でフローを経験するために、とても大事になります。

参考文献:
*1 ミハイ・チクセントミハイ. (2003). フロー体験とグッドビジネス. Good Business: Leadership, Flow and the making of Meaning
*2 コーン・フェリー社員エンゲージメント調査結果(2017年データ)
・Csikszentmihalyi, M., & Csikzentmihaly, M. (1990). Flow: The psychology of optimal experience (Vol. 1990). New York: Harper & Row.
・Csikszentmihalyi, M. (2004). Good business: Leadership, flow, and the making of meaning. Penguin.

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