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【俳句】何が面白いのか。

まず、私の俳句歴は2021年現在で五年ほどになります。
元々は小説における描写の技術向上に繋がるかと思い、始めました。

昨今は夏井いつきさんの活躍もあって少しは人気が高まったかにも見える俳句ですが、歴史を振り返ると「第二芸術」呼ばわりされたこともあるし、そうでなくても年寄りの趣味というイメージが強いものでしょう。

私もみずから勉強すると決めて始めたものの、正直に言えばあまり関心のなかった分野でした。
――が、一時期小説以上にのめり込むことになったのです。


私を虜にした俳句の魅力は、ゲーム性です。
「ゲームだと? 俳句は芸術だ!」とお怒りになる方もいるかとは思いますが、間違いなく俳句にはゲーム性が存在し、それは、俳句には強烈にあって、ほかの文学には薄い要素です。

〈ゲーム〉には、必ず優劣を競うという特徴があります。競技性とも言われますね。
勝敗を競うとか、得点を競うとか。『脳を鍛える大人のDSトレーニング』のようなゲームにさえ優劣を競う要素はあります。それは昨日までの自分との闘いです。
スポーツにも同じことが言えます。試合のことをゲームと呼ぶこともあるくらいですから。

そして、優劣を競うためには、そこにルール/法則/約束事がなければなりません。
ルールがなかったら競いようがありません。いや、厳密に言えば競うことはできますが、その競争は詰まるところ審判の好みの言い合いになるだけです。
何より、仮にルールが全く存在しなかったり、あってもそれが不明瞭・不明確なゲームだったら、それは明らかに面白くありませんよね? 見る方もやる方もつまらない。

小説にも約束事は当然あります。
”……” は沈黙や間を示すとか、鉤括弧の中は台詞であるとか。
ただ、それが明確に定義されており、かつ反論がほとんど存在しない内容であるほど、文章としての読みやすさ・体裁のためのルールに過ぎず、文学としての小説の定義や魅力に直接関係しているとは言い難いものです。

その点、俳句はそれを俳句たらしめる直接の要素ががっつり約束事になっています。

「五・七・五の定型があります」
「切れを意識しましょう」
「季語・季感を入れましょう」

しかも、これらは、俳句を知れば知るほど俳句の魅力に直結する要素でもあることがわかる。


俳句は十七音しかないから取っつきやすい、と語られがちですが、初心者にとって一番ありがたいのは、基本ルールが明瞭なことではないでしょうか。

ルールが明瞭だからこそ、創作慣れしていない人にも「どんな風にやってみればいいか」がわかりやすい。
ルールが明瞭だからこそ、良し悪しの解説にも納得しやすい。
ルールが明瞭だからこそ、皆がそれを共有(共通認識)できる。

そして、共通認識が明瞭だからこそ、そこにゲーム性が生じ、参加することが楽しくなりやすい。


文学としての俳句にも魅力はありますが、私はあえてゲームとしての俳句という楽しみ方をお勧めしたいです。

言葉でチェスをする――

そんな気持ちで俳句、始めてみませんか?




ちなみに、私の自作で他者に評価されたことのある句は、おーいお茶新俳句大賞の第二十七回、都道府県賞受賞作――

〈望郷の壁に残りし野球痕〉

でした。
はい。季語はありません。
おーいお茶新俳句大賞は受賞傾向がやや特殊かもしれませんが、プロであっても無季句を詠み、それが評価されることもあります。
ルールが魅力。しかし、ルールを崩すことも魅力になっていく。
俳句は奥が深いですよ!


以下、私が良かったと思う本を紹介しておきます。

まず、私が最初に手に取ったのはこちら。絶版かもしれませんが。
一通り俳句の考え方や手法が紹介されています。が、「プレバト見たから、ちょっとやってみようかな」くらいの方は、素直に夏井いつきさんの本を手に取った方がいいかもしれません。
こちらは、結構やる気まんまんの初心者向けな気がします。


次は歳時記(季語辞典)を二種類。
まずは『合本俳句歳時記』です。こちらは解説が特徴。
俳句の季語には、それぞれの季語が内包する伝統的な解釈・イメージがあり、それを知った上で(共通認識として)詠む(読む)ことが時に求められます。『合本俳句歳時記』はその共通認識の部分、伝統性の部分についての解説を含む歳時記になります。


もう一つは『増補版 いちばんわかりやすい俳句歳時記』です。
『合本俳句歳時記』とは収録されている季語に差異があることと、こちらは季語に関する解釈やイメージについては触れず、ただ日本語としての意味だけを注釈している点に特徴があります。


最後に、文語文法の基礎を解説した本です。
俳句でよく見かける「や」「かな」「けり」といった言葉は全て文語です。そして音数の限られる俳句においては、少ない音数に多くの意味を込めやすい文語を利用するメリットは絶大です。
無論、一口に文語と言っても、例えば平安時代の文語と現代人が俳句で使う文語は、その意味・位置づけが異なります。しかし、文語を使うのであればせめて活用や接続くらい正しくあるべきしょう。プロの俳人でさえ文語用法を誤っていることが稀にありますが、そこにこだわれないなら素直に現代口語で詠め、と個人的には思います。
『俳句のための文語文法入門』は、そのタイトル通り、俳句で用いる範囲に絞って文語文法をまとめてくれているので、非常にわかりやすく、再確認しやすいです。