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脚本をつくるときに大切にしている「時間と場所」のこと。


書く時間と場所を限定する

 脚本家として自劇団の脚本を書き続ける中で、今までずっと続けてきたことがある。
 それは「脚本を書く場所と時間を限定する」と言うことだ。

 理由は明快である。人の手によって書かれた文章は、それが書かれた時間や場所の影響を少なからず受けるはずだ、と私が信じているからである。

 例えば携帯で打ったメール。その時の感情はもちろん、何時に・どんな場所で作られたものかによって手触りが変わった経験がないだろうか。
 朝よりも夜のほうが不安な気持ちになるから大事な決断は午前中がいいであるだとか。場所や時間などの環境や状況が先にあり、私たちの感情に外から内に作用していく力。これを私はずいぶん信じている。
 状況は感情に先立つ、ということを。

 私が脚本を書くときのルールは、同じ作品において、執筆時の環境や状況を可能な限り揃えるということだ。
 それにより作品の持つ空気感が、脚本を書いていたその時間や場所の空気感と同じになる効能を感じている。

これまでの時間と場所、その効能。

 過去執筆した実際の状況を書いていこう。

 第三回公演「雷魚、青街頭、暗闇坂、あるいはうしなわれたものたち」の執筆時期は7月~8月、熱い部屋で雨戸をしめ切って真っ暗な部屋で扇風機もクーラーも付けずに書いた。第四回公演「飛龍伝」は既存作品の脚色作業だが同じような第三回と似た場所で作業をしている。

 この二つの作品は上のようにどちらも同じような環境で書いていて、どちらも陰鬱で、まるで密室の中のような抑圧された空気の作品となった。
 この「暗い中で書く」と言うのが2013年あたりの基本スタイルにいつの間にかなっていって、獣の仕業のあの緊張感や薄暗い空気はあの頃の執筆環境が今もベースになっているのかもしれない。
 第六回公演「オセロ」と番外公演「助ける」も同じように暗い場所で書こうとしたが、雨戸がない家に引っ越した事情から書く時間は夜に限定された。

 この雨戸がなくなったことで発見があった。
「雨戸を閉めていつでも夜のように書く」ことと「夜にだけ書く」ことはまったく違うということだった。

 雨戸を使用しあらゆる時間帯で作業をした「雷魚」「飛龍伝」に比べ、夜間に限定した「オセロ」「助ける」の方がより内省的に、下にもしくは内に籠って行くような手触りにとなった。状況は感情に先立つ。書いているときの気持ちもこの二作品が一番苦しかった記憶があるが、それはきっと夜の力だ。

 執筆時間の影響の大きさを実感してから、次の公演である第五回公演「せかいでいちばんきれいなものに」では時間を意識的に夜から午前中に変えてみた。さらに、窓を開けて書くことにした。
 暑い×暗いから、明るい×眩しいへの変化は作風に明らかな変化をもたらしている。特に象徴的だったのが約3000文字の女優5人でのユニゾン長セリフで、これはすべて観客への呼びかけの形を取っていた。
 気持ちが外に向かった帰結だと思っている。

 このように毎回少しずつ書く場所を変えているのは、まあ何と言うか、私の密かな企みのひとつだ。自分の外にあるものに委ねる。
 もし本や音楽を作っている人がいたら試しに、あなたが素敵だと思う場所やあなたが作りたいもののような風景の中で作ってみてください。

※この記事は2013年に執筆した記事を元に再編集しました。

 自劇団の公演が先週末9月15日~17日までありました。
 劇場公演は全ステージ満々席となり、ご来場いただいた皆様、誠にありがとうございました!

 劇場公演は終了しましたが、配信アーカイブの販売を引き続きおこなっています。好評を受けて、受注生産によるDVDも発売決定です!

獣の仕業 The Out of Beast 2023
「改作・日本文學」

文豪たちの古き良き作品を選りすぐり、我々烏滸がましくも少々手を加え、 仕立てましたは輝かしい名作の影のごとき四つの短編たち。
名付けて「改作・日本文學」

残暑の季節にお誂え向きな、仄暗く香り立つ文學オムニバス。

配信チケット購入

【配信での観劇購入(生配信+アーカイブ視聴)】

配信チケット:2,300円
配信+脚本データ付チケット:2,800円

  • 販売期間:7/28 20:00~10/16 23:59

  • 配信期間:9/17 17:00~10/17 23:59

  • 応援キャスト指定でのご予約をご希望の方は「備考」欄へのご記入をお願いいたします

DVD購入【完全受注生産】

  • 注文予約期間:2023/09/17 20:00 〜 2023/10/31 23:59

  • 発送予定:2023年12月下旬 〜 2024年1月上旬

  • DVD限定特典:獣の仕業による全編副音声コメンタリー+PDF脚本

演目紹介

脚色・演出:立夏

「待つ」

作:小林龍二 原作:太宰治
出演:手塚優希 雑賀玲衣

その小さい駅。省線の改札口で女は、待つ。
初出1942年6月。戦争が始まった半年後、太宰治はこの「待つ」を世に出した。
これは「女」の独白だが、二人芝居でもあり役者二人が演じる独白でもある。
─いったい、わたしは、誰を待っているのだろう─

「ごんぎつね」

作:きえる 原作:新美南吉
出演:きえる 小林龍二

「おやすみなさい、お月さん」
月に語りかけるひとりぼっちのこぎつね、ごんと、母を亡くしひとりぼっちになった男、兵十。
ごんの無邪気ないたずらからはじまる、一人と一匹の物語。

「藪の中×歯車」

作:雑賀玲衣 原作:芥川龍之介
出演:小林龍二 手塚優希 雑賀玲衣

雨の降る夏の夜、作家Aはタクシーに乗る。運転手はふいに、一年前に石神井公園で起きたある殺人事件のことを口にする。ポツリポツリと……。
「目撃者は何人もいるのに、証言が不思議と食い違う」
そうして運転手は、事件の夜に乗せたというひとりの男の話を語り出した。

「約束」

作:立夏 原作:夢野久作 演出補佐:小林龍二
出演:立夏

ある人は、橋の下で待っていた。
「日暮れ前にこの橋の下で会おう」と約束をしたからだ。
しかし日は暮れ、小さく雨まで降りだした。それでもその人は橋の下から動こうとしない。
約束をしたのだ。約束は、果たされなければならないから……。

スタッフ

  • 舞台監督:小林龍二

  • 照明プランニング:手塚優希

  • 音響プランニング:立夏

  • 撮影・配信:U-3

  • 衣装スタイリング:きえる

  • 写真撮影:加藤春日

  • 制作:手塚優希

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