美・協業・革新のDNA
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美・協業・革新のDNA

100年続くベンチャーが生まれ育つ都研究会

第3回公開研究会
日時:2020年8月17日 18:30-20:30
講師:細尾 真孝氏(株式会社細尾 代表取締役社長)
於:細尾フラッグシップストアよりZOOM、YouTube Live配信

 第3回公開研究会では、西陣織の老舗、株式会細尾の細尾真孝氏による講演と、COS Kyotoの北林氏を交えたパネルディスカッションを行った。

細尾氏による講演

 西陣織の起源は1200年もの昔、平安時代に遡り、織物事業者は各時代の有力者に高級な着物を提供してきた。西陣の特徴は3〜5kmに様々な職人が集中していることである。その分業体制は約20工程(染め、綜絖、箔を貼る職人、切る職人、等々)に分かれており、それぞれの工程をマスタークラフトマン担っている。

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 ㈱細尾は300年以上にわたり西陣の織り屋として歴史を重ねてきた。その海外展開のきっかけは、2008年にパリのルーブル装飾博物館で開催された展覧会に帯を出品したことである。その後、ニューヨークにも巡回し、西陣織の技術を活かした製品開発の問い合わせにつながっていった。そうした顧客の要望に答えるうちに、従来の帯幅での商品展開に限界を感じ、150cm幅の西陣織織機を一年かけて開発することになった。現在では、細尾の製品はクリスチャン・ディオールの店舗壁面やリッツカールトンなどでも採用され、織機の数も12台に増えている。こうしたコラボレーションによって、新しい価値観の獲得や織機の開発に繋がっている。

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 現代アーティストとのコラボレーションも年に一回ほど行なっている(画像)。バイオテクノロジーと西陣織のコラボレーションでは、クラゲの蛍光タンパク質を蚕に組み込み光る着物を開発した。その他にも、最先端の素材を織物に組み込んでいく試みや、温度によって発光する織物、形状記憶する布、コンピュータープログラマーとのコラボレーションなども行っている。様々な新しい試みや連携を進めているが、すべての取り組みの上位概念は「美」であり、究極の美の追求が、究極の協業体制によって行われてきたと考えている。

 ㈱細尾では100年ほど前から問屋業も手がけており、全国の染色作家の作品を百貨店に卸している。細尾氏はこうした事業に携わるにあたり、40箇所の産地を回りヒアリングと写真等によるアーカイブを行った。染色や織物はその土地の風土、歴史、作った人の性格が反映される、その土地のメディアであるとも言える。こうした各地の織物の探求を通じて、人とは何か、美とは何かについて考え続けている。

 flagshipストアの建物も協業と革新によって形づくられている。京都の異なる土地の土を使った内壁、ファサードの黒漆喰、金箔、西陣織の外壁素材(NFRP)など、様々な職人や専門家の技術とコラボレーションの集大成である。

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 細尾氏が参画するGO ONプロジェクトは、伝統工芸を伝え革新していく、若手経営者による協業プロジェクトである。Panasonic京都家電ラボとの協業や、西陣織や開花堂の茶筒のスピーカーなどを開発し、ミラノサローネ等に出展してきた。最新技術を取り入れながらも、あくまで伝統工芸の美や体験にこだわり、テクノロジーを全面に出さないアプローチを提案している。

 これからも、株式会社細尾のプロデューサーとして、西陣織の価値を伝えてつつ、工芸の価値を再発見する活動を続けていきたい。

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パネルディスカッション

パネラー
ゲストパネラー:北林 功氏(株式会社COS Kyoto)
細尾氏、竹林一(京都大学経営管理大学院 客員教授)、山本光世(京都大学経営管理大学院 客員教授)

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論点1:細尾さん自身、起業家として最も大切にされているものは何か
論点2:エコシステムとしての京都・西陣の仕組み
論点3:ずばり100年続くベンチャーが生まれ育つキーワードは?

〇質疑やパネルディスカッションを通じて導き出された、エコシステムに関連する仮説

Q:細尾さんの活動は、西陣織りが昔からやってきたことを現代的に実践しているのではないか。伝統と革新どちらの思いが強いのか?
A:伝統と革新は対立するものとしてとらえがちだが、革新し続けていることそのものが西陣の伝統である。それらの上位概念にあるのは「美」である。そのエコシステムも時代に合わせて変化してきている。

Q:西陣のコアの部分に、経営者としての細尾さんはどういう経緯で気づいていったか。
A:2008年に家業にも戻った時はまったく知識がなかった。ミュージシャン、DJとしての活動をしていたが、今思えば本能的に伝統の引力への反発から離れようとしていたように思う。コントラストの高いポイントを如何に設定できるかを考えた時に、伝統産業と先進的な技術とのコラボレーションには可能性があると感じた。
 西陣の原点は応仁の乱で、職人が堺に逃れ、唐織にであったところに遡る。その唐織が、西陣のシグネチャーになった。ポイントごとに革新的な動きがあった。革新的なものや新しいものを取り込んでいっても壊れないところに、伝統の強さがある。

Q:コーディネーター、プロデューサー的な人材はどう育てるのか
A:メンバーに興味をもってリスペクトできること、才能を見出し組み合わせ、マーケットや社会に届けること。幅広く世の中のいろいろなモノに興味をもつこと、経糸・縦軸(実現したいこと)がしっかりしていること。GO ONも志や意思をしっかり持つことが重要だった。

Q:エフェクチュエーション的に動いていて、保守的な抵抗にあうことはないのか?
A:海外で失敗を重ねたからこそ、反対はあっても150cm幅の織機をつくることに踏み切ることができた。そういう意味でも動き続けることは重要。

Q:起業家の特徴として、向かい風が気持ちよくなるという面があるのではないか。トヨタのレクサスに採用されたのは、工芸から工業に入るという新しいステージなのでは。
A:西陣織がコンセプトカーに採用されることはあったが、モビリティへの本格進出はできていなかった。品質基準やテストなど様々なハードルはあったが、5年がかりで乗り越え、ようやく製品化に漕ぎつけることができた。
 織物は紀元前9000頃からあり、当初は手で織っていたが、大量生産や美の追求を通じて、機械化や工業化が進んできた。大量生産・大量流通という工業の強みを生かし、西陣織をより多くの人に届けることができるのではと考えている。日常的に触ることで、美を自分のなかに取り込んでほしい。

Q:100年つづくベンチャーが生まれ育つ都をつくるには?
A:1200年の経糸があり、緯糸はそれぞれの時代のアプローチがある。歴史へのレファレンスがあることが重要で、それがあることで未来を見通すことができる。京都の経糸そのものは2000年、3000年分あると考えている。どういう緯糸をかけたら美しくなるのかという問いは、他の都市に比べて考えやすいのでないか。儲け至上主義でないことや、会社として美しいかどうかが、問われているかもしれない。この研究会のようなディスカッションを通じて、個人の経糸を見つけていくことが大事なのでは。


Ⓒ京都ものづくりバレー構想の研究と推進(JOHNAN)講座, Shutaro Namiki(Licensed under CC BY NC 4.0)

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