マガジンのカバー画像

掌編旅行

44
これまでに書いたショートショート集。
運営しているクリエイター

2014年4月の記事一覧

noteがこわくなるときがある ―ショートショート―

前から思ってたことをショートショートに。

半分くらいはフィクションです。

………………

 noteが好きだった。

“note”――それはさまざまなものの創作と、人々の交流が一体となったサイトだ。右を向けばイラストを描く人がいて、左を向けば曲を作る人もいる。多種多様な人々に囲まれて、なんだか創作の新しいカタチを見ているかのようだった。

 話題好きな私はさっそくnoteのサービス開始日に

もっとみる

Starry sky ―ショートショート―

ひさびさにショートショートを書いてみました。

 

………………

 

 星空きらりの本名も星空きらりだけれど、彼女はそれを芸名だ、と言い張る。星空きらりは今をそれほどときめくわけでもないコスプレイヤーだ。今年で三十五になる彼女は、だからどうしたって自分の本名を明かせない。だってそうじゃないか、三十五のババアが星空きらりだ。それってもう、犬にネコって名前を付けてるようなもんじゃないか。だから星

もっとみる

雨音 ―ショートショート―

お題「外は晴れ、心は雨音」
(お題提供者 ヤマケン さま)

………………

 枯れた。

 地はひび割れ、水は乾き、木は枯れた。

「お父さん、のど渇い、たよ、頭いたい、よ……」

 日照りが続き、牛が死に、次いで人も死に始めた。私の村ではもう食料が尽きかけている。冷暗所に保存していた肉は底をつき、野菜類は乾きだした。そして水は、昨晩、消えた。

「我慢だよ、我慢。もう少しできっと、雨が降るはず

もっとみる

ノビルくんとチヂムさん。 ―ショートショート―

30秒で読める超短編。

………………

 のびのび育ったのんびり屋のノビルくんは伸びしろのある身長で今日も陽気に背伸びをします。

 チヂミ大好き縮れた髪の毛のチヂムさんは八時の約束があるというのに一時間の遅刻で大慌て。

 そんな二人が曲がり角でぶつかりました。

 そして何もなくなりました。

 おしまい。

………………

※ショートショートのお題、待ってます!10文字程度のお題をください

もっとみる

ママの知らない夏 ―ショートショート―

お題「おいしい麺類とおいしい君」
(お題提供者 大川七瀬 さま)

………………

 れいぞうこをあけると、やっぱりそいつがいた。

 冷やし中華。

 ママが作った冷やし中華。

 きょうも冷やし中華。

 きのうもおとといもそのまえも、冷やし中華冷やし中華冷やし中華、なんちゅーかもうイヤだ。

「冷やし中華」なのか「華を冷やし中」なのかもうわけわかんないくらい冷やし中華が冷やし中華でゲシュタル

もっとみる

葡萄前進! ―ショートショート―

お題、というか多田一穂さんに「これをタイトルで書いてみたら」と言われたので書いてみたいと思います。

きっかけとなったノートがこちらです

お題「葡萄(ぶどう)前進」

どうやらイラストかコミカライズしてくれるらしいです!(すごい!)
性格が悪いのであえて描きにくそうな話でも書こうかな!

………………

 ぴゅぼぅるるるるぅ。

「東より弾丸飛来! 衝撃に備えよ!」

 弾丸は、私の隣のリンゴ

もっとみる

モルモルモ! ―ショートショート―

お題「地底でフルスイング」
(お題提供者 モフモフ さま)

………………

 ――ん。痛い。

 庭で穴掘りをしていたときのこと。

 えっちらおっちら掘ってたら、頬に何かがぶつかった。小石的な。ひょっとすると穴掘りで石でも飛んだのかなとそいつを拾ってみると、どうもそいつは石じゃなかった。

「…………?」

 鼻くそみたいな野球ボールが、そこにはあった。

 工作に詳しくない俺でもわかることな

もっとみる

オレンジの丘。チョコレートの観覧車。 ―ショートショート―

お題「オレンジの丘。チョコレートの観覧車。」
(お題提供者 5ol.imo さま)

………………

 夢なら覚めて!と思ったら夢だった。

 エリエはとんでもない夢だったということはわかるのだけれど、どんな夢だったのかを忘れてしまっていました。ファンタジーな夢だったような気もするし、サスペンス映画のような緊張感もあった気がする。

 夢は氷だ。

 溶けてしまえば、夢の形は見えなくなって、でもそ

もっとみる

Essential ―ショートショート―

「かわいいは作れる」と誰かが言った。

 だから作った。

 整形した。

 私は誰よりもかわいくなった。

 ちやほやされた。

 するとどうだ。

 整形がばれた。

 叩かれた。

「あんたはかわいいわよ」ブスなマスミは汚らしい言葉で私の耳を陵辱する。「あたしだってあんたみたくなりたいもの」でも私は知っている。どれだけブスでもマスミは私のようにならないことを。マスミはブスだけど、整形は社会じ

もっとみる

きれいな桜の木の下には、 ―ショートショート―

お題「桜の木の下」
(お題提供者 禅野双鏡 さま)

………………

 さっちゃんの名前は佐藤千代子だけど、小学校の頃に先生が間違えて「サチコ」と呼んでからあだ名が「さっちゃん」になった。

 小さな頃のあだ名は理由なんてめちゃくちゃのくせに大人になっても残り続ける。

 蛸みたいなくちびるだから「チューやん」、小さいから「マメ」、名字が貝塚だから「ジョーモン」、坊主頭だから「ボウズ」、ムラっちは

もっとみる

彼の中には水がある ―ショートショート―

お題いただきましたのでそれでショートショートを書いてみたいと思います。

お題「江戸時代のペットボトル」
(お題提供者 nano kanta さま)

………………

 彼には何が起こったのかはわからない。

 しかし景色が激変したことだけは確かに理解した。空は相変わらず青かった。だがそこには飛行機は飛んでおらず、高いビルも、スカイツリーもなかった。

 ここはどこであるか。

 喧噪が聞こえる。

もっとみる

勝利と肥大の狭間 ―ショートショート―

 その様はまるで戦車であった。

 彼はずぶとく居座り、ビクともしない。「ふふん、君の力はそんなもんかい」とか言いそうなくらいに僕を見下しては傲岸不遜そのものだった。

 ええい、何のこれしきと僕は押す。

 が、やはり彼の巨体はビクともしない。その肉体が僕の攻撃をも跳ね返す。後退し、彼との間合いを取る。彼はその身体で体当たりをしてきた。重い衝撃が僕の前身を揺さぶる。

 脳みそがシェイクされてい

もっとみる

まーちゃん物語 ―ショートショート―

 まーちゃんは必死に『木』になりきっていました。

 両手をぐーっと左右に伸ばし、微動だにしません。太陽の光をたくさん浴びて光合成でもしそうなくらい、まーちゃんは『木』でした。

 おゆうぎ会では幼稚園のどの子たちも何らかの役を演じます。たとえば、ささきくんなんかは大きな段ボール製の剣を両手に持って勇者を演じ、その仲間の魔法使いはちーちゃんが演じています。ただ、敵役の大魔王はくみこ先生でした。両手

もっとみる

ソバ―ショートショート―

「蕎麦の打ち方というものを教えてください」

 そんな若造が後を絶たなかった。むろん、私は断る。

 私はこの方半世紀を蕎麦に捧げてきた。妻も持たず、子も作らず、自分の代だけの刹那な伝説として蕎麦を打とうと決めたのだった。だから誰にも私の技術を教えようなどとは考えもせず、それを懇願するものには首を縦に振ったためしがなかった。

 そば処『いただき』。私の店には従業員が私の他には居ない。それは

もっとみる